悟
投稿がかなり遅くなってしまいました。
読んでくださっている方、申し訳ありません。
海へ行った日、俺と悟は3日後に会う約束をして別れた。あの日はあまり遅い時間になってもということでわりとすぐに家に帰ったのだが、今日は午前から悟と待ち合わせだ。何やら話したいことがあるらしいが、これもデートと呼べるのだろうか。
デート、という多くの恋人たちにとって当たり前のことをしたかった。悟の乗り気じゃない様子に悲しくなった。でも、今ならあの時よりも俺たちの仲は深まったように思う。もしかしたら気が変わって、外でデートするのもいいな、なんて思ってくれたのだろうか。
「実、来るの早いな」
悟が軽く走ってやって来る。
「今来たとこだよ」
「今日は、ちょっと話したいことがあるから……」
人が少ない所の方がいいだろうと思い、近くの神社を提案する。
「ああ、ちょうどいいな」
頷いて言った悟が、こちらに手を差し出してくる。
「少しだけなら大丈夫」
「ん……」
悟の言葉と周囲の人気のなさに背中を押され、そっと悟の手を握る。悟がほっとした顔で俺の手を握り返す。真夏の暑さのせいか、繋いだ手はとても熱かった。汗でべとべとになりそうだな、と思ったけれど、そんなことどうでもいいくらいに嬉しくて、少しでも長くこの時間が続けばいいのにと思ってしまう。
「暑いわぁ」
「ほんとにねぇ……」
神社の石段には、涼みに来たらしい二人の女性が並んで腰掛けていた。近所の人だ。
俺たちは慌てて手を離し、少し距離を取る。
「こんにちは」
黙っているのも失礼だと思い、こちらから声をかける。
「あらあら、実ちゃんじゃない。悟くんも一緒なのね」
「……二人とも大きくなったねぇ。しばらく見ない間に背がうんと伸びて」
「今も仲良しなのねぇ。小さいときはよく一緒に遊んでいたけど」
二人から返事をする間もなく話が飛んでくる。にっこりと微笑んでいる悟を見習い、俺も微笑み、時々頷くだけに留めておく。
「ああ、あんまり遅いと父ちゃんが心配するわ。そろそろ失礼するわね」
「またねぇ」
二人はゆっくりと立ち上がり、一歩一歩石段を降りていく。その姿を見送った後、俺たちも並んで石段に座った。
「……今日は、話があって」
「うん」
悟は、静かに話し始めた。
「俺は、最初に言っとくけど、実がすごく好きで。だから色々なことを実としたいし、家じゃないデートも……、したいと思ってる。前に言われたとき、ほんとは嬉しかったんだ。実も同じこと考えてくれてたんだなって」
悟は一度唇を噛んだ後、また話し始める。
「でも……、外でデートするってことは俺たち以外の人がいるわけで、手も繋げないし。俺はせっかく実といられるならくっついてたい」
ちょっと照れた顔で言うから、こっちまで恥ずかしくなる。でも、悟の素直な気持ちを聞けた気がして嬉しい。
「……俺は見られても気にしないけど」
「…………俺だってそうだけどさ。多分、そんなに簡単な話じゃないんだと思う。学校でも普通にいられないだろうし。……俺は、実の学校生活まで奪いたくない」
悟は、本当に真剣に俺たちのことを考えてくれているのだ。それに比べて俺は何をしていたのだろう。外でデートしたい、とか。したいということばかりで、それがどういうことになるのかを全く考えていなかったのではないか。そればかりか、悟が真剣に考えてくれていたことに気付きもせず、小さな不満すら抱いていた。
「実……?」
悟が顔を覗き込んでくる。
「あっ、ごめん」
「いや……、大丈夫か?」
「うん。…………悟、ごめん」
「え、何が」
「俺、ちゃんと考えずに……」
悟は最初、何のことだかわからないという顔をしていたが、話の流れで俺が以前にデートがしたいと言ったことだと理解したようだ。悟はなぜかにこっと笑った。
「実、門限何時?」
「え……、特にないけど8時とかかな」
「じゃあ、今日も8時まで大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「7時半にここ集合な」
俺は何のことだかわからず、首を傾げて悟を見た。そんな俺に、悟は得意げな顔でにやりと笑う。
「デート、するんだよ」
「……デート?」
「30分だけだけど、その時間ならこの辺りは人少ないから大丈夫だと思うし……」
「悟……」
嬉しすぎて、悟が優しすぎて、泣いてしまいそうになる。言葉の続きを待っている悟に、小さな声でありがとう、と言うのが今の俺には精一杯だけど。俺のことをこんなにも思ってくれる悟に、俺の全部で応えたいと心の底から思った。
読んでくださりありがとうございます。
『デート』は、あと2話で終わる予定です。
ペースを上げられるよう頑張ります…!