01話 プロローグ
空を見上げれば、朱色の夕焼け。
地平線の向こうに、ゆっくりと沈んでいく太陽。
街を覆うように、鮮やかな赤がどこまでもどこまでも広がっていた。
「えっと……」
学校の屋上。
私の前に、見知らぬ男子生徒が立っていた。
「あの……その……」
男子生徒は、落ち着かない様子で視線をあちこちに飛ばしていた。たぶん、緊張しているんだろう。
そんな男子生徒を見ていると、私も緊張してしまう。ドキドキする。
「よし!」
ややあって、男子生徒は私をまっすぐに見つめた。
瞳に決意の色が宿る。
「風祭先輩のこと、一目見た時から気になってました。風祭先輩は、下級生の俺のことなんて知らないと思うけど……でも」
一度、そこで言葉を切る。
心を落ち着けるように、深呼吸を一回。
そして……残りの言葉を一気に口にする。
「好きです! 俺……風祭先輩のことが好きなんです! 付き合ってください!」
「えっと……その」
「突然のことで悪いって思いますけど、できれば今、返事を聞かせてくれませんか?」
男子生徒の目は、期待と不安に揺れていた。
そんな目を見ていると、申し訳なくなる。
だって……私は、彼の期待に応えないのだから。
「ごめんなさい。あなたと付き合うことはできません」
「あ……」
断りの言葉と共に、ぺこりと頭を下げた。
男子生徒は、傷ついたような顔をした。
反射的に目を逸らしてしまいそうになる。
でも、我慢した。
傷ついた彼を見ることは辛いけれど……これは、私が選んだ答えだ。ここで逃げるわけにはいかない。
「ごめんなさい」
「そう……ですか」
もう一度頭を下げると、男子生徒は唇を噛んだ。
悔しそうにして、辛そうにして……そして、ふっと体の力を抜いた。
「なんとなく、そんな気はしてたんですけ……やっぱり、ダメですか」
「その……ごめんなさい。本当に」
「そんなに謝らないでください。別に、風祭先輩が悪いわけじゃないですから」
これ以上謝っても、男子生徒に辛い思いをさせるだけだ。
私は謝罪を止めて、口を閉じた。
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れた。
時間が止まったように動くことができない。
……だけど、いつまでもこうしていても仕方がない。
重い空気を振り払うように、私は一歩下がる。
「それじゃあ、私はこれで……」
「あっ……すいません。待ってください!」
「えっと……なんですか?」
「一つだけ教えてくれませんか? その、俺のどこがダメなんですか?」
告白を断る理由はある。好みじゃないとか気が乗らないとか、そんな曖昧な理由じゃない。
……というか、それ以前の問題なのだ。
たぶん……というか、ほぼ間違いなく、男子生徒は私のことを詳しく知らない。私の素性……本当の姿を知らない。
学年も違うし、入学してそれほど経っていないから仕方ないと思うけれど……
男子生徒が私の正体を知れば、きっと驚く。そして、期待を裏切られたような気持ちになってしまうだろう。
でも、きちんと説明しないと。
それが、男子生徒に対する誠意だと思うから。
「あのね、あなたは勘違いをしているよ」
「それは、どういう……?」
「実は……私、男なんだ」
…………
沈黙が流れた。
私は苦笑して。
男子生徒は目を丸くして。
しばらくの間、なんともいえない空気が辺り一帯を支配する。
そして……
「えええええぇっ!?」
男子生徒の驚きの声が屋上に響き渡るのだった。
ラブコメを書いてみたいと思い、普通じゃつまらないので、主人公を男の娘にしてみました!
基本的に、毎日更新していきます。
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