ドローエマグの魔道書 7
マローダの活躍で旅の資金を手に入れた。ということで、俺たちは早速旅に出た。目指すは不死鳥伝説の町”フォエニ”。ラークが言うに、聖なる獣の正確な場所は分からないそうで、不確かな情報を頼りに探すしかないらしい。
始まりの町からフォエニまでは馬車で丸二日の距離、本当なら手持ちのモンスターを育てる必要があるんだけど、俺が持っている宝石モンスターたちはすでに育てる必要がないらしい。
なんというズル……ゲーム開始時点から最強モンスターをレベル、スキル最大で持っているようなもんだ。もしかしたら聖なる獣も簡単に倒せるかもしれない。複雑な気分だ。
開けても暮れても馬車の中、いい加減うんざりし始めたころ、ようやくフォエニの町に到着した。
恐竜図鑑とかに出てきそうな見慣れない植物が生い茂る山、その斜面にひっそりと建ち並ぶ家々、最初の町より随分古風な町だ。ログハウスが立ち並ぶ避暑地のようにも見えるが、カニバリズムの風習が残る野蛮な原住民の集落にも見える。まあ、実際は普通の人が住んでたんだけど。
宿を決めて馬車と荷物を預けると、早速聞き込み調査を開始。時間を決めて三人で手分けする。
色んな人に聞いてみたけど、大体同じようなことを言っていた。
――不死鳥伝説。
はるか昔、フォエニの町で伝染病が流行り、多くの人が死に、壊滅の危機に陥っていた。そんな時、不死鳥が表れた。不死鳥は町の上級をクルクルと飛び回った。
すると、病床に伏せていた町民たちはあっという間に元気を取り戻した。伝染病の死の連鎖が嘘だったかのように、すべての町民が全快したのだ。
それ以来、町を救った金の尾と深紅の羽を持つ巨鳥は”聖獣不死鳥”として崇められているそうだ。
という話を何度も聞いた。あんまり掘り下げられてないなあ……。
でも、金の尾と深紅の羽の巨鳥って――
「ふわはぅ……あら、ひさちぶり」
「やあ、朱鳥。おはよう」
遺跡のダンジョン、第一層の守護獣、朱鳥――今は赤く塗られたカラーヒヨコだが、遺跡で戦った時は、まさしく金の尾と深紅の羽の巨鳥だった。
伝説の不死鳥って、ひょっとしてこいつなんじゃ?
「知らなーい。あたち、こんなところ初めて来たわよ」
「いや、もうちょっと考えて――」
「そんなことより、お腹空いた!」
目を覚ましたかと思えば今度は飯かよ……うん、こんな我儘で欲望に忠実な生物が伝説になるわけない。勘違いだな。うん。
*
昼間の酒場は空いている。
時間帯もちょうどいいし、待ち合わせ場所にここを選んだのは正解だった。
丸テーブルを三人で囲い、情報収集の成果を発表しあった。
やっぱり、マローダもラークも俺と同じようなもんだった。誰に聞いても伝説の話ばかり――有力と思える情報はほとんどない。おかしいなあ、ロープレだったら聞き込みで攻略の情報をもらえたりするんだけど。いや、これは現実だ――そう簡単にはいかないか。
あれこれ話し合ってはみたものの、すぐに煮詰まる。情報が少なすぎる。これ以上の話し合いは無意味だと考え、取りあえず昼飯にしようという運びになった。
パンやチーズなど適当なメニューを頼む。
「ああ、ご飯! ねえ、たべていいの?」
品物が運ばれてきた瞬間、その匂いを嗅ぎつけたのか、ポケットの中からカラーヒヨコが這い出てきた。
「いいよ、はい」
パンを小さく千切ってテーブルに乗せる。朱鳥はピョコピョコ歩いて、そそくさとパンを啄み始めた。
「コイド様――赤いヒヨコさん――可愛いです!」
それを見たマローダが変な口調で感動していた。小さい生き物が好きなのかな。
恐る恐る人差し指を伸ばし、朱鳥の頭を撫でる。
「フワフワ……温かいです」
「ちょっと! 食べてるんだから邪魔しないでくれる?」
「ご、ごめんなさい」
「あたちを撫でたいなら、あんたも食べ物をよこちなさい」
「は、はい――」
なんとなく打ち解けたようだ。よかったよかった。
「兄貴、そのヒヨコは?」
「ああ、こいつは――」
マローダが朱鳥と戯れている間、ラークに事情を話す。
「――そいつは、まさしく不死鳥の特徴と同じじゃねーですか」
「そうなんだよ。でも、本人は何も知らないっていうんだ」
ラークは俯いてしばらく考えているようだった。
「霊亀といい、朱鳥といい、普通のモンスターとは思えねえ。能力の出鱈目さはもちろん、会話ができたり、姿が変わったりするモンスターは他に見たことがないっす。
それが五体居るんすよね?」
「うん、そうなんだよ」
霊亀、朱鳥、深緑色のトカゲ、白猫、そして、金色の蛇黄竜――。
「兄貴が持ってるそいつらは五聖獣に間違いねーっすよ。俺にはそうとしか思えねえ」
「うーん、やっぱりそうなのかな。でも、なんで元の世界にいたんだろう――それじゃあ、こっちにはもうボスがいないってことになる。そうなると、五聖獣を倒して元の世界に帰ることができないじゃないか」
「そうなんすよ……そこらへんがどうも曖昧で」
凄く嫌な予感がする。
ゲームだとたまにあるよなあ。手順を間違えると永遠に先に進めなくなる”バグ”。そういう場合アップデートで解消されるはずなんだけど、これは現実だ。進行不可のバグに陥った場合、抜け出す術はないんじゃ……。




