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聖地奪還戦 3


 家に帰ると、メシアはすでに帰っていて、リビングのソファでふんぞり返っていた。


「あ、お帰りコイド」

「ただいま――じゃなくて、お前な……なに子供の遊びに本気で参加してんだよ。マジで驚いたぞ」

「コイドだって楽しかったでしょ?」

「まあ、そうだけど」


 否定はできない。


「今度はどんな手で来るか楽しみにしてるよ。早く軍師アインを倒してくれないと終わらないんだから」

「そうなの?」

「うん。そのためにコイドを仲間に入れろって情報を流したんだよ」


 だからレッドたちは俺の名前を知っていたのか。納得。


「私は悪の戦略家って設定だからね。正義のスナイパーが倒すしかないんだよ」

「おお、カッコいいなそれ」

「あの……何のお話ですか?」


 部屋から出てきたアーネが不審そうに聞いてくる。


「ああ、それがね、今日の昼間――フグァ」


 説明しようとしたのだが、メシアの手に口を塞がれてしまう。


「なにすんだよ」

「シッ――アーネちゃんには言わない方がいいって」


 小声で話してくるので、俺も自然と小声になる。


「なんで」

「怒られるにきまってるじゃん」

「――確かに……」


 彼女の言うとおりだった。誤魔化そう。


「あのなアーネ、ええと――テレビの話だよ、うん」

「――テレビって何ですか?」

「アーネちゃん、これは軍事秘密ってやつだよ!」

「あなたは何を言っているのですか?」


 しばらく尋問を受けたが、俺とメシアははぐらかし続けた。

 やがて、アーネは諦めたようで、むすっとした顔で晩御飯の用意を始めた。



 *



 翌日――事態は急変する。

 俺たちは、例の基地に集まって再戦の作戦を練っていた。そこに、メシアたちのチームの五人がやってきたのだ。何やらしょぼくれた様子。

 話を聞くと、どうやら廃工場を高学年のグループに取られてしまったそうだ。

 向こうのリーダーは黒い眼帯をした少年だった。コードネームはツヴァイというらしい。


「敵は十人――突然やってきて戦闘を始めやがった。軍師アインの指揮をもってしても、勝負にならなかった」


 ツヴァイはギュッとこぶしを握りうつむく。

 ブラックがその肩にポンと手を置いて、


「仕方がないさ、戦争にルールなど存在しない。お前よくやった」

「ブラック……くそっ! お前たちから預かっていた聖地を、俺は――俺は――!」


 両チーム全てのメンバーが黙ってうつむいてしまう。ちょっと心が痛い。

 と、メシアと目が合う。彼女はウインクして見せた。なんだ?


「君たち、なに暗い顔してんのさ。戦いはまだ終わってないよ」


 芝居がかった口調で話し出す。


「聖地を取られたなら、取り返せばいいじゃん! そうでしょツヴァイくん、ブラックくん」


 皆の視線がメシアに集まる。

 ツヴァイが苦しげな顔で、


「しかし、我々では全く歯が立たなかったではありませんか、アイン」


 ブラックが続ける。


「無謀な戦いを勇気とは言わない。軍師ともあろう人が、分からないとは思えないが――何か策が?」

「ふふん」


 メシアは楽しげに笑うと、俺の正面に移動してきた。


「ツヴァイくん、私は誰だ?」


 突然問われて、一瞬ポカンとしてからツヴァイは答える。


「百戦錬磨の軍師アインだ」

「さよう。では、ブラックくん――彼は誰だ?」


 といってメシアが俺を指さす。


「最強のスナイパー、死神のブラックだ」

「うむ――」


 一呼吸おいてから続ける。


「敵は十人からなる高学年の軍隊。どちらのチームが戦いを挑んだとしても勝ち目はない――再び辛酸を味わうのが関の山だ。

 しかし、ここにいる全員が一丸となり戦ったとしたらどうだろう。鎬を削りあった好敵手同士が手を組み、一つの弾丸となった場合――それはどんな鋼鉄も貫く最強の存在になるのではないか」


 驚いた顔のブラックが問う。


「しかし、相手は高学年だ。個々の戦闘力に差がありすぎる。勝負になるとは思えない」

「ふふふ――そこで、私たちさ。私の策と、ブラックの長距離射撃が合わされば、不可能は無い。世界を敵に回したとしても勝つ自信がある」


 おお――と、歓声が上がる。

 なんというビックマウス……巻き込まないでほしいんですけど。


「ほらコイド――じゃなくてブラック」


 メシアが手を差し出す。

 仕方ないなあ……。


「お、おう」


 その手を握り返す。

 すると、誰からともなく拍手を始めた。

 なんだこれ……。


「足を引っ張るなよブラック」

「フン――俺は足を引っ張られても構わんぞ。お前のお守は慣れている」


 ブラックとツヴァイがガシッと腕を組む。

 それを横目で見ていると、メシアが耳打ちしてきた。


「ねえねえ、みんな楽しそうだね。よかったね」

「ま、まあ、そうだな」


 結果的にメシアは子供たちを盛り上げた結果になった。さすがである。



 *



 (なるほど、そういうことでしたか……)

 アーネットは建物の影から子供たちと、それに交じって握手している同居人の二人を見ていた。

 ちょっと出かけてくる、といって家を出た小井戸を付けてきたのだった。

(なんですか、まったく――正直に言えばいいのに。仲間外れにされたようで寂しかったんですよ……)

 アーネットが握りしめている煉瓦の壁が砂になってパラパラ落ちている。彼女の心中を現しているようだった。

(もう怒りました……私にだって考えがあります!)

 彼女は頬をリスのように膨らませてその場を後にした。


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