ドローエマグの魔道書 12
裏庭の物干し場――白いシーツが揺れている。俺はため息をつく。
倉庫から逃げてきてしまった。ラークの告白はあまりにもショッキングで、俺は答えることができなかった。まさか生まれて初めて告白された相手が男とは……。俺はどうしたらいいんだろう。
暗い気持ちで膝を抱えていると、洗濯籠を抱えたメイカがやってきた。
「あ――」
「…………」
彼女は一瞬こっちを見てから、無視して洗濯物を干し始めた。昨日からそんな感じだけど、今はそっけない態度が特に痛い。
無言で作業を続けるメイカ、それをボーっと見つめる俺。微妙な時間がしばらく続く。作業を終えたメイカはさっさと家の方に歩いていくが、その途中で、
「はあ――」
深くため息をついた。そして、進行方向を九十度変更し、俺の隣に座った。
「そんな目で見られたらほっとけないでしょ」
「俺、変な顔してたかな」
「うん。もし無意識なら天然ジゴロの才能あるよ」
じごろってなんだろう。まあいいか。
「ちょっと困っててさ――」
「ラークくんに告白されたんでしょ?」
「――なんで分かったの!?」
ズバリ言われて驚いてしまう。
彼女は、再び「はあ――」とため息をついて、驚くべき話を始めた。
「昨日、夕食のとき小井戸くんは私とマローダちゃんを怒らせた。まったく、がっかりしたよ――理由は分かってないみたいだけど」
ジトーッとした視線。俺は頑張ったぞ!
「そのせいで、私とマローダちゃんの好感度パロメーターが下がって、個人ルートに入る可能性がぐんと下がった。だから、それに代わる可能性を提示するためにラークくんが行動を起こしたんだよ。優先度が上がったって感じかな。
要するに、小井戸くんが選択を間違ったからラークくんに告白されたってこと。分かった?」
「いや、よく分かんない……」
ルートとか優先度とか、なに?
「だからあ――特定の誰かと親密な仲になって話を進めて、イベントを発生させなきゃゲームをクリアできないってこと」
「親密な仲って――まさか?」
「恋人になるってことだよ。こんなの基本でしょ?」
基本とか言われても……。子供のころ流行りのRPGとかは一通りやったけど、あんまりゲーム詳しくないんだよなあ。
「ちなみに、ルート提示は身近な人から優先的に発生するから、ラークくんを振った場合、次に告白してくるのは長老だと思うよ」
「なんだって!?」
それはマズいだろ。俺の精神が持たない。
「ど、どうすればいいんだ。回避する方法はないの?」
「そんなの簡単だよ――」
パサ――洗濯籠が転がる。
メイカは突然立ち上がり、地面に体育座りしている俺の前に立つ。白いワンピースの裾が視界を塞ぐ。小麦色の細い足が近づいてくる。
「な――!?」
俺の足の上に割り座で座ったメイカ。弄ぶような軽薄な視線が俺を射抜く。彼女の小さな手が俺の胸を優しく押す。
「私だけを選べば全部上手くいくんだよ」
彼女は瞼を閉じ、言う。
「ここまですれば選択肢は明白――するか、しないか――迷うことないよね」
混乱と緊張――俺は問う。
「君は、俺のことが好きなの? それとも、何か理由があってそんなことをしているの?」
本当にわからなかった。だから聞いた。
彼女は目を開けて俯いた。
「そんなこと、どっちでもいいんじゃない? 私を受け入れればいい思いをさせてあげるし、ゲームクリアにも近づく。いいことばっかりじゃない――それとも、私じゃ嫌なのかな?」
「いや、そういうわけじゃない」
もしメイカとそういう関係になれたら、それは最高だろう。正直魅力的だ。思わずふらっと心が動きそうになる。でも、ここで単純になっちゃいけない――そんな気がする。
「ごめん、ちょっとどいてくれる」
「…………分かった」
体に密着していた体温が離れる。
「ごめんね、やっぱりだめだ」
「そっか、ううん。別にいいの。でも、これで私のルートは無くなったからね――それだけは言っておく」
髪が顔にかかり、表情が見えない。彼女は何を思っているだろう。そんなことはまったく分からない。
そもそも、分からないことだらけだ。分かることの方が少ない。
「突然現れて、説明役だとか訳の分からないことを言って――俺は君を信用できない。恋人になるなんて不可能だ」
何がゲームだ――何が選択肢だ――もうウンザリだ。
「そっか、仕方ないね」
メイカが背中を向けて去っていく。行かせるか――
「なあ、明日デートしないか?」
普段の俺ならこんなこと言えなかっただろう。でも、もう決めだんだ。ここからは全力で行かせてもらう。
彼女は振り返る。何を言ってるの? と顔に書いてある。だから言ってやる。
「ゲームとか選択肢とか、もう知らん。俺は俺なりの方法で攻略する。だから、デートしよう!」
「は、はい?」
彼女は戸惑っていた。俺は密かに思う。
(いいぞ……もっと戸惑え、素をさらせ!)
隙を与えず、畳みかける。
「断っても無駄だ。イエスというまで誘い続ける。嫌な顔されようが嫌われようが知らん。ご飯を食べてる時も、ふろに入ってる時も、ベッドに入った後も、俺は誘い続けるぞ」
「どうしたのよ、急に――」
狼狽えるメイカ。さあ、乗ってきたぞ。
「さあ選べメイカ――デートに行くか、それとも、断って俺に付きまとわれるか――二つに一つだ!」
理不尽な選択を回避し、かつ俺が納得できる。しかも、ゲームクリアにもつながる。完璧だ。
これからは俺が選択肢を作る。それが俺なりのゲーム攻略だ。




