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タキオンの孤独 2



「天ぷらっていうのはね、エビとか野菜に衣を付けて油で揚げた料理なんだ。すっごく美味しいんだよ」

「初めて聞きました、何処の料理なんですか?」

「日本――いや、俺が昔住んで他地域で食べられてた料理だよ」


 話しながら暗い道を歩く二人。完全にオフの空気。

 これから、命の危機にさらされることを二人はまだ知らない――。



 いつもの帰り道、見慣れた道――その日は見慣れないものが置かれていた。

 道の真ん中に細長いシルエット。胸の前で手を合わせた女性の姿。こんなところで誰に祈っているのだろう――目撃した人間は、きっとそうは思わない。なにせ、身長が優に二メートルを超えている。近くで見ればすぐ気づく、女神の像である。

 こんなところに置いて、邪魔だろう――誰もがそんな感想を持つに違いない。しかし、


「あれは――」


 彼女に限って、そんな呑気な感想は持ちえない。


「コイドさん、気を付けてください――」


 ロカの表情が一瞬で引き締まる。彼女は目の前の女神像に見覚えがあった。

 数か月前、ブラクコンティーン近郊の森でのこと、村を襲った族のアジトに乗り込んだ時、彼女はあれに襲われた。ブーズステュー公爵領地が誇るヴィルトラージ騎士団の兵士と共闘し立ち向かったが、仕留めるどころかやられる寸前まで追い込まれたのだ。

 小井戸は突然雰囲気が変わったロカを見て戸惑っていた。これから何が起こるんだ――と。

 その時だった――女神像の目に緑色の光がボウッと灯る。つづいて、膝から下が縦に三又に分かれ、その先端に小さな光の輪が表れた。合唱していた手がだらんと落ち――、


「来ます」


 ロカが呟くとともに、女神像が足に展開した六つの光の輪を高速で回転させ、二人の方に突っ込んできた。

 ロカは素早い身のこなしで、小井戸はズッコケるように、その突進を躱した。

 背後で方向転換する女神像を横目で見ながら、小井戸は声をあげる。


「な、なんだよあれ」


 ロカは体制を整えつつ、


「魔法兵器、戦車です――早く対処しないと大変なことになります」


 ブラクコンティーン近郊の森に現れた二台の戦車は一瞬で一つの村を火の海に変えてしまった。小井戸はその現場に居たと言えばいたのだが、巨大な鳥に捕まって空を飛んでいたので動いている戦車は初見だ。

 きわどいタイミングで間に合ったアーネットの奮闘がなければ、村どころかブーズステュー公爵領地すら更地に変えられていたかもしれない。

 そんな強大な力を持った戦車がルドラカンドに現れた――とてつもない危機だ。

 しかし状況を呑み込めていないのか小井戸は、


「俺に任せて」


 軽い調子で戦車の方に走っていった。


「コイドさん、ダメです!」


 予想外の行動に反応が遅れ、ロカは静止に入るタイミングを逸する。

 小井戸は迷いなく戦車に近づいていく。走りながら、彼にしか聞こえない声と会話していた。


「行ける――よね?」

『無鉄砲な奴。しかし、まあ今回の判断は上等だ。あれは危ねえ――死んでも構わねえお前が体張って処理するべきだ』

「再三いうけど、死んだら痛いんだよ……」


 ゾッとしつつも、小井戸は走る。

 折り返して、再び二人を襲おうと突進を始めた戦車の動線に入り、正面からぶつかる覚悟だ。


――そして、二人の影が交差する。


 というより、


「ウゴッ――――」


 小井戸が跳ね飛ばされた。お互いの運動エネルギーが正面衝突して軽い小井戸が弾かれたのだ。

 少し離れた場所で見ていたロカは目を覆いたくなる。小井戸の体が恐ろしく頑丈なことを知ったうえで「痛そう……」と思ってしまうような、当たり方だった。

 誰が見ても、小井戸が負けたように見えるが真実はその逆――彼が持つ魔法名”未来”は敵に触れるだけでその効力を発揮する。


――ポンッ――


 気の抜けた軽い破裂音と共に、戦車が煙に包まれ一瞬姿が見えなくなる。ゆっくりと煙が霧消する――すると、そこには小さな銀色の塊が転がっているだけで、戦車の姿は無くなっていた。


「おおおお……痛てえ」

「――コイドさん」


 もんどりうって地面に転がる小井戸をロカが抱き起こす。


「大丈夫ですか?」


 痛みに顔を歪めているが、それほど重大なダメージを受けている風ではなかった。


「平気平気、いやあ――何とかなってよかった」


 ヘラヘラと笑って見せる。


「まったく、無茶するんだから――」


 ロカは呆れながらも、彼の勇気を心の中で称えていた。



 *


 

 戦車を倒し、切迫した危機は去った――しかし、だからといって、めでたしめでたしとはいかない。なぜ戦車が表れたのか――誰がどんな目的で戦車を寄越したのか。確かめなければいけないことは山ほどある。

 敵は都市を一瞬で壊滅させるほどの超兵器である。早急に対策しなければならない。

 果たして、敵の黒幕は誰なのか――彼らは真実にたどり着くことができるのか。

――というモノローグが聞こえそうな場面なのだが……。

 男の登場で、思いもよらない方向に事態が転ぶ。


「やあ、僕はバスウッド=カーペンター。戦車を作ったのは僕、戦車に君たちを襲わせたのも僕――しっかし、こうもあっさり倒されるとはなあ」


 ロングコートを着込んだ細身で長身の男が、軽い足取りでやってきた。

 戦闘を終えたばかりの二人はポカンと男を見ていた。こいつはないを言ってるんだ……。そういう顔。


「いやあ、僕ってば悪いやつだなあ――人様に迷惑をかけて、なんなら町一つ壊してしまおうと思ってたんだからなあ――反省しないといけないね、うん。さあ、僕を捕まえてくれたまえ!」


 意気揚々と手首を差し出してくる。いわゆる”お縄”のポーズである。


「…………」

「…………」


 小井戸とロカは驚きを通り越して、もはや引いていた。


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