ヒロとアキラさん
投稿が遅れて申し訳ありません…。
今回は、ヒロ・視点での話になります。
話を分けたくなかったので、いつもより長めです。
よろしくお願いします。
実と悟が帰った後、俺はアキラさんに気持ちを伝えた。
『俺、アキラさんが好きだよ』
アキラさんは特に驚いた様子もなく、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら言った。
『そうか、俺も好きだぞ』
その一言には素直に喜ぶことができなかった。俺の好きとは意味が違うとわかっていたから。想いを告げれば、答えが返ってくるものと勝手に思っていた。その答えが、俺を受け入れるものでも、拒むものでも。長い間積み重ねてきたどうしようもない想いを、どこか適当な場所に収めることができる。ーーそう思って言ったのに。俺の気持ちは、アキラさんに伝わらなかった。それどころか、いい笑顔で『俺も』なんて。でも、そうじゃない、と言うことができなかった。はっきりさせることを望んではいても、振られるのは怖い。いい答えしか聞きたくないなんて、我儘だとはわかっているけれど、正直猶予を与えられたことに少し安心してしまっていた。
「おーい、ヒロ。風呂沸いたぞ」
一階からアキラさんが呼んでいる。いつも通りの顔を作り、階段を降りていく。
「ちゃんと布団、敷けたか? この間洗ったばかりだから、安心しろよ」
「うん、ありがと」
「風呂、沸いたから。先に入りな」
ぽん、とタオルと着替えを渡される。風呂から出たら、もう一度言おう。そう心に決めて、俺は風呂場へ向かった。
熱いシャワーを体に叩きつけるように浴びて、自分自身を奮い立たせる。今日言わなければ、意気地のない俺は多分もう一生言えなくなる。アキラさんが好きだ。ずっと胸にあるこの想いを、今日こそは伝えたい。
風呂から上がり、体を拭いて服を着る。脱衣所を出ると、アキラさんがソファでテレビを観ていた。
「おう、上がったか」
「……アキラさん」
「あ、髪ちゃんと乾かしてないだろ。こっち来い、やってやるから」
アキラさんは、タオルを一枚取って再びソファに座る。俺はその前に大人しく座った。背後から、わしゃわしゃと頭をかき混ぜられる。
「なんか今日、大人しいな」
「……そうかな」
「遊び疲れたか。はしゃいでたからなぁ」
「んー、そうかも」
髪を拭いてもらったら、すぐに言おう。今日はアキラさんの脚の間に座っていても、ドキドキする余裕はない。
「よし、終わったぞ」
「ありがとう」
立ち上がり、アキラさんと向き合う。
「アキラ、さん」
声が震える。アキラさんが不思議そうな顔で俺を見る。
「俺、アキラさんのことが好きなんだ」
「……さっきも言ってたな」
「え、と……、そうじゃなくて」
「うん?」
「その……、恋愛対象として好きっていうことで」
「…………そうか。まぁ、知ってたけどな」
「え……」
どういうことだろう。アキラさんが俺の気持ちを知っていた? アキラさんに伝えたのは今日が初めてのはずなのに。
「なんで……?」
「ずっとそういう目で見られてたら、嫌でも気付く」
「う、そ……、じゃあ、ずっと知ってたの?」
「まぁな」
アキラさんは当たり前だというように頷いてみせる。恥ずかしい。アキラさんが俺の恋心を知っていたのなら、今まで散々悩んできたのは何だったのだろう。それに、どうしてアキラさんは普通に接してくれていたのだろう。気持ち悪いとか迷惑だとか、思わないのだろうか。
「……俺のこと、嫌いになった?」
「なるわけないだろ」
「でも、俺、アキラさんのことそういう目で見てるし……」
「ああ、別に不快に思ったことはねぇ」
アキラさんは、優しい。そんなこと、ずっと前から知っているけれど、やっぱり本当に優しい人だと思う。きっと、これからもずっと俺の叔父さんとして普通に接してくれる。
「ヒロがいいならいいけど、……好きな奴と付き合いたい、とか思わないのか? 俺はてっきりそう言われると思ってたんだが」
「え……」
「それとも、そういうのとは違うのか」
「やっ、違わないけど!」
慌てて否定する。そこまで考えていなかった。だって、気持ちを伝えたら全てが壊れることも覚悟していたから。結局は、そんな覚悟はなかったんだろうけど。だから、今まで通りでいられることに安堵していたのに。これ以上を期待したくない。でも、アキラさんの言葉に、態度に、もしかしたらと期待してしまう。
「別に、付き合ってくれるわけじゃないじゃん……」
「そうだな……。こうも歳が離れてるとな」
「俺は気にしないよ」
「俺が気にすんの」
「じゃあ、気にしないで」
ちょっといい答えがもらえそうな雰囲気に、押さずにはいられない。そんな俺の頭を、アキラさんの手がぽんぽんと軽く撫でる。
「まぁ、取り敢えず高校卒業したら、ってのはどうだ? もちろん、お前の気持ちが変わらなければだがな」
「えっ……、いい、の?」
「ああ。卒業したらな」
卒業したら、の部分を強調して言う。アキラさんは、それまでに俺の気持ちが変わると思っているのだろうか。そんなこと、あり得ないのに。今までの長い片想い期間に比べたら、卒業まで待つことくらい、どうってことない。それに、条件付きでも俺の想いに応えようとしてくれているのが、すごく嬉しい。
「俺、風呂入ってくるから」
「うん」
風呂場に向かう背中を幸せな気分で見送りながら、俺は悟たちへ報告する内容を考えるのだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
高校卒業が待ち遠しいヒロです。