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一段落つきまして



 なんとなくすべてが丸く収まった。そんな感じだった。

 俺はスターウェイの力を封じる指輪をもらい、地上に帰ってこれたので学校に行く準備は完璧。この世界にきて約一か月――色々あったけど、結構いい感じだ。

 アーネはすごい力を手に入れた。本人に聞いたところ、五感を縛ることで身体能力を上げる魔法のようだ。彼女は、その魔法とジードさんが手を加えて完成したというカッチョイイ武器ハニータルトを使って、戦車とかいう魔法兵器を一瞬で二体も倒したらしい。そのとき俺は空を飛んでいたので現場にはいなかったが……。

 メシアは相変わらず元気だ。彼女は今回のいざこざの中で待ち続ける役回りだったが、じつは一番の活躍をしていた。ロカから聞いた情報から、メシアは村が襲われる可能性が高いと判断したらしく、町民を避難させたらしい。大手柄だ。おかげで、一人も被害者は出なかった。なぜメシア自身は避難しなかったのか、と聞いてみたのだが、曰く見張りを止めたくなかったそうだ。 ――まったく普段は腹黒なのに、たまに健気なところを見せやがって……。

 ロカはかなり落ち込んでいた。何もできなかった――と自分を責め続けているようだ。本当に責任感が強い女の子だ。本人は口にしなかったが、彼女は俺たちのことを思って立ち回ってくれていたようだ。それに、最初に村を守ったのは彼女なのだから、胸を張るべきだ――と言ってはみたのだが、力なく笑うだけだった。

 後日談として――村を襲ったという族は、全員アジトで死んでいたらしい。ブーズステューの調査で明らかになった。表向きは戦車の暴走で殺されたということになったそうだが、その真実は分からない。自業自得とはいえ、少し気の毒だ。

 戦車は資料としてブーズステューが回収した。その出どころを調べているそうだが、恐らく分からないだろうとデンガットという兵士が言っていた。誰がどんな目的で戦車を族に与えたのだろう――俺が気にすることではないんだろうが、気にかかる。

 破壊された村は、順調に再建されつつある。町民たち、ブーズステューからの有志、そして俺たち――手はいっぱいある。それに、再建の資金もすぐに集まった。すべてブーズステューが出してくれるそうだ。実は、戦車を倒したアーネへの謝礼金だったのだが、彼女は一瞬も悩まず”村のために使っていいか”と俺に聞いてきた。そんなのいいに決まってる。村長さんは泣いて喜んでいた。

 


 ということで――


「ううう……疲れた」


 カンカンカンと金槌の軽快な音が響いている。灰の匂いは既になくなり、独特な木材の匂いが満ちている。

 そんな活気に満ちた村の中で、俺は鋸を投げ出して尻餅をついた。大工仕事って辛いんだね……まだ昼だってのにフラフラだよ。

 天を仰いでいると、怒った声が聞こえた。


「ちょっとコイド! サボっちゃダメでしょ」


 メシアだ。シャツに汗をにじませながらレンガに土を塗っている。


「ちょっとだけ休憩。ちょっとだから、な?」

「もう――もやしっ子だなあ」


 メシアは腰に手を当てて頭を振る。俺は、悪かったなモヤシで――と、心の中で毒づく。

 そのときだった。突然頬にヒンヤリしたものが当たって俺は飛び上がる。


「うひゃ!」


 振り返ると、そこにアーネがいた。汗をかいた金属製の水筒を持って、悪戯に笑っている。


「お茶です。どうぞコイド様」

「お前ね……サンキュ」

「アーネちゃん私のは?」

「ありますよ」


 やった! ――とメシアが駆け寄ってきて、アーネから水筒を受け取ると俺の隣に座った。


「サボっちゃダメ――じゃないのか?」

「休憩だもーん」


 さいで。


「アーネ、体はもういいのか?」

「ええ、だいぶ良くなりました」


 彼女は大工仕事に参加していない。肉体強化魔法を使った反動で重度の筋肉痛になり、ベッドから起き上がることができなかったのだ。

 戦車と戦った直後は、首も動かせないような状況だったが、あれから一週間――日常生活程度の運動ならできるようになったので、食事の用意や雑用などの仕事を村の奥さん方と一緒にこなしている。学校が始まるまる頃には全快するだろう。


「学校か――」


 もうすぐ学校が始まる――そのことを考えると落ち着かない気持ちになる。

 もう一度生きられるなら、全力で生きて明るく楽しい未来を手に入れる――俺は、むこうの世界で死ぬ間際にそう決意した。スターウェイの体で蘇った今となっては、その決意は”目標”に変わり、異世界で新しい生活を始めた俺を支えている。

 しかし念願の学校生活を目の前にして、俺はなぜか不安を感じている。マリッジブルーみたいなものだろうか。

 不安ついでに聞いてみた。


「なあ、二人は学校に行くことをどう思ってるんだ? ――俺が勝手に決めちゃった訳だけど、嫌じゃないか?」


真っ先に答えたのはメシアだった。


「私はすっごい楽しみだよ! いっぱい勉強したいし、友達も作りたい。でも一番楽しみなのは二人と一緒に暮らせることかな」


 明るい彼女らしい回答だ。将棋が強かったり、村人を逃がしたりと頭の回転が速いメシアなら、きっと学業で良い成績を残すだろう。裏と表を使い分けて人間関係も上手に築くんだろうな。

 一緒に暮らせて嬉しいのは俺も同じだ――――でも聞いてない。


「ちょってまて、一緒に暮らすの? 三人で?」

「そうだよ。学生寮を借りてあるんだ」


 まてまて、知らなかったぞ。

 アーネも知っていたようで、別に驚いていない。


「い、いつ決めたんだよ」

「ずいぶん前ですよ? 入学用の書類を提出するのと一緒に申請しておきました」


 さらっと言うが……。


「それはマズいだろ。若い男女が同じ部屋で暮らすってのは……」


 俺の目標は全力で生きること。そこに、異性との楽しいアレコレという項目も勿論ある。な、何かあっても知らんからな。

 背徳感と楽しい妄想の板挟みにされる俺。それを乾いた眼で見つめるメシア。


「いやらしい妄想してるとこ悪いけど、同じ部屋って言っても鍵のついた個室が三つある部屋だよ」

「……なーんだ」


 ちょっと残念。

 気を取り直して。


「アーネはどうだ? 学校嫌じゃないか?」


 彼女は少し考えてから口を開いた。


「そうですね――嫌ということは全くありません。コイド様と一緒にいられるだけで私は満足ですし、学校という場所に興味もあります。ただ、一つだけ不満があるとすればコイド様と学部が違い、会える時間が減ってしまうことでしょうか」


 いやあ、嬉しいね。最初は危ない感じの女の子かと思ったけど、ブラクコンティーンに行ってからアーネは落ち着いたよね。ジードさんのおかげかな。ちょっと近寄り難い雰囲気だけど、美人だし優しいし強いし――俺のそばにいるだけじゃ勿体ない。学校でいろんなことを知ってほしいな――なんちゃって。

 たしかに違う学部ってのは寂しいね。休み時間と放課後しか会えなくなる。その、なんだ――課題とか出た場合助けてもらおうと思ってたんだけど、それもできないしね。

 あと、聞いてない。


「え、俺たち違う学部なの?」

「言ってませんでしたっけ」


 聞いてないぞ!

 アーネは申し訳なさげに説明してくれた。


「私とメシアは使用人が集まる学部に登録しました。本学部は社交界と同義ですから、コイド様に仕える私たちが入るわけにはいきません。私としてはコイド様と一時も離れたくないのですが、こればかりは仕方がないですね……」

「そうだったのか」


 社交界とかよくわからない単語が出てきたけど、まあ行きゃ分かるだろう。

 何はともあれ、二人の話を聞いて少しは不安も和らいだ気がする。

 よーし、気合い入れて行こう!

 さしあたっては――そうだ。人生の先輩として、二人に忠告をしておかねば。


「二人ともよく聞いてくれ――いいか、学校での人間関係ってのは最初が肝心だ。グループってのは一瞬で出来上がり、ほとんど形が変わらない。つまり、入学式で少しでも多くの同級生と話しておけば、その後の人間関係において有利ということだ。逆に、入学式で態度が悪いとグループに入れず、惨めな学園生活を送ることになる可能性が高い……いいか、そのことをよーく覚えておけよ」


 ふふふ――どうだ、目から鱗だろう。経験者は語るのだ。

 精神年齢三十歳の俺をたまには尊敬するといい。

 ――しかし、二人は何故か目をそらした。


「あの、コイド様――言いにくいのですが……」


 なにかな?


「入学式はとっくに終わりました」

「……はい?」


 なんということでしょう……どうやら入学式は絶対参加しなければならないイベントじゃないらしい。俺がブラクコンティーンに行くと言い出したので、参加は諦めたそうだ。


「す、すみません。知っていて旅に出ると仰ったのかと思っていました」

「い、いや。いいんだ……過ぎたことさ。ははは――――」

「コイド、顔真っ青だよ。 ――さては、友達作る自信無いね?」

「…………」


 俺は何も言えなかった。図星である。


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