表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/253

ドローエマグの魔道書 14



 マローダは複雑な感情を抱いていた。

 小井戸と二人で出かけて行ったメイカ。少し嫌な気持ち。私も小井戸と一緒に居たい。どうしてメイカなの? 嫉妬の感情。

 しかし、その反面――それでいいと思う自分もいる。突然現れた自分と瓜二つの女の子。マローダには彼女の気持ちがある程度分かる。孤独や不安、焦り――なぜ分かるのか、それは本人にもよく分からない。しかし、確信している。メイカは揺れている。自分に対しての疑問、小井戸への気持ち、そして私にも……。

 きっとこのままじゃいけない。全員の気持ちが裏切られない道を選ぶことはできない。何処かで誰かが諦めなければ元の世界に戻ることはできない。



 小井戸とメイカが出かけた日、マローダは仕事をこなしつつ考えていた。自分にとって一番いい結末はどんなものか。

 しかし、結論は出ない。同じところをクルクル回って、結局また振出しに戻る。堂々巡りだ。夜になり、仕事が終わり、自分の部屋に帰ってからもマローダは堂々巡りを続けた。

 もうやめよう――これ以上は無駄かもしれない。頭の芯がしびれ、ベッドに横たわる。

 メイカが帰ってきたのは、そんな頃だった。


「た、ただいま――マローダちゃん、まだ起きてたんだ」


 どこか申し訳なさそうな態度。可笑しくて笑ってしまう。そんなに遠慮することないのに。きっと私が怒っていると思っているんだろう。

 私は起き上がります。


「お帰りなさい。楽しかったですか?」


 私が聞くとメイカは「う、うん」とはにかんでいた。感情を隠そうとして、失敗した感じだ。よっぽど楽しかったんだろう。うーん……やっぱり嫉妬しちゃうかな。でも、


「それはよかったです」


 そう言うことができた。心から。

 小井戸への気持ちは捨てきれない。でも、二人が付き合うなら、それはそれで――と思えてしまう私がいる。

――誰かが我慢しなければいけない。

 その役に適任なのは私なのかもしれない。なんとなくそう思った。


「ね、ねえマローダちゃん、これ――」


 ぽつぽつ考えていると、メイカが大きな紙袋を抱えて私の方にやってきた。


「何ですか、これ?」

「お土産だよ。小井戸くんが買ってくれたの」

「私にですか――」


 抱えられるほどの大きさ、少し戸惑いつつ受け取る。開けてみて――と言うので、包みを開く。

 中身は、チョコレート色のクマのぬいぐるみだった。


「可愛い……これ、もらっていいんですか?」

「うん。で、でも、ゴメンね――買ってくれたのは小井戸くんだけど、私が選んじゃった」


 変なところを気に掛けるメイカ。


「他にどんなクマさんが居たのか知りませんが、私もこの子を選ぶと思います。私たち、好みが似ているかもしれませんね。選んでくれてありがとうございます」


 ギュッとぬいぐるみを抱きしめる。



 *



 ベッドが二つ並ぶ寝室、とてもよく似た少女二人。

 マローダが聞きたいと言ったので、メイカは今日一日のお土産話をした。すでに深夜、ちょっとした夜更かし。楽しそうに身振り手振りを交え話すメイカ、ぬいぐるみを抱きしめた体制で相槌を打つマローダ。誰がどう見ても仲のいい姉妹である。


「私ね、もう胸がいっぱいになっちゃったみたい。きっと幸せなんだとおもう」

「良かったですね。私もコイド様に幸せをもらいました。メイカの気持ちは分かります」


 遺跡で目覚めたとき、どうしようもなく心細かった。立っているのもやっとだった。小井戸はそんな私を抱きしめて、安心しろ――と言ってくれた。最初は、感情が不安定だった。でも、今では図書館の仕事を与えられ、充実した毎日を送っている。これで幸せじゃないといったら罰が当たる。


「私たち、見た目だけではなく中身も似ているかもしれませんね」

「うん、そうかも」


 二人で声を合わせて笑ってしまう。

 それからも色んなことを話した。話題のほとんどは小井戸についてだったが、お互い、核心部分には触れなかった。ただ楽しい時間。

 どれくらい時間がたっただろう――不意にメイカが欠伸を一つ。


「そろそろ寝ましょうか。明日も仕事があります」

「うん、そうだね。今日はいい日だったなあ……小井戸くんとお出かけできたし、マローダちゃんといっぱいお話ししたし――ホント幸せ」

「ウフフ、また言ってます。今日だけで何回”幸せ”と言ったんでしょうね」


 マローダはランプを消しつつ言った。


「だって、本当に幸せなんだもん」


 暗くなった部屋――メイカは布団をかぶって枕を抱きしめる。

 マローダも布団に入り、目を閉じる。枕元にはぬいぐるみが置かれている。


「おやすみなさいメイカさん」

「おやすみマローダちゃん」


 沈黙が落ちる。

 数秒後――眠りかけていたマローダの耳に小さな声が届く。


「私ね、小井戸くんもマローダちゃんも同じくらい大好き」


 可愛いことを言う。そう思いつつマローダも小声で、


「私もです」


 短く返す。


「そっか……それなら――きっと大丈夫だよね」


 そこで会話は途切れる。二人は眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ