二人の予定 6
二人はほとんど同じタイミングで目を覚ました。
「…………」
「…………」
至近距離に相手の顔。どちらからともなく起き上がり、背中合わせに座る。
微妙な空気――
「あの、なぜこんなことになったのか分かりませんが――コイド様には恋人がいるのに……ごめんなさい」
アーネットは頬を赤くし謝る。
「いや、べつに……ていうか俺、恋人なんていないけど」
「……へ? では、ペトリさんという方は?」
「ペトリさん? 彼女とは一緒に課題をやって仲良くなっただけだよ。それより、謝るのは俺の方だよ。せっかく好きな人ができたのに、俺なんかと……」
「好きな人――私にですか?」
「うん。遊びに行く予定を立ててたとか、放課後に会いに行ったりとか」
「…………」
アーネットはようやく気付く。何かが食い違っている。
「遊びに行く予定を立てたのは確かです。けど、それは、コイド様と仲直りするためにマーケットへ行こうと計画していたんです。放課後に会いに行った――というのは、コイド様を誘おうと教室を訪ねた話じゃないですか? ほかに心当たりがないのですが……」
「……あれ――?」
小井戸も気づく。自分は勘違いをしていたんじゃ。
お互いがお互いに恋人ができたと思っていたことになる。そして、昨日の喧嘩はその勘違いが原因なんじゃないかと。
『このまま話が進んだら――俺が嫉妬していたのがバレるんじゃ……』
『昨日怒ってしまった理由を聞かれたら――私の気持ちを知られてしまいます……』
二人はほぼ同時に、同じようなことを考えていた。
これ以上話を掘り下げちゃだめだ。言いにくいことを言わなければいけなくなる。
「あのさ、なんか色々あったけど、子供たちと遊んでたことも含めて、反省するよ。だから、後腐れなく仲直りしない? ごめんねアーネ。今まで通り仲良くしよう」
「い、いえ、こちらこそ。私もコイド様と今まで通り一緒に暮らしたいです。お互い喧嘩のことは忘れましょう」
「そうだね――うん。そうしよう」
そもそも何故こんな勘違いが起きてしまったのか――腑に落ちないこともいくつかある。しかし、二人は胸をなでおろしていた。相手に恋人はいなかった。喧嘩はしたが仲直りができた。それで十分だ。これ以上考えることは何もない。
安心と気恥ずかしさがない交ぜになった表情で見つめあう。昨日の喧嘩が嘘のようだった。
――と、その時だった。
突然玄関のドアが開き、メシアとエイモスがリビングに入ってきた。
二人とも、覚悟を決めたような真剣な面持ちである。
エイモスはコイドの前に立ち肩に手を置いて、
「いいか、コイド。良い悪いなんてのは時と場合で変わる曖昧なものだ。だから、俺はお前を応援できないし、止めこともない。何をしようとお前の勝手だからな。
でも、これだけは忘れないでくれ。俺はお前の友達だ。何かあったら遠慮なく頼ってくれ――な?」
「――あ、ありがとう?」
メシアはアーネットの手を握りしめ、
「あのね、アーネちゃん。私思うの――やっぱり自分に正直になるべきだよ。一度きりの人生だもん、そうしなきゃ嘘だよ! でもね、やっぱり風当たりは強い。それは仕方ない。覚悟は決めなきゃいけない。
だけど、私はいつだってアーネちゃんの味方だよ。何があったって見損なったりしないからね」
「は、はあ――?」
突然やってきた二人は一方的に喋り、用事が済むと、そそくさと部屋を出て行った。ないやら満足げな表情だった。
取り残された小井戸とアーネットは、
「なんだったんだろ」
「さあ――?」
ポカンと首を傾げた。
*
その直後、メシアとエイモスは寮の前のベンチに二人で座っていた。相変わらず真剣な顔をしている。
「これでよかったんだよね。私たち、間違ってないよね――」
「それは分からない。しかし、さっき決めただろう。二人が不倫カップルだとしても、俺たちは認めてやろう――ってさ」
「うん……そうだね。エイモスくん、ありがとう。私一人じゃ決心できなかったよ」
メシアは少し表情を緩め立ち上がる。そして、エイモスに手を差し出す。
「いや、あんたは立派だ。一番近くにいる人間として、二人を支えてやってくれ。何かあったら遠慮なくいってくれ。必ず力になろう」
エイモスも立ち上がり、彼女の手を取る。
グッと力強い握手。それは、二人の結審の証。これが、話し合いの末たどり着いた結論なのだった。
――表面上は解決した今回の事件――しかし、勘違いが勘違いを呼び、火種はまだ燻っているのだった。




