20話 作戦会議という名の挑発会議
「それで、どうするつもりなの?」
ほのかちゃんと別れた後。
屋上に残った私たちは、あらためて作戦を練る。
「ほのかちゃんに私と橘さんの関係を認めさせるとか言っていたけど、なにか考えがあるの?」
「もちろんだ。豪華巨大客船に乗ったつもりで任せろ」
「その船はタイタニック、とか言わないよね?」
「……」
「お願いだから黙らないで、不安になるから!」
「冗談だ」
桜の冗談はいつも笑えない。いい加減、そのことを自覚してほしいけど……問い詰めたら問い詰めたで、葵を困らせたいからわざとやっている、というような答えが返ってきそうだ。
「私は、篠宮さんの考えていることがなんとなくわかりました」
「え? そうなの?」
「はい。要するに、私たちの関係を見せつけよう……ということですよね?」
「その通り。橘伊織は理解が早くて助かる」
「え? え?」
「それに比べて、私の主は……はあ」
「今、私がバカにされたことだけはわかったわ」
睨みつけるけど、桜はしれっとした顔をしてスルーだ。
まったく、この子は……やっぱり、給料を減らそう。そうしよう。
「まあいいや。それで、どういうことなの?」
「橘ほのかは、橘伊織が葵に騙されていると思っている。それならば、疑いようのないくらい二人が愛し合っていることを証明すればいい」
「それって……」
「簡単に言うと、葵と橘伊織がデートをして、いちゃいちゃしているところを見せつける。そうすれば、橘ほのかは橘伊織のことを諦めて、葵に対するいやがらせもやめるはずだ」
「なるほど」
よくある、恋人のフリ、っていうヤツだね。
漫画やドラマで見かける度に、ベタな展開だなーなんてことを思っていたけど、まさか自分が体験することになるなんて。
……あれ?
ところで、この場合、どっちが彼氏でどっちが彼女になるんだろう?
まあ、普通に考えると、私が彼氏で橘さんが彼女なんだろうけど……うーん、私が彼氏って、なんかイヤだなあ。
「風祭くん、私たちの愛の力、ほのかに見せつけてあげましょう!」
「いや、別に愛し合っていないから」
「つれない……でも、そんなクールな風祭くんも素敵です」
薄々気づいていたけど、橘さんってめげない人だよね。ある意味、尊敬する。
「でも、恋人のフリなんて、うまくいくのかな?」
生まれて十六年、恋人がいたことなんてない。ついでにいうと、恋愛もよくわからない。
そんな私が、彼氏彼女の関係を演じることができるのかな?
「安心しろ。桜がサポートするぞ」
「具体的には、どうするの?」
「桜がデートプランを練るから、当日はその通りに行動してくれ」
桜のデートプラン……ちょっと不安だけど、自信たっぷりに見えるから、ここはあえて任せてみよう。
「桜の言うとおりにすれば問題ない、完璧」
「でも、なにか想定外のトラブルが起きた時はどうするんですか? 篠宮さんでも、予想できないことはあるでしょう?」
「その時は、これ」
どこからともなく、桜は妙な機械を取り出した。
「それは?」
「携帯用の無線機。これがあれば、離れていても連絡を取ることができる。なにかトラブルが起きたら、これで連絡をして対処する」
「それはいいけど……桜は、なんでそんなものを持ち歩いているの?」
「これくらい、侍女のたしなみ」
たしなみ……なのかな?
疑問に思うけど、まあ、桜のこと。いちいちツッコミを入れていたら、会話が成立しないので気にしない。
長い付き合いなので、桜の理不尽さにも、いい加減慣れてきた。
「とりあえず、これが私の考えた作戦だ。どうする?」
「うーん」
本当にうまくいくんだろうか?
桜なりに考えたみたいだけど、それでも、想定外のトラブルっていうものは起きるものだ。その可能性を考えると、どうしても不安になってしまう。
でも……マイナス要素ばかり気にしていても仕方ないんだよね。
時には大胆に。
時には不敵に。
どーんと構えて、物事に挑まないといけない時があると思う。
たぶん、今がその時なんだろう。
「……うん、わかった。私はやってみようと思う」
「賢明な判断だ。橘伊織は?」
「答えるまでもありません。風祭くんとデートをするチャンスをみすみす棒に振るような真似をするわけがありません」
なんか、趣旨がズレてるような……?
「では、決定ということで異論はないな?」
「うん、いいよ」
「ええ」
「決行は次の休日。なお、作戦名は『オペレーション・ラブファントム』とする」
「やたらおおげさな名前だけど、その意味は?」
「特に意味はない。ノリと直感で決めた」
「思った以上にどうでもいい理由だった!」
「これが気に食わないなら、『イチャイチャ大作戦らぶらぶちゅっちゅ』でもいいぞ?」
「ださい上に果てしなく恥ずかしい!」
「そうやって、いちいちツッコミを入れる方が桜は恥ずかしいと思うぞ?」
「誰がそうさせているの!?」
「葵だ」
「桜だからね!? いい加減、自覚してちょうだい!」
「桜が、高貴な人、ということをか?」
「真逆! ここまで曲解できるなんて、ある種の才能だよ!」
「そんなに褒めるな。照れる」
「もうどうにでもして……」
ツッコミ疲れて、私はため息をこぼした。
はあ……こんな調子で大丈夫なのかな?
「大丈夫だ、問題ない」
「あ、そう……」
なんか、ますます不安が強くなったけど、今更引き返せないわけで……
神様、どうかうまくいきますように。
思わず、神様に頼る私だった。
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