11話 帰り道と寄り道と
あっという間に時間が流れて、放課後。
私は橘さんと一緒に帰路を歩いていた。
一緒に帰りましょうと強引に迫られて、断りきれなくて……そして、今のような状況になってしまった。
「ふふっ」
二人きりだからなのか、橘さんは上機嫌だった。
ちなみに、気をきかせたつもりなのか、桜はどこかに行ってしまった。
こういう時こそ、傍にいてほしいんだけど……肝心なところで役に立たない侍女だ。まあ、確信犯なんだろうけどね。
今月の給料下げてやる。
「風祭くんと一緒に下校なんて、なんだか夢みたいです」
「そんな大げさな」
「いえ、前から一緒に帰りたいと思っていたんですよ? やっと、夢が叶いました。もう思い残すことはありません」
「なんか、遺言みたいだね」
「私、疲れました。とても眠いです……」
「本当に遺言!?」
「ふふっ、冗談ですよ」
「変なフラグを立てるのやめてほしいんだけど!?」
思わず、頭の中にあの名シーンが思い浮かんでしまった。
「心配してくれました?」
「心配したよ」
「好きだから?」
「そういう方向じゃないかな」
「それは残念。でも、諦めませんからね? 風祭くんが音を上げるまで、何度でもアタックしますから」
「それは、今みたいな冗談を、っていう意味じゃないよね? 普通にアプローチする、っていう意味だよね?」
「……あら、こんなところに綺麗なお花が」
「花なんてないからね!? 話を逸らさないで!」
「花は咲いていますよ。橘くんの頭の中に」
「私の頭がお花畑!? 本当に私のこと好きなの!?」
橘さんのメンタルは、鋼鉄でできているんじゃないかな?
そんなことを思わずにはいられなかった。
「橘さんって、案外、いたずらっ子なんだね」
「好きな人の前では、そんな風になってしまうんです」
「……」
「照れました?」
「照れてません!」
ウソです。本当は照れました。
うー……橘さんの言葉は、一つ一つ、私の心をくすぐるんだよね。
「風祭くん。せっかくだから、どこか寄り道しませんか?」
「寄り道かあ……」
橘さんと二人きりっていうのが少し気になるけど……ここで断るのもちょっとかわいそうな気がするし、ちょっとくらいならいいかな?
「うん、いいよ」
「やった」
橘さんはうれしそうに、小さくガッツポーズをした。その仕草は、妙にかわいらしい。
「じゃあ、どこに行きましょうか? ショッピングモールをふらふらしてみます? 川沿いの自然公園をのんびり散歩するっていうのもいいですよね。隣町まで足を伸ばしてみる、という選択肢もありますよ」
「うーん、迷うね」
「それとも、ホテルに行きますか?」
「ほ、ホテっ……!」
不意打ちの発言に動揺して舌を噛みそうになった。
「風祭くんは、私とホテルに行きたくないんですか……?」
「そ、そんなところに行くなんて、私たちはまだ早いっていうか、健全じゃないっていうか……」
「大丈夫ですよ。気後れするのは最初だけで、一度行ってしまえば慣れてしまいますよ。大体、クラスのみんなの大半は行ったことあると思いますよ」
「ええ!? そんなに経験している人がいるの!?」
「気軽に行きますからね。今日ホテルに行かない? うん、行く行く……というように」
「すごいフランク!? 軽いっ、軽すぎるよ!」
「女の子同士でも行くことがありますよ」
「禁断の世界!」
「男の子同士でも、たまにあるみたいですね」
「想像しちゃった! 私、汚れちゃった!」
いったい、いつの間にそんなことに……
それが、今の当たり前?
私、考え方が古いのかな……?
「だ、だ、だからって、そんなところに……私は、やっぱり……」
「一度、風祭くんと行ってみたかったんです」
「う……」
「……駅前にあるホテルのカフェテリアのケーキはとてもおいしくて、その上、カップルで入ると割引されるんですよ」
「……ケーキ?」
「はい、ケーキです」
にやにやと、橘さんは意地の悪い笑みを浮かべた。
「どうしたんですか? なにか変な想像でもしたんですか?」
「う、く……」
見える。
橘さんの背中に、小悪魔の羽根と尻尾が見える。
「くすっ」
うろたえる私を見て楽しそうな顔をした橘さんは、ぺろりと舌を出した。
「風祭くんの反応がかわいいから、ついついからかってしまいました」
「あのね……」
怒るより先に、なんだか疲れてしまった。
それに……
「ふふっ、ごめんなさい」
この笑顔を見たら、なんだか気が抜けてしまった。
からかわれたことに対する苛立ちなんて、どこかに消えてしまう。
橘さんはずるい。
私は唇を尖らせた。
「まったくもう……怒るよ?」
「ごめんなさい。風祭くんを見ていると、ついついからかいたくなってしまって」
「それって、私がいじりがいがある、っていうこと?」
「いえ、そうではなくて、子供と同じようなものですよ」
「子供?」
「小さい男の子は、好きな女の子にちょっかいをかける、っていうじゃないですか。それと同じような感覚ですよ」
「そ、そうなんだ」
橘さんは子供のように無邪気な笑みを浮かべていて、その顔はとても魅力的だったから……
遠回しに好きと言われて、ちょっとだけ動揺してしまった。
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