ドローエマグの魔道書 14
マローダは複雑な感情を抱いていた。
小井戸と二人で出かけて行ったメイカ。少し嫌な気持ち。私も小井戸と一緒に居たい。どうしてメイカなの? 嫉妬の感情。
しかし、その反面――それでいいと思う自分もいる。突然現れた自分と瓜二つの女の子。マローダには彼女の気持ちがある程度分かる。孤独や不安、焦り――なぜ分かるのか、それは本人にもよく分からない。しかし、確信している。メイカは揺れている。自分に対しての疑問、小井戸への気持ち、そして私にも……。
きっとこのままじゃいけない。全員の気持ちが裏切られない道を選ぶことはできない。何処かで誰かが諦めなければ元の世界に戻ることはできない。
小井戸とメイカが出かけた日、マローダは仕事をこなしつつ考えていた。自分にとって一番いい結末はどんなものか。
しかし、結論は出ない。同じところをクルクル回って、結局また振出しに戻る。堂々巡りだ。夜になり、仕事が終わり、自分の部屋に帰ってからもマローダは堂々巡りを続けた。
もうやめよう――これ以上は無駄かもしれない。頭の芯がしびれ、ベッドに横たわる。
メイカが帰ってきたのは、そんな頃だった。
「た、ただいま――マローダちゃん、まだ起きてたんだ」
どこか申し訳なさそうな態度。可笑しくて笑ってしまう。そんなに遠慮することないのに。きっと私が怒っていると思っているんだろう。
私は起き上がります。
「お帰りなさい。楽しかったですか?」
私が聞くとメイカは「う、うん」とはにかんでいた。感情を隠そうとして、失敗した感じだ。よっぽど楽しかったんだろう。うーん……やっぱり嫉妬しちゃうかな。でも、
「それはよかったです」
そう言うことができた。心から。
小井戸への気持ちは捨てきれない。でも、二人が付き合うなら、それはそれで――と思えてしまう私がいる。
――誰かが我慢しなければいけない。
その役に適任なのは私なのかもしれない。なんとなくそう思った。
「ね、ねえマローダちゃん、これ――」
ぽつぽつ考えていると、メイカが大きな紙袋を抱えて私の方にやってきた。
「何ですか、これ?」
「お土産だよ。小井戸くんが買ってくれたの」
「私にですか――」
抱えられるほどの大きさ、少し戸惑いつつ受け取る。開けてみて――と言うので、包みを開く。
中身は、チョコレート色のクマのぬいぐるみだった。
「可愛い……これ、もらっていいんですか?」
「うん。で、でも、ゴメンね――買ってくれたのは小井戸くんだけど、私が選んじゃった」
変なところを気に掛けるメイカ。
「他にどんなクマさんが居たのか知りませんが、私もこの子を選ぶと思います。私たち、好みが似ているかもしれませんね。選んでくれてありがとうございます」
ギュッとぬいぐるみを抱きしめる。
*
ベッドが二つ並ぶ寝室、とてもよく似た少女二人。
マローダが聞きたいと言ったので、メイカは今日一日のお土産話をした。すでに深夜、ちょっとした夜更かし。楽しそうに身振り手振りを交え話すメイカ、ぬいぐるみを抱きしめた体制で相槌を打つマローダ。誰がどう見ても仲のいい姉妹である。
「私ね、もう胸がいっぱいになっちゃったみたい。きっと幸せなんだとおもう」
「良かったですね。私もコイド様に幸せをもらいました。メイカの気持ちは分かります」
遺跡で目覚めたとき、どうしようもなく心細かった。立っているのもやっとだった。小井戸はそんな私を抱きしめて、安心しろ――と言ってくれた。最初は、感情が不安定だった。でも、今では図書館の仕事を与えられ、充実した毎日を送っている。これで幸せじゃないといったら罰が当たる。
「私たち、見た目だけではなく中身も似ているかもしれませんね」
「うん、そうかも」
二人で声を合わせて笑ってしまう。
それからも色んなことを話した。話題のほとんどは小井戸についてだったが、お互い、核心部分には触れなかった。ただ楽しい時間。
どれくらい時間がたっただろう――不意にメイカが欠伸を一つ。
「そろそろ寝ましょうか。明日も仕事があります」
「うん、そうだね。今日はいい日だったなあ……小井戸くんとお出かけできたし、マローダちゃんといっぱいお話ししたし――ホント幸せ」
「ウフフ、また言ってます。今日だけで何回”幸せ”と言ったんでしょうね」
マローダはランプを消しつつ言った。
「だって、本当に幸せなんだもん」
暗くなった部屋――メイカは布団をかぶって枕を抱きしめる。
マローダも布団に入り、目を閉じる。枕元にはぬいぐるみが置かれている。
「おやすみなさいメイカさん」
「おやすみマローダちゃん」
沈黙が落ちる。
数秒後――眠りかけていたマローダの耳に小さな声が届く。
「私ね、小井戸くんもマローダちゃんも同じくらい大好き」
可愛いことを言う。そう思いつつマローダも小声で、
「私もです」
短く返す。
「そっか……それなら――きっと大丈夫だよね」
そこで会話は途切れる。二人は眠りについた。




