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聖地奪還戦 2



木の上に腰を落ち着け、パチンコを構える。

 トタン張りの廃工場にはガラスの割れた四角い窓がいくつも並んでいる。俺は、慎重に狙いを定め、時を待つ。

――どれくらい時間が立っただろう。

 正面一番端の窓に人影が写る。子供だ――敵の兵隊だろう。


「ふう――」


 緊張で震え始めた手に鞭撃つように、ゴムを引き絞る。

 的は動く――照準と威力調整を一瞬で終わらせ、急いでゴムの緊張を解く。


――パシュン――


 鋭いアーチを描き、ドングリが飛んでいく。窓までの距離は五十メートルほど――正直、微妙な賭けだ。

 しかし、


「痛って!」


 工場の方から甲高い声が聞こえた。

(当たった!)

 木の上から、下を見る。植え込みの中で待機していた四人の戦士たちと目が合う。

 リーダーのレッドが指ぬきグローブを付けた手で親指を立てた。

 そして、その指がスッと工場の方に向けられる。

――突撃だ!

 急いで木から降りる。


「さすがは死神のブラックだ。これで五対四――パワーバランスが崩れた。軍師アインとはいえ、狙撃までは予測できないだろう。

 勝てる――行くぞ!」


 ホワイト、ブルー、グリーン、そしてブラックである俺の四人が一斉に「おう!」と気合を入れる。

 こうして、聖地奪還戦は幕を開けた。



 *



 廃工場は三つの部屋に分かれている。一番手前の部屋が一番大きく、奥に行くほど小さくなる。チョココロネみたいな形だ。

 工場内には、コンテナや机、椅子などの遮蔽物がまばらに置かれ、左右の壁にはキャットウォークと階段がある。戦う場としては素晴らしいシチュエーションだ。

 レッドは最奥部の部屋に敵が密集していると考えている。

 広い部屋で地形を利用した撃ち合いをした場合、同条件の戦いになってしまうが、小さな部屋で遮蔽物に張り付いて、入ってきた敵に一斉攻撃した場合どうだろう――長期戦にならざる負えない。その場合、ドングリを含む物資を備えて置ける敵が有利だ。という理由だそうだ。

 正直、半信半疑だった。

 しかし、立てこもり作戦を実行する場合、必ず偵察が一人は出ているだろう――という読みがすでに当たっている。驚くしかない。


「やはり、最初の部屋に敵は一人だったな――急ごう、次だ」

「ねえレッド、俺が撃ったあの子、倒れてるけど大丈夫かな……」


 俺が撃った少年はキャットウォークの上で仰向けに倒れている。


「打ち所が悪くて怪我しちゃったんじゃ」

「ううん、大丈夫だよおにーさん。ほら見て」


 ホワイトが少年の方を指さす。

 よーくみると、少年は小さくサムアップしていた。


「撃たれたら”やられたー”するのがルールだからね。おにーさんもちゃんと守ってよ? ズルするとすっごくもめるんだから」

「なるほど――」


 戦っているとはいえ、喧嘩してるわけじゃないんだな。ちょっと微笑ましい。


「さあ急ぐぞ――」


 レッドが二つ目のドアを開ける。



 *



 遮蔽物を利用しながら慎重に安全圏を広げていく。


「左翼クリア――」


 グリーンが奥の階段の前で報告する。


「右翼問題ない――」


 コンテナの影からブルーの声が聞こえる。

 完全にレッドの予想が当たっていた。

 敵は最後の部屋で総攻撃を仕掛けてくる。もう決まりだろう。


「よし、では行くぞ――ホワイト、ブラック、続け」

「はーい」

「おう」


 最奥部のドアに向かって三人で歩き出す。

 隣を歩くレッドの横顔を見る。相変わらず鋭い視線だが、心なしか緊張しているようだ。

 ホワイトの方は、楽しげだ。パチンコのゴムをくるくる回して遊んでいる。

 と、いつの間にかレッドが俺の方を見ている。


「ここまでこれたのは、あなたのおかげだ――死神のブラック。感謝するぞ」


 と言って、フッと笑った。

 その瞬間、俺の中に”熱い何か”がたぎった。


「絶対に勝とうレッド――俺たちならやれるさ」

「ああ、そうだな」


 年が離れている。出会って間もない。お互いのことをほとんど知らない。そんなの些細なことだ。

 この瞬間、俺とレッドの間に確かな友情が芽生えていた。少なくとも俺はそう思った。


「危ない!!」

「なっ――」


 突然聞こえたホワイトの叫び声――次の瞬間、俺とレッドは彼女に押し倒される形で、地面に押し付けられていた。

 その足元で「キィン!」という固い音が響いた。


「何事だ――!」


 レッドが素早く体を起こして、状況を確認する。俺もそれに続く。

 俺たちがさっきまでたっていた場所に、二つのドングリが転がっていた。さっきの音からして左右に置かれていたコンテナに着弾したらしい。


「ブラック、ホワイト、こっちだ」


 レッドに手を引かれ、大きな作業机の下に身を隠す。


「何を見たホワイト」

「あのね、上の方で何かが動いたの――だから敵が隠れてたんじゃないかと思って」

「そうか、素晴らしい判断だホワイト」

「えへへぇ」

「しかし、油断した。まさか、キャットウォークの上に兵が潜んでいたとは――」


 多分敵はキャット―ウォークの一番奥で寝転がっていたんだろう。そうされると下からじゃどうしたって見えない。

 レッドの読みが裏目に出てしまった状況だ。

 でも、ホワイトの機転で俺たちは無事だった。まだ負けてない。

 これからどうするのか――俺には見当もつかないが、レッドの判断は早かった。


「グリーン、ブルー、プランBだ。いいな」

「おう」

「分かった」


 二人の返事が返ってくる。無事だったみたいだ。


「プランBって?」

「一番近い敵を各個撃破だ。あの二人は階段付近にいただろう――上の敵と戦い、注意を引き付けてもらう。その隙に俺たちは突入だ。軍師アインの待つ最後の部屋にな」

「でも、それじゃあ三人で戦うことになってしまうじゃないか」


 レッドが不敵な笑みを浮かべる。


「忘れたのかブラック。敵は最初の部屋で一人倒し、ここで二人出張ってきた。残りは二人しかいない。俺たちは何人だ?」

「そうか――!」


 たとえ、迎撃の準備が整っていたとしても、三対二なら勝てるかもしれない――いや、勝てる!

 レッドが中腰になり、一つ深呼吸。

 そして、


「始めろ、決戦だ!!」


 トタン壁を揺らすような号令とともに走り出す。


「行こっブラック」

「うん!」


 ホワイトと俺もそれに続く。

 左右からカンカン――という階段を踏み鳴らす音を聞きながら、俺たち三人は最奥部のドアめがけて突進した。



 *



  勢いよくドアをあけ放つ。そこは十畳程度の狭い部屋だった。きっと、事務仕事をするための部屋だろう。窓が大きく、明るい。

 部屋の中心には天板をこちらに向けた大きな机が置かれている。

 敵は机の後ろに隠れているのだろう。

 遮蔽物の後ろで腰を落ち着けて攻撃できる敵と、走り回るしかない俺たち――状況的には不利だ。しかし、こちらは三人いる。

 体が勝手に動いている。

 レッドは右から回り込む、ホワイトは左から――そして、俺は正面から接近し、机の上から撃てばいい。

 敵は二人、どう頑張っても撃破できるのは二人まで。その隙に、もう一人が接近して、敵を倒せば勝てる。

 完璧な作戦だ。

 俺は勝利を確信して、机に詰め寄る。そして、天板の上から中を覗き込む――


「えっ――」

「ごくろうさま、コイド」


 見覚えのある少女と目が合った。大きな瞳と、小さな体――見たところ、子供たちと同年代だが、彼女が高等部の生徒だということを俺は知っている。

 メシア=ストレーゼ――同じ寮で暮らしている家族のような存在。

 そんな少女が、悪戯な笑顔を浮かべて俺にパチンコを向けている。

 そして、容赦なく発射した。俺は驚きすぎて動けなかった。


――パシュン――


「痛てっ」


 ドングリだ脳天にヒットし、バタンと倒れる。

 そのとき、俺は見てしまった。机の向こうには、メシアを含めて四人の子供がいた。


「うっ――ぐああ!」

「うはーやられたぁ」


 俺がやられるのと同時に、レッドとホワイトも打倒される。

 負けた……喪失感に襲われる。

 しかし、それ以上に疑問が湧いて出る。


「ど、どうして――ここには二人しか居ないはず」


 したり顔で立ち上がったメシアが答える。


「ふっふっふっ……引っかかったね。そっちのレッドくんは頭が切れる子だと聞いていたから、こちらも策を立てたのだよ。紐を引っ張るとパチンコから玉が発射される仕組みを使って二つ目の部屋に置いておいたのさ」


 なん……だと?

 つまり、ブルーとグリーンは無人の自動パチンコ発射装置を追いかけてしまったというのか。


「そっちの策を信じさせるための囮くんもいい仕事をしてくれたみたいだし。いやはや上手くいった。軍師アイン様を甘く見ていたようだな、諸君」


 メシアはふんぞり返って――ぷっははは――と悪の親玉みたいに笑った。

 なんてこった、軍師アインってお前だったのかよ!


「お、大人げねえ……」


 俺は、ガクッと首を投げ出し死んだふりをした。

 ルールだしね。


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