聖地奪還戦 4
廃工場――最初の部屋。
そこには数人の子供たちがたむろしている。
(あーあ――下級生どもから工場をぶんどったはいいが、暇で仕方ねえ)
行儀悪く机に腰かける男は、高学年チームの副リーダー的存在だった。短く切った金髪をツンツンに逆立てている。そのくせ、目は眠そうにトロンと下がっている。待機が続き退屈しているのだ。
なにかおこらねえかな――思わずあくびが出る。
その時だった。
入り口のドアがパァン――と開け放たれた。
「――む?」
工場内の空気が変わる。男を含めた、高学年チームの面々が瞬時に遮蔽物に身を隠す。
(いやいや、よく来てくれたってもんだ。退屈しのぎにゃ丁度いいぜ)
好戦的な笑みを浮かべて、身を隠しているコンテナの上から入り口の方を盗み見る。
「ほう?」
少し意外そうな顔になる。
敵は女を含めた五人チームだったはずだが、九人になっている。そこまで確認して、男は立ち上がる。
「おう、お前らよく来たな。しかし、そんな数で俺たちに勝てると思ってんのか?」
トラッシュトークを吹っ掛ける。
すると、先頭に立っていた二人のうち、指ぬきグローブを付けた目つきの鋭い男が答える。
「勝負を決めるのは数でも学年でもない。戦いが終わるころには痛感することでしょう――先輩方」
「フッ――言うねえ」
男は余裕の笑みを見せつつ、コンテナの影でパチンコにドングリを引っ掛けている。態度とは裏腹に油断していない。
「始めろ、お前ら!」
男の掛け声とともに、あちこちからドングリ弾が発射される。男も、大まかに的を絞って弾を発射し、すぐさま遮蔽物に身を隠す。再び顔を出すと、入り口付近には二人の敵が転がっていた。
(口ほどにもねえ――残りの奴は身を隠したか。まあいい、ハナッから勝負は決まってるようなもんだ。ゆっくり追い詰めてやる)
舌なめずりし、二弾目を構える。
しかし、そこで男にとって予想外の事態が起きた。
「ぐわあ!」
近くの机に隠れていた味方が地に伏せる。
(なに? なぜやられた――完全に隠れていたように見えたが)
男の注意力が鋭敏になる。だからこそ気づくことができたのだろう。
「お前ら、上だ! 窓から撃たれているぞ!」
正面からの射撃と、側面からの遠距離攻撃――低学年チームは二重の攻撃を仕掛けていたのだ。
(馬鹿正直に正面から来たと思ったら、そういう腹か――なかなかやるねえ)
男はどちらの射線からも狙われないよう、潜伏場所を変える。その間も攻撃は止まない。二方向の射撃にさらされ、見方が数人やられている。
「チッ――ちょこざいな」
歯噛みしつつも男は考えていた。敵の作戦に違和感がある。
(これだけ人数が揃っているなら全員で特攻してきた方が有利なんじゃねーか? それに、きっと外で撃ってるやつは中が見えない。仲間を撃っちまう危険もある――)
男は攻撃の手を止めて、窓に目を向けた。ポーンポーンと飛来するドングリをしばらく眺める。
(一度に飛んでくる弾は五つ、それが等間隔に続く。その着弾点は――)
クックックッ――男が肩を揺らして笑う。
それから、頭を出さないよう注意しながら遮蔽物の間を移動し、一番近くにいた味方に小声で話しかける。
「おい、これから言うことを全員に拡散しろ」
「そんな場合かよ。身動き取れないぞ」
「いや、そうでもねえさ――」
男が味方の耳元で何かをささやく。
「――なるほど、たしかに」
「だろ? さあ、みんなにも教えてやれ」
二人は顔を合わせてニヤニヤと笑いその場を離れた。
*
最奥部――そこには二人の人間がいた。
「始まったみたいです。私も行きます」
ドアの向こうから聞こえる物音を聞いて立ち上がったのは、ローブに身を包んだ人物だ。フードを深くかぶっていて顔は見えない。
「いや、その必要はない。敵は低学年のガキどもだ――あいつらで十分だろう。用心棒が出張る場面じゃないさ」
小太りの男が慇懃無礼な態度で、七三の髪をクイッと掻き上げる。彼は高学年チームのリーダーなのだった。
「そうですか――」
用心棒と呼ばれた人物が声のトーンを落とす。
*
二方向射撃で押されていた高学年チームが押し返し始めていた。
「うぐは……」
また一人低学年チームの兵が倒される。
(これで半分を切っただろう――そろそろ畳むか)
副リーダーの男が仲間に指令を出す。
「俺が道を開く。お前らは援護しろ――いいな」
指令が伝わりきるのを待って、男が動き出す。
身を屈め、素早く前進する。その動きに迷いはない。低学年チームの射撃が弱まるたびに、一つまた一つと遮蔽物を入れ替え、どんどん進んでいく。
男は前の敵のみを警戒しているようで、サイドからの遠距離攻撃をまったく気にしていない。
(種が分かっちまえば味気ねえもんだ。無人砲台からの定点攻撃とは考えもんだが、俺たちを――いや、俺を舐めすぎてるぜ)
男は気づいているのだった。窓からの射撃は、同じタイミングで発射され”全て同じ場所に着弾している”ことに。分かっていしまえば回避は容易い。着弾地点に近づかなければいいだけなのだから。
(さあ、驚く顔を見てやるぜ)
男がついに敵が隠れる遮蔽物のすぐ近くまで接近した。身を乗り出して攻撃、迎え撃って来たら見方が背後から援護――これで片が付く。
敵がパチンコに玉を装填する一瞬のスキ――男は最後の突撃に踏み切る。
「ふははは――これで終わりだガキども!!」
コンテナの上からパチンコを突き出し、勝鬨を上げる。
コンテナの向こうには、ブラック、ツヴァイ、ホワイト、メシアの四人がいた。戦力で言えば女二人は大した戦いをすることができず、実質残存兵は二人という状況なのだった。
男は改めて勝利を確信する。もう何をどう間違ったって勝ちだ――そう確信していた。
――しかし、
低学年チームの面々は怯えるでも悔しがるでもなく、むしろ余裕すら感じられる顔をしている。メシアに至っては、堪えきれず「プフッ――」っと噴き出している。
何かがおかしい――勝ち急いでいた男が、そこでようやく冷静さを取り戻す。そして、気づく。後ろが妙に静かなことに。
「な、なんだと――!」
背後を振り返った男の顔が驚きで歪む。そこには味方の死体(死んだふり)がいくつも横たわっている。自分の後に続いていたと思っていたが、いつの間にか全員やられているのだ。
「な――なぜ……」
戦意を失い、肩を落とす男。ブラックが立ち上がり、彼と向き合う。
「あんたはよくやった。まさか、あんなに早く無人砲台に気づかれるとは思わなかった。しかし、詰が甘かったな。こっちはバレることまで予想して作戦を立てたんだ。
木を隠すなら森というだろう。定点攻撃に紛れて、スナイパーを配置しておいたのさ」
「なん……だと?」
そうか――と男が気付く。窓からの定点攻撃は、本命であるスナイパーの射撃から注意を反らすためだったのだ。脅威は無いと窓の外をスルーしてしまった――男は低学年チームの策に完全にハマっていたのだ。
「なぜ低学年のお前らが、そこまで緻密な作戦を――」
「フフフ……」
不敵な笑みを浮かべながら立ち上がったのはメシアだ。
「軍師アインを甘く見てもらっちゃ困る――」
彼女はパチンコを構える。すっかり肩を落としている男に照準を合わせて。
「こう見えても、私は――――高等部の生徒なのだからな!」
――パシュン――
メシアの放ったドングリが男の脳天に直撃「あたっ」っとテキトーな声を上げて、男は後ろに倒れる。
視界が天井に振られる――気だるさを感じながら、心の中で呟く。
(それは、ちょっとズルくないっすか……)
バタン――地面に四肢を横たえ目を閉じる。
腑に落ちない――しかし、自分たちが大人数で攻め込んだ手前、文句は言えなかった。




