電車
引き続き、実・視点です。
風が髪を揺らす。電車がホームに入ってくる。
「今日、これからーー」
「……なんか言った?」
電車の音で悟の声がかき消される。悟は何でもない、というふうに首を横に振った。電車の中は空いていて、俺たちは座席に並んで座る。一緒に乗り込んできた、女子高生らしきグループの甲高い笑い声が車内に響き、自分たちがずっと黙っていたことに気付かされる。電車が動き出し、いくつかの駅を通り過ぎても、二人とも口を開くことはなく、焦りに似た感情が体の内側に渦巻く。隣を見ると、悟は膝に置いた手をぎゅっと握りしめている。ただじっと床だけを見つめる目は、考え込んでいるようにも、何も考えていないようにも見えた。
「……悟」
小さな声だったが聞こえたらしく、悟はゆっくりと視線をこちらへ向ける。
「これから、時間ある?」
「……………ある」
「さっきの、これで合ってる?」
「……合ってるよ」
何故、言い直さなかったのか問おうとして、やめた。聞かなくてもわかる気がした。不安なのは俺だけじゃなくて、悟も同じなのだろう。不安から深読みしてしまうのも多分、同じで。
「実、降りるよ」
すでに立ち上がった悟が、手招きしている。改札を出た後で、これだけは絶対に言おうと思っていた、と悟は笑いながら教えてくれた。
読んでくださり、ありがとうございます。
ヒロ&アキラさんのことも含めて、もう少しこの話は続きます。