聖地奪還戦 1
学校の帰り道――小井戸は人気の無い住宅街のはずれを歩いていた。
すると、突然道に人影が現れた。小学生くらいの女の子だ。
小井戸を通せんぼするように立っている。
(なんだ?)
少女は小井戸をまっすぐ見て口を開いた。
「あの、ちょっとお時間よろしいですか?」
宗教の勧誘? なんかのアンケート? 小井戸は戸惑うが、こんな小さな女の子が変なことするはずない――と思い、
「いいけど」
と返事を返す。
「よかった! じゃあ行きましょう。こっちです」
「え? ちょ――」
少女が小井戸の手を引いて走り出す。二人は細い路地に入っていった。
*
柵の割れ目を潜って、少し進むと、家の壁に囲まれた細長い空間に出た。
そこには、三人の少年が居た。見たところ、少女と年が近い。まだ子供だ。
少女が嬉しそうに言う。
「連れてきたよ」
「ああ、ご苦労だった」
答えたのは、目つきが鋭く、指の付け根から上が無い皮手袋を付けている少年だ。
その少年が俺に言う。
「急な呼び出しに答えてくれて感謝する。俺のことはレッドと呼んでくれ」
「は、はあ――」
「彼女がホワイト、後ろの二人はブルーとグリーンだ」
ガリガリに痩せてる方がブルーでちょっと太ってる方がグリーンね。なるほど。
いや、なにがなるほどだ。
「あだ名なのかな?」
レッドに聞いてみる。
「いや、コードネームだ。素性を知られると危険だからな」
そ、そうですか。
「早速だが本題に入らせてくれ。ミスターコイド=コウヘイ――これを」
ミスターって……。
レッドは、俺に二つのものを渡してきた。
「これは、パチンコとドングリだね。懐かしいなあ」
よく神社で撃って遊んでたっけ。
「そいつで、あそこの的を撃ってみてくれないか――」
「的?」
レッドが指さす先の壁に、チョークで書かれた三十の丸があった。あれが的か。
俺に的当てをさせたいんだな。
的までの距離は三十メートルくらいか。そこまで遠くはないな。
「撃てばいいの?」
「ああ、よろしく頼む」
理由は分からないけど、まあ、いっか。
ドングリをセットして、ゴムを引き絞る。ギュウギュウ――と張り詰めた音がする。
四人の視線を感じつつ、パチンコを構える。片目をつぶって、パチンコのUの字の中心、ドングリ、的の中心を一直線に配置。きっと、威力が足りないだろうから、高さは上目――的の外郭ギリギリってところかな。
「じゃあいくよ――」
フウ――と息を吐く。
それから、なるべく照準がズレないよう慎重に手を放す。
――パシュン――
僅かな風切り音とともに、ゴムが暴れる。
(どうかな?)
弾き出されたドングリは、やはり重力に負けて失速する。だが、それは計算済みだ。
ドングリは、ゆるいカーブを描きながら的の一番小さい円に吸い込まれ、ど真ん中に着弾した。
「おお――」
「マジかよ――」
「おにーさん凄ーい!」
ブルー、グリーン、ホワイトの三人が歓声を上げる。
なんだか照れちゃうなあ。
後頭部をさすっていると、レッドが俺に向き直った。真剣な顔だ。
「素晴らしい――なんという射撃の腕。ミスターコイド=コウヘイ――いや、死神のブラック!」
「はい――?」
なにそのカッコいい名前。俺に言ってんのか?
「俺たちのチーム”ファイブエレメンツ”に入隊してくれないか。あなたの腕なら即戦力だ。力を合わせて、敵を倒し、聖地奪還を手伝ってくれ!」
「ちょっと待って、詳しく説明してくれないかな?」
「そうだな――申し訳ない、気が急いてしまっていたようだ。説明しよう――」
*
「なるほど、その廃工場で遊ぶ権利を争って、戦ってるんだね」
酒瓶なんかが入っていたであろう木箱が五つ円形に並べられ、俺たちは木箱に座って話した。
(要するに戦争ごっこだな。五人の小さな軍隊、鉄砲はパチンコ、聖地というのは廃工場――俺も同じようなことやったなあ)
正直な話、面白そうだ。でも、
「俺みたいな年上が仲間に入ったら反則じゃないの?」
いくらなんでも、卑怯な気がする。
すると、レッドが悔し気に顔をゆがませて答える。
「いや、それについては問題ない。敵も同じことをしている。そのせいで我々は聖地を奪われたのだ」
「そうなの?」
「ああ、敵の派遣兵は女だった。だから、認めたのだが、それは間違いだった……あの女、軍師アインの戦略によって、我々はあっという間に聖地を追われてしまったのだ」
おいおい……えげつないことをするなあ。
軍師アイン――どんな人なんだろ。子供の遊びに入っていって、容赦なく叩きのめすなんて、どういう神経してるんだ。
「わかった。そういうことなら、俺も参加するよ」
「ホント!? ありがとう、おにーさん」
「いやいや」
「おにーさんではい。ブラックだ――素性を知られたら危険だろうホワイト」
「はーい」
「よし、では早速作戦会議を始めよう――ブルー、地図を」
「おう!」
ということで、子供たちの戦争ごっこに参加することになったのであった。
精神年齢三十歳、肉体年齢五百歳の俺がである――。
(でも楽しそうなんだよなあ)
深くは考えないでおこう――俺は死神のブラック。うん、カッコいい。




