二人の予定 1
最近暑くなってきたな――木陰のベンチに座って、何となくそう思った。吸血鬼事件の事後処理も終わり、やっと一息つける。こうして、昼休みに中庭でのんびりするのは久しぶりだ。今は英気を養うことに専念しよう。
「ねえエイモスくん……」
風が気持ちいい。食後の気だるさも相まって瞼が重くなってきた。午後の授業は何だったか――今日の自治会の予定は――まあいい。頭を空っぽにするのも時には大事だ。いっそ眠ってしまおう。
「ねえってば、目を閉じないでよ!」
「うるさいな……」
コイド=コウヘイ――どんな人間か一言で説明しろと言われたら、一緒にいてみろ――としか言えない。
要するに変な奴だ。
例えば、友達同士の距離感が変だ。
普通、友達だからといって同性の膝の上に手をのせて顔を近づけてきたりしない。本当に勘弁してほしい。男二人でベンチに座っているというだけでもグレーなのに、今や歩道を歩く生徒たちが皆俺たちを見ている。
(はあ――仕方ない)
このまま無視し続けたら状況が悪化するかもしれない。後ろ髪ひかれる思いで昼寝をあきらめる。
「分かった、聞くよ。だから離れろ」
コイドは素直に引き下がった。普段ならオーバーに喜んだり奇怪なことを言い出しそうなもんだが、今は肩を落として大人しく座っている。そういえば、朝から悩んでるみたいだった気もする。どんな人間だって悩むときは悩むんだな。
「あのさ、俺ケンカしちゃってさ、仲直りしたいんだけど、どう仲直りしたらいいか分からなくて――エイモスくんならどうするかなと思って」
ほう、ケンカ。意外だ。この変人とぶつかり合う人間がいるとは。心当たりは――無くもない。ケンカ相手の情報を言わなかったあたり、まず間違いないだろう。
「さては、女とケンカしたな」
「え、なんでそう思うの?」
「お前のことは、それなりに分かってるつもりだ。当たりだろ?」
「うん。正解だよ」
やはり――ということは、相手はペトリ嬢だな。本人から直接聞いた訳じゃないが、二人は”そういう”仲なんだろう。俺でもそれくらい分かる。
しかし、どう言ったものか。俺は誰かと付き合ったことがない。ケンカだの仲直りだのと言われても、勝手が分からない。
分からない――と言ってしまいたい。しかし、コイドはそれじゃ納得しないだろう。午後になってもこの調子でせっつかれたらかなわない。何かしら無難な提案をしておくべきだろう。
そういえば、たしか家のメイドが前にこんなことを言っていたような――
「いいかコイド、女とケンカしたら男が完全に折れるしかない。その根拠はよく分からんが、とにかくそういうことらしい」
「――ら、らしいって」
「要するに、服従しろということだ。相手の要求に全て答えろ。それが一番だ――そうだ」
「よく分からないよ……結局どうすればいいの?」
俺に聞かれても困るのだが――そうだな、要するに女を喜ばせればいいわけだ。女が喜ぶことと言えば――
「女は買い物がすきだろ。つまり……ほら、お前マーケット詳しいだろ? 彼女を誘って一緒に行けばいい。それで、欲しがったものを片っ端から買ってやったらどうだ? 気をよくして許してくれるかもしれんぞ」
我ながら妙案だ。完全に口から出まかせなのだが、何となく筋が通ってる気がする。
「エイモスくん、それは……」
しかし、コイドは顔を伏せてしまった。
(しまった――流石に適当言い過ぎたか)
コイドは変人だが馬鹿じゃない。聞きかじった情報から派生した付け焼刃じゃ――
「それは、素晴らしい作戦だね! 今度の休みに実践してみるよ。 ありがとう……俺は良い友達を持った…………」
コイドは目に涙をためて俺の手を握ってきた。顔を伏せたのは感涙を堪えるためだったようだ。
「――――まあ、気にするな」
取りあえず、そう言っておいた。
俺はコイド=コウヘイの変人さを再確認した。そんな昼休みだった。
*
昼休み――奉仕科の教室に生徒はほとんどいない。皆自分の主人の所へ行くので、人が居なくなるのは自然であり普通なのだった。
そんなスカスカな教室に、二人の少女がいる。机を突き合わせ食事を取っている。
彼女たちには、一応仕える相手がいるのだが、奉仕はしないでくれと言われているのだった。
「ねえアーネちゃん、今度の休み遊びに行こうよ。なんかね、お店がいっぱい並んでる通りがあるんだって。面白そうでしょ?」
メシアは爛々と目を輝かせている。
「今度の休みは予定があるので、行けません。またの機会にしましょう」
「ええ、そんなあ……予定ってなにさ!」
アーネットの目が僅かに泳ぐ。
「出かけるのです。先約がありまして――」
「そうなの?」
メシアが驚いた顔になる。
(アーネちゃんが休みの日に誰かと出かけるなんて意外。相手は誰だろ? コイド――じゃないよね。あれ以来一言も口きいてないし)
彼女の口元が、不敵に吊り上がる。
「ひょっとして、気になる男の子がいるとか? デートだったりして」
メシアがふざけて聞くと、
「な、なな、なにを! そんなわけないでしょう」
思いのほか大きなリアクション。
(あれ――思いがけず図星をついてしまったか? うむ、これはどうしたものか……)
メシアは考えた。掘り下げるべきか、静観するべきか、はたまた何かしらの行動を起こすべきか。
しばらく熟考したうえで、彼女は――
「ねえ、それよりさ、購買部行かない? 飲み物欲しくなっちゃった」
喉が渇いてることに気づいた。




