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新たなる英雄の心労 6



 二人がそこを通りかかったのは全くの偶然だった。

 ちょっとした広場の中、数人の子供たちが輪を作っており、その中に誰かがうずくまっているのが見えた。

 二人は一瞬顔を見合わせて、それから子供たちの方へ駆け寄って行った。

 少女が声をかける。


「ねえ、何やってるの?」


 すると、輪を作っていた子供たちは二人を一瞥して、しかし何も言わずに銘々走り去って行った。

 蹲っている一人が残された。

 

「君、大丈夫?」


 少女が問いかけると、その人物はゆっくりと立ち上がり、


「お姉さんたち、だれ?」


 と言った。まだほんのあどけない顔には若干の警戒が浮かんでいる。

 それを払拭するべく少女は優しい口調で、


「私はノーム。そんで、こっちはレター。よろしくね――君の名前は?」

「バート」

「そっか、バートくんね。それで、えっと――さっきの子たちに……何されてたの?」


 その質問をするには相当な覚悟が必要だった。だが、聞かずに去る訳にもいかなかった。

 するとバートは目を反らして、


「べつに――遊んでただけだよ」


 と言った。

嘘だろうな――ノームもレターもすぐにそう思った。もし本当に遊んでいたのだとしたら、さっきの子供たちはどうして一目散に逃げ出したのか分からない。やはりこのまま放ってはおけない。しかし、無計画に聞きたてるのもいかがなものか――の―ブが迷っていると、突然レターが歩み出てきて、バートの前でしゃがみ、視線の高さを同じにしてから、

 

「きっかけは? どうしていじめられてるんだ?」


踏み入った質問をした。

すると、バートの小動物のように大きく真ん丸な目が見開かれた。。

 ノームが声を荒げる。


「ちょっと、レター! そんな、ズバッと聞いたら困っちゃうでしょ」


 しかしレターはこれを無視して、


「実はさあ、オレも昔いじめられててさ――こう言っちゃ煩がられるかもしれないけど、君の気持は何となく分かるんだ。そうだ、当ててみようか」


 砕けた口調で言った。

 すると、バートはハッとした表情になり、どういう訳か一瞬ノームの方を見てすぐに目を反らした。

 バートの一連の仕草を見てレターは微笑んだ。そして、


「バート、君は強いね。安心したよ。いじめなんてすぐ辞めさせられるさ」


 と、妙に断言した。


「ちょっと、なに訳わかんないこと言ってんのよ、バートくん困っちゃうでしょ」


 ノームは叱るような口調で言ってはみたものの、


「ホント?!」


 言われた本人が目を輝かせて問い返したのでそれ以上何も言えない。

 レターはそんな彼女と少年を交互に見つつ、


「まったくさ、こういうとき女ってヤツは空気読めないよな。そう思わないか、バート」

「ええ、なによそれ――」

「いいんだ、バート、言わなくていい。オレには分かるからさ。やっぱりさ、こういうときは絶対に言いたくないんだよ。そうだよな?」


 バートは何も言わずレターに真剣な眼差しを向けている。それは無言の肯定だった。

 レターはうんうんと頷いて、バートの頭を乱雑に撫でつけた。そして、


「いじめられてる訳を聞かせてくれるか?」


 改めて問うた。

 するとバートは、


「――分かった」


 と素直に頷いた。


「訳わかんない……」


 男同士の密通を目の当たりにして、憮然と呟くノームだった。

 その直後、バートは何の脈略もなくある方角を指差した。

 二人は釣られてその方向に目を向けた。その先には町が広がっていて、さらにその先には数隻の船が停泊する港がぼんやり見える。

 そして、バートはポツリと言った。


「見える? あれは“ブラックダイアモンド”っていうんだけど――」



 *



 孤島では平穏な日々が続いていた。

 しかし、そんな中、溜息をついてとぼとぼ歩く男が居た。ダイルである。

 彼は、あの日、落ち込んだアメリアと接して以来、彼女に本気になってしまっていて、他の何にも手が付かない状態なのだった。ダイルは様々なアプローチを試みた。が、どれも今一つ効力を発揮しない。話しかけてもすげない態度をとられ、食事に誘えばダブルブッキング、そして一緒に孤島に来たのをいいことに頻繁に話しかけたり食べ物を差し入れたりしているのだが、それもあまり上手くいかない。

(なんなんだ、あのサラとかいう女は――お前のせいでアメリアはオレとロクに話してくれなくなってしまった! それになんだ? ボクが頑張ってとってきた果物を「怪しい――」とか言いやがって、お前がそんな事を言うからアメリアも受け取ってくれなかったじゃないか! まったく、まったく――――!)

 今もアメリアに会いに行った帰りなのだった。今日も今日とて彼女の傍に何時もいる(実際はアメリアが更に付きまとっているのだが)女に邪魔されて、まったく会話にならなかった。

 遣る瀬無い怒りを抱えつつ自分の小屋に入って行く。

 

「どうかしたか、ダイル」


 部屋にはすでに一人いた。ダイルのこの島でのルームメイトであるメルシエという男だ。細面で体格もすらっとしており、鋭い切れ長の目が特徴的な人物だった。


「別に」


 ダイルは短く答えると、自分のベッドにバフッと寝転がった。

 

「またあの女か? お前も懲りないな」


 茶化すような口ぶりに、ダイルはムッとして、


「うるさいな。放っといてくれよ」


 と言ってそっぽを向いた。


「――――」


 メルシエはダイルの背中をジッと見つめている。その顔には何の感情も浮かんでいない。しかし、


「いいことを教えてやろうか――きっとアメリア譲をモノにできるであろう耳より情報だぜ?」


 その言葉はとてもフランクでふざけているような響きがあった。目は鋭い刃物のようであり、口の両端は弓なりに下がり、頬はピクリとも強張っていないのに、である。酷くチグハグで不気味な光景だった。

 ダイルは言葉を返さなかったが、固唾をのんで耳をそばだてていることは雰囲気で丸わかりだ。

 メルシエはその変わった腹話術のようなスキルで続けた。


「ほら、例の早朝日報の伝記風記事。もちろん君も読んだだろう? その後半部分に、アメリア譲が怪我のせいで二度も気を失う場面がある。その部分で、妙な噂が立っていてね――なぜ彼女は二度も気を失ったんだろうね。まあ、一度目は失血が酷かったらだろうけど、じゃあ、二度目はどうだ? 小屋のドアを開けた瞬間に気を失ったと記されていたが、何か変だ。貧血で倒れたのであれば、起き上がった瞬間にそうなってたはずだろう――でも違った。なぜだろうね」


 回りくどく、ねちっこい文脈――ダイルはまたもやイライラして、


「面倒なヤツだな君は、結論を言えよ!」


 と怒鳴った。

 すると、メルシエは急に出し惜しみを止めて、


「ボクの集めた情報を羅列しよう――アメリア譲は銃気を一切使えない、彼女の母は避難中に起きた火災で命を落とした――そして、あの日ケイロスの施設は燃えていた――」

「――――!?」


 ダイルはゆっくりと体を起こし、後ろを振り返った。


「――メルシエ、君は、いったい……」


 メルシエはいつの間にか窓の方を見ていて、顔は見えなかった。




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