独裁のエアディシルク 4
苦し気に眠る男の子――私とロカはベッドの傍で黙っている。
だめだ……私は沈黙が苦手だ。
「あの、ロカさんはさっき、この方と面識があると言っていましたが、どういう関係なんですか?」
一生懸命話題を探した結果、そんな質問が出てきた。どうでもいいと言えばどうでもいいんだけど、ちょっと気になる。
ロカは少し困った顔をした。
「どういう関係かと聞かれると、うまい言葉が浮かびませんね……知り合い以上友達未満というかんじでしょうか。自分でもよく分からない関係です。分かりづらいですよね……」
「い、いえ。知り合い以上友達未満――私にもそういう相手がいます。よく分かる気がします!」
私はレターのことを思い浮かべていた。
最初に会ったのはいつだったか――まだ言葉も喋れない幼い頃だったはずだ。
子供の頃はいつも一緒だった。私の思い出には必ずレターが出てくる。楽しい思い出、悲しい思い出、全てレターと共有している。
でも、いつの頃からか彼は私を避けるようになった。その理由はよく分からないけど、私はぎくしゃくした関係が嫌だった。どうにかして昔みたいに楽しく話したかった。一緒に遊びたかった。
だからルドラカンド学園に入学して、同じクラスになったとき、すごく嬉しかった。会う機会が増えれば、きっと昔のような関係に戻れると思っていた。
しかし、レターは行方不明になってしまった。
いろんな思い出が蘇る――会いたくても会えない現状が、よりリアルに感じられて息が苦しくなる。
彼が帰ってきたら私と話してくれるだろうか。昔みたいに笑ってくれるだろうか――知り合いだけど友達じゃない――そんな関係に変化は起きるのか。
「これをどうぞ」
「――?」
ロカが差し出したハンカチを見て、私は自分が泣いているおとに気づいた。
「す、すみません」
ハンカチを受け取り目元にあてる。なんだか恥ずかしい……。
「会長と一緒にいたということは、あなたも人探しを頼んだんですね? 心配なんですね」
「い、いえ。別にそういうわけじゃ」
「そうなんです?」
「ええと……そうです」
私がしどろもどろに答えると、ロカはクスッと笑った。そして「お人好しと言われませんか」と聞いてきた。リードにも同じことを聞かれたけど、なんなんだろう……。
どうにも恥ずかしくなり「さ、さあ」と、とぼけておいた。
*
それから三十分ほどでコイドは目を覚ました。
自治会室から二人が呼び戻された。
「それで、コイドくん。あの怪我人をどこで見つけてきたんだ?」
リードに聞かれると、コイドは「ええと――」と少し考えて、
「見つけたというより、襲われたんです。
俺はちょっと用事があって図書館にいたんですけど、その帰り暗くなった道を歩いてたら、あの人が突然後ろから襲ってきたんです。
それで首を噛まれました」
「首を噛まれた?」
「はい。ほら――」
コイドが服をずらすと、確かに首の付け根あたりに血がついていた。
エイモスが額に皺を寄せて、
「なんでお前が襲われたのに、あっちが重症なんだ? 戦ったのか?」
コイドは手をぶんぶんと振る。
「ち、違うよ。俺は何もしてない。噛みついたあの人が勝手に倒れて動かなくなったんだよ」
「それは不自然だろ。なにか訳がありそうだ」
「ちょっとエイモスくん! 俺を疑ってるの? 友達なのにい……」
情けない声を出してエイモスに縋りつく。なんだか変な人だ……。
と、ずっと黙っていたロカさんが口を開く。
「私はあまり魔法に詳しくないのですが、体に貯蔵できる魔力の量は決まっていると聞いたことがあります。それを超えた魔力を吸収してしまうと体がおかしくなるとか――。
あっていますか?」
リードが頷く。
「その制約を超えるために収集物質が見いだされたわけだな。まあそれはいいか。
ロカくん、ぼくも君と同じことを考えていた。しかし、そうなると、コイドくんはとんでもない魔力貯蔵量を誇っていることになるが?」
皆の視線がコイドに集まる。なぜか、てへへ――と照れていた。
ロカがガクッと肩を落とす。ジトーッとした目で彼を見ている。
「会長、光を吸収するほど濃密な魔力を見たことがありますか? 私は見ました」
「ほう――」
二人は難しい顔で話し込んでいる。
私は話の流れがよく分からない。
隣で背筋を伸ばして立っているエイモスに聞いてみた。
「あの怪我人は噛みついてコイドの血を飲んだんだろう。魔力は血液と一緒に体を循環する。怪我人はコイドの魔力を吸収し、さっきロカさんが言っていた容量を超えてぶっ倒れたんじゃないか――って話だ」
ぶっきらぼうだけど丁寧に説明をしてくれた。
なるほど――となると、このコイドという人はとんでもなく強力な魔力を持っているんだ。
「ねえねえエイモスくん。次の休みこそ一緒にマーケット行こうね!」
「そんなこと言ってる場合か!」
とてもそうは見えないが……。
「異様な体といい、吸血行為といい、不可解なことが多すぎる。君のお父上なら、なにか分かるかるんじゃないか?」
「そうですね。手紙を出してみましょう――三日あれば折り返しの手紙が到着するでしょう」
「すまんね。よろしく頼む――情報が入るまで下手に行動することはできない。混乱を招くだけだからな。
――君たち、僕と約束しよう」
リードが皆の顔を一通り見て、
「今日ここで見たことは言いふらさないでくれ。それから、暗くなってからの外出は禁止。自治会メンバーは数人でチームを組んで見回りでもしようか。追って詳しい連絡をしよう。ああ、また仕事が増えた。
ということで、いいかな?」
一斉に頷く。
なんだか大変なことになっている。
私は、無事解決すればいいな――と無責任なことを考えた。
レターのためにも、自分にできることがあるならやりたい――とも思っていた。




