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新たなる英雄の心労 16



「また来たのか。君も懲りないね」


 スターウェイは少し楽しそうだった。

いつもの映画館は相変わらずボロくてタバコ臭くて静かだ。


「今日は聞きたい事があってさ。<ブラックダイアモンド>知ってるよね」


 彼は少し遠い目をした。


「懐かしいな――アレはボクが作った中でもとりわけよくできた兵器だ。でも資金的な問題で量産はできなくて、結局三隻しか作れなかった」


 世界の半分が国土だった魔法都市でさえそれだけしか作れなかったというなら、ブラックダイアモンドはよっぽど高い物なんだろう。

 港守軍とノルヴェルトはそんな代物をどうやって作ったのか。旧貴連合の財産が元になっているのは確かだろうが――

 オレが考えていると、スターウェイは先回りして答えた。


「まあ、どちらでもいいんだけど、今あの町の港に浮いているブラックダイアモンドは正真正銘、魔法都市時代に作られたものだよ。ボクが言うんだ、間違いない」

「そうなの? でも、魔法都市が滅びたのは五百年も前――それからずっとあそこにあるってことになるけど」

「その通り。アレはそういう物だ。ボクが封印されて魔法都市が消滅しても、時代が変わり新しい人々が訪れて新しい港を作っても、あの船は誰にも知られず永遠に停泊し続ける――船守の一族が現れるまではね」

「船守?」

「一番気の合う友人にブラックダイアモンドを託したのさ。船を見つけたり触ったり出来るのは船守の一族だけだ。それがあの船の兵器としての特殊な部分だ。船守の一族が裏切らなければ決して破られず盗まれず複製もされない――闇の中に存在する永遠――だから<ブラックダイアモンド>」


 さすがは魔法王、スケールが違う。今更だけど、驚いた。


「じゃあ、オレが港守軍の研究室で見つけた船の設計図も魔法都市時代のものだったってことだね」


 あの設計図があったからノルヴェルト達がブラックダイアモンドを作ったと思いこんでいた。でも、それはあり得ないと今なら分かる。話しを聞いた限り、ブラックダイアモンドを作れるのは船守の一族だけだ。

 しかしスターウェイは頭を振った。


「いや、違う。残念ながらね――あそこまで厳重に隠した兵器の設計図なんて真っ先に処分してしまうはずだろう? もちろんそうした。だから、君が見た設計図は最近作られた物だ」

「――――」


 オレはすぐには言葉の意味が分からなかった。でも、すぐに気付く。


「船守の一族――その子孫が?」

「だろうね。嬉しいやら悲しいやら、複雑な気分だよ」


 魔法王は珍しく苦笑を洩らした。



 *



 既に町は目と鼻の先――そんな場所で彼らは待ちかまえていた。少し濁ったブルーの制服を着た男たちは刃先の湾曲したサーベルと小型の銃を装備している。港守軍だ。

 ポーリンが足を止める。

 すると、ブルーの一段の先頭に立っている男が口を開いた。


「その子を渡してくれれば君たちは見逃す」


 手短に用件を述べてレターに背負われたバートを見た。


「この少年ですか? なぜ欲しがるのです」


 ポーリンがズバリと聞く。

 しかし、男は彼女の方を見ない。バートに向かって言う。


「ベルン君が会いたがっているんだ。来てくれるね?」


 それは、レターやポーリンには理解できないセリフだった。

 しかし、“ベルン”という名前を聞いた時のバートの様子は尋常じゃなかった。


「ベルン――ベルンが生きてるの……?」


 呼吸の方法を忘れてしまったかのように少年は苦しげに問いかけた。


「ああ、生きている。私たち港守軍が保護している。しかし、訳あって外に出られないのでね、だから君を迎えに来た。会いたいだろ――お兄さんに」


 黙って会話を聞いていたレターだったが、背中でバートが暴れ出したので堪らず膝をつく。少年は彼の背中から飛び降りる。


「お、おいバート?」


 バートには聞こえていないようだった。自失したような目で一心不乱に港守軍の男を見つめて「ベルン――ベルン――」とうわ言のように呟いている。

 レターは困惑してポーリンの方を見た。しかし、彼女も状況がつかめていないようで黙っている。


「さあ、バート君。我々と一緒に行こう――ベルン君が待っている。早く君に会いたい、とね」

「ベルン……」


 とうとうバートは歩き出した。港守軍が待つ方へ。


「――だめだ、バート。行くな!」


 このままにしてはマズイ――根拠は無いが強烈にそう感じてレターは叫んだ。

 しかし、バートは振り返りもしない。ゆっくりと進んで行く。


「バート!」


 レターは強引に少年の肩を掴もうとした。しかし、ポーリンに止められてしまった。とっさに彼女の方を睨む。何故邪魔するんだ、と。

 ポーリンは冷静な表情で、冷酷に言う。


「あれだけの兵士――手負いの私でも頑張れば勝てるかもしれませんが、なりふり構っていられません。ここで戦いが始まる――その場合、最も危険なのはこの少女ですよ」


 ハッとしたレターだった。全くもってその通りだ。気を失ったままメイドに背負われているノームは全くの無防備である。

 ノームとバート、どちらの安全を優先するか――いつの間にかそんな分水嶺に立たされている。

 そして、その答えは考えるまでもなく決まっている。


「…………」


 レターは顔を歪めて俯いた。

 もし港守軍がバートに危害を加えるつもりなら今ここでやればいい。そうしないということは、少なくとも今すぐにバートが傷つけられることは無い。ならば、態勢を立て直して奪い返すという手段をとれる。

 しかし、ここで戦ったらポーリンが言った通り、ノームの命が危険に晒される。

 だから沈黙――全て敵の思い通り。

 悔しくてたまらない。でも、どうする事も出来ない。


「クソッ!」


 怒りを地面にぶつけることしかできない――レターは自分の無力さを呪った。

 


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