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独裁のエアディシルク 11



 眷属騒動は終結した。

 避難民を護衛していた自治会メンバーも広場に集まった。

 町中で暴れていた全ての眷属が集められ、レターによって吸血という応急処置を受けている。


「よかった――終わったみたいだ」


 その様子を建物の屋上から密かに見守る人間がいた。

 セミロングの黒髪、一瞬性別が分からない中世的な顔立ち――小井戸浩平である。

 屋上のヘリから僅かに顔を出し、下を見ている。

 と、その背後に突然人影が現れる。

 その人物は、まだ気づいていない小井戸に向かって言う。


「こそこそしてないで、出て行ったらどうだ?」

「――! だれ?」


 小井戸がバッと振り向く。

 眼鏡をかけた男が立っていた。色が白く線が細いので、いかにもインドアな印象だが、目つきだけが異様に鋭い。

 小井戸にとって初対面の相手だった。しかし、

(どこかで見たことあるような――)

 何か引っかかる。


「どこかで会ったことある?」

「いや、俺は初対面だ。だが、俺の親父とお前は会っている――ローブアインの屋敷でだ」

「ローブアインの? ……ああ!」


 そこでようやく思い出す。ローブアインの屋敷に入ることができず、困っていた小井戸たちを屋敷に招き入れた紳士――アニス=ハーディライト。

 今目の前にいる少年と、その紳士はどこか似ている。


「そうか、あの人の子供なんだね――あの時はお父さんにお世話になりまして」

「俺に頭を下げることねーだろ」


 ハーディライトは呆れたように呟いてから、


「全く食えないやつだ。ここ数日、お前を見張っていたが、まったく意味が分からない。お前は何の目的があって行動しているんだ?」

「見張り? 全然気づかなかった。 ――目的って言われても……俺は普通の学園生活が送りたいだけだよ」

「ほう――」


 ハーディライトが目を細る。


「敵が徘徊してる町をウロチョロする女を護衛するのが”普通の学園生活”か?」

「うう……ホントに見張ってたんだね」


 小井戸はここ数日、パトロールのようなことをしていた。人目につかないよう気を付けながら、眷属に襲われる人間が居ないか、見回っていたのだ。

 そのなかでも、毎晩のように町に出て歩き回っていた少女を重点的に見張っていた。そんなことをしていれば当たり前だが、彼女は眷属に何度も襲われかけていた。その都度小井戸が密かに処理していたので、本人は気づいていない。

 ハーディライトはそのことを言っているようだった。


「なぜ表立って戦わんのだ?」

「だ、だから、普通の学園生活を――」

「それは欺瞞だろう。事実として、お前は普通じゃない行動を繰り返している」

「ううう……ほっといてくれ」


 ハーディライトは小さく溜息をつく。小さな子供を脅している気分だった。

(得体のしれないやつだが、危険はなさそうだ。と、今のところは判断しておこう)


「まあ、なんだ。色々言って悪かったよ――気を悪くしないでくれ。それで、お前はこれからどうするんだ? 今降りて行って瓦礫の撤去やら、被害者の搬送やら、仕事に加われば点数を稼げるぞ?」

「いや、俺はここにいるよ」

「そうかい」


 これ以上話すこともないだろう――ハーディライトは屋上を去ろうとしていた。

 しかし、そのとき――


「ううう……うああああああああ!!!!」


 広場の方からただ事ではない叫び声が聞こえた。

 ヘリに駆け寄り、下を見下ろす。小井戸も同じような体制で、様子をうかがっている。

 被害者が並べて寝かせてある広場の隅の方で、何かが動く。そして、離れた場所の壁が崩れた。

 暗くてよく見えない――ハーディライトは苛立たしく言う。


「なにが起きている?」

「誰か吹き飛ばされた……あっ!」


 なんだ? ――と思った次の瞬間、再び遠くの壁がバラバラと崩れ落ちる。


「まさか――」

「うん、戦おうとして二人ブッ飛ばされた――くそっ、油断した」

「戦う? ――おい、あそこに何がいるんだ? なにと戦ってるというんだ!」

「あれは――悪魔だ」

「――はあ?」


 こいつは何を言い出したんだ。ハーディライトはイライラしていた。

(吸血鬼の次は悪魔ってか? なにを馬鹿な。そんなもん存在するはずないだろ)

 小井戸はふざけているんだ――と、判断した。しかし、


「飛んだ――マズイ、学校の方に行っちゃう。俺、行きます!」

「お、おい!」


 小井戸は忙しなく屋上から出て行った。



 *



 コウ=ハーディライトは状況が呑み込めないまま、ひとまず広場に降りた。

 近くにいた自治会の人間に声をかける。


「おい、何があった」

「――――」

「おい!」

「はっ――ゴウさん」

「何を呆けているんだ。こんな時に――それより、リードはどこにいる?」

「会長ならあそこで――――あれ?」


 広場の入り口付近を指さして、首を傾げる。


「さっきまであそこにいた――か?」

「は、はい」


 ゴウが走り出す。

 彼が指をさしたのは、さっき何かが飛んで行った場所だったからだ。

(誰もいない――となれば)

 キョロキョロと見まわし、大きくえぐれた壁を見つける。

 急いで駆け寄ると、穴の向こうでパラパラと瓦礫を踏みながら何かが動いている。


「リードか?」


 ゴウが問いかけると、穴の中から人影が現れる。


「あ、ああ――ゴウいたのか」

「はあ――呑気な奴め。無事なのか?」

「ああ、そこらじゅう痛いが、それだけだ。まったく、だから戦うのは苦手だと言ったんだ」

「誰にだよ」


 ゴウが密かに胸をなでおろす。


「それで、誰にやられたんだ?」

「誰と聞かれれば――レターくんだ」

「は? なんであいつがお前に攻撃するんだよ」


 煤だらけで服はボロボロ、体中に細かい傷ができている。しかし、リードは無表情だ。


「よく分からんのだ。全員に吸血し終わったところで、彼は突然叫びだした。何やら体から黒い煙が噴き出して――気づいたら僕は弾き飛ばされていたよ。攻撃された自覚はないんだがね――なんだったんだろうね?」


「だろうねって、お前な――その黒い煙ってのは何なんだよ」

「それはきっと魔力でしょう」

「ん? ロカか」


 リードと同じくボロボロになったロカが通りの向こうから姿を現した。

(そうか、弾き飛ばされたもう一人は彼女だったか――こう言っちゃなんだが、丈夫な奴でよかった)

 彼女は足を引きずったり、どこかを庇ったりしていない。全く無傷のようだ。


「密度が濃すぎる魔力は、光を吸い込むような漆黒色になります。私は一度見たことがあります――」

「魔力? ということは、レターが吸収した魔力が暴走したってことか?」

「いえ、私にはそうは見えませんでした。徐々に苦痛が増していって、堰が決壊する――ということなら納得できます。しかし、レターさんの場合、本当に突然でした。私は警戒して見ていたので確かです」

「何か訳がありそうだな――おいリード、これからどうすんだよ」


 二人の視線がリードに集まる。


「取りあえず追いかけよう」


 至極まっとうな返答に、二人はガクッと肩を落とした。


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