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ドローエマグの魔道書 1

 


 部屋でのんびりしているときのことだ。


「あの――約束を覚えていますか?」


 水色の亀に問われた。なぜ亀が――ていうか喋った!

 一瞬驚いたが冷静に考えてみれば、この亀は知り合いの亀だ。


「ええと霊亀さんだったっけ」


 遺跡の地下ダンジョン、第三層を守っていた亀だ。本当はこんな可愛らしい見た目じゃないんだけど俺の魔法で小さい姿に変えたんだった。

 つらつらと思い出していると、霊亀は丸っこい頭をだらんと垂れた。


「約束どころかワシのことすら忘れていたんですね……」

「ごめん……なんだっけ」

「図書館につれて行ってくださると約束してくれたじゃないですか。ワシはそれを楽しみに待ち望んでおりました」

「ああ――」


 ようやく思い出す。確かにそんな約束をした気もする。図書館か、ちょっとめんどくさいな。


「コイドさん、どうかワシに知識を……」


 亀が手を伝って肩によじ登ってくる。

(うう……断りにくい)

 外は快晴、学校は休日でも自由に入れる。アーネとメシアは仲良くお出かけ――考えれば考えるほど好条件だ。うーむ……。



 *


 

 学校の図書館は地下にあった。といって、ジメジメとしたほの暗い穴倉という感じではなく、高級ホテルのようなきれいな場所だ。背の高い本棚が並び、いたるところに本が積み重なっている。

 秘密基地みたいでカッコいいけど、ちょっと微妙な気分だ。俺みたいな不真面目な人間は”学校の図書館”と聞いただけで気後れしてしまう。それは勉強するための場所だ。パブロフの犬と同じで、そのキーワードだけでウエーっとなる。

 それはそうと、早く本を探そう。どこに何があるのかまるで分らないから、窓口で聞かないと。


「すみませーん」

「はーい」


 呼びかけると、カウンターの向こうから聞き覚えのある声が聞こえた。


「あれ、マローダ?」

「こ、コイド様!」


 職員用のブラウンのベストとタイトスカート――こんな小さなサイズのもあったんだ。最初に会った時よりずいぶん健康そうになった。ブロンド髪が特徴的なゴーレムの中から現れた女の子、マローダだ。


「ひさしぶり――っていうか、こんなところで何してるの? その服装は?」

「はい、リード会長が司書の仕事を私に任せてくれたんです。なので、今は泊まり込みで図書館の管理をしています」

「そうだったんだ――」


 彼女は当初、あまり他人としゃべれなかったみたいだけど、司書の仕事ができるようになったのか。なんだか無性に嬉しかった。きっとペトリさんのおかげだな――。

 マローダはニコッと可愛らしく笑っている。もう心配することはなさそうだ。


「コイド様に会えるとは思いませんでした。何か御用でしたか?」

「ああ、歴史の本を見たいんだけど、場所が分からなくてさ。できたら案内してくれないかな?」

「はい、任せてください。私は司書ですから!」


 なんとも心強い。



 *



 マローダの小さな背中につれられて、本棚で作られた迷路を進む。一人じゃ絶対帰れないだろうな。彼女はまったく迷いなく進むけど、道を全部記憶してるんだろうか。だとしたら凄いな。


「コイド様は歴史がお好きなんですか?」


 マローダがチラとこっちを見て問う。なんだか楽しそうだ。


「いやいや、俺なんかは年号見ただけで眩暈起こすタイプなんだけど、こいつが見たいらしくてね――ちょっと手出して」

「――? これは――」


 ポケットから緑色の宝石を取り出し、マローダの手に乗せる。すると、何の前触れもなく、宝石が小さな亀の姿になる。首をグルンと回して辺りの状況を確かめているようだ。


「紙の匂い――ここが図書館という場所ですか」


 落ち着いたトーンで呟く霊亀。


「こ、コイド様――亀が――亀が喋りました! とっても可愛い!!」


 一方マローダは我を忘れて興奮しだした。


「ワシは霊亀。お嬢さんはどなたかな?」

「わ、私はマローだといいます。この図書館の司書です」

「司書――管理者ですな? お若いのに大変なお仕事をしてらっしゃる」

「いえいえ、そんな。 ――あの、霊亀さん、甲羅に触ってみてもいいですか?」

「かまいませんよ」

「――――キャア、ツルツルしてます。コイド様!」

「よかったね」


 マローダの意外な一面を見てしまった。いや、本来こういう子なのかもしれない。可愛いなあ。


「霊亀が歴史を知りたいらしくてさ、それで図書館につれてきたんだ」


 霊亀は甲羅を撫でられながら、


「ワシの生きがいは知ること。ここはワシを満たしてくれる素晴らしい場所のようですね」


 マローダは頬を紅潮させ、霊亀に目を奪われている。


「歴史の本でしたら、数千冊の在庫がありますよ。それこそ、何年かけても読み切れないほどの量です。きっと満足していただけるはずです」

「それは楽しみです――では、先を急ぎましょう。歴史が待っています」

「はい、霊亀さん!」


 二人は頷きあって歩き始めた。



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