表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/253

枢軸への旅 15



 炎――それがレフォーラに与えられたスキルだった。

 人であれ、モンスターであれ、容赦なく燃やしつくすその力は強大だった。およそ並び立つ者が見つからぬほど際立ったスキルだった。それに加え、同胞殺しにより彼のレベルは八十の大台に届いていた。スキルは言わずもがな、体力フィジカルですら他を凌駕しており、彼のダンジョン攻略は盤石と言えた。

 しかし、彼がそうであったように、世界とは残酷である。


「…………あぁ」


 最初に右手が動かなくなった。すぐに左手ダメになった。右足に異変を感じた時、逃げることを諦めた。そして、左足に痛みを感じた時、その場に倒れ伏した。

 生命が血に溶け流れ出るのを感じる。消失の切なさと旅立ちへの後悔に苛まれる。

 なぜ私はこうなったのか――いったい誰が――いったいどうやって――そして、私は死ぬのだろうか――。

 朦朧とした意識の中、浮かんでくるのは疑問ばかり。

 分からないことばかりなのだ。そして、


「……――」


 やはり、何も分からぬままレフォーラは事切れた。

 最後の瞬間、彼に理解できたのは、眉間に現れた冷たい感触だけだった。



 *



 二人が広場に向かったのは、そこがこの戦いにおける本陣のような場所だったからだ。追跡を諦めた人間が戻ってきているかもしれない。情報共有のためにも一度合流しておくべきだと考えたのだ。

 しかし、広場には誰もいなかった。

――生きている人間は、である。


「おいおい……こいつ強かったんじゃねーのかよ」


 血の海に沈むレフォーラを見下ろして巨体の男は慄いた。


「戦いの痕跡がない。多分不意打ちでやられたんだろうね――まあ、天罰が当たったって感じかな。この人も大勢の人を不意打ちで殺して来たんだから、最後はこんなもんだよ」


 少女は眉一つ動かさず冷静に言った。


「今度こそ終わりだろ、お譲ちゃん。雇い主が死んでオレたちがフィルグランドを追いかける理由が無くなった」

「うーん……私もそうかなと思ったんだけどさ――フィルグランドはまだ近くに居るよ。そんで、私たちは狙われてる」

「なっ――マジか!?」


 男は思わず辺りを見回した。濃密な闇が満ちる迷路の町――しんと静かであり、異常は感じられなかった。


「安心していいよ。その人を抱えてる限り、おじさんは安全みたいだから」


 男はローブの男を肩に抱えていた。フィルグランドの関係者としてレフォーラの前に突き出そうと思って連れて来たのだ。とうのレフォーラは既に亡くなっており、無駄足に終わったが。


「姿が見えないし、匂いもしないし、物音も聞こえない――でも、視線だけは分かる。やる気満々って感じだなあ」


 困ったなあと肩をすくめる少女。


「おじさんからすぐに視線を反らしたのは、その人を抱えてるからだろうね。やっぱり仲間だったんだ。ってことは、敵の武器は遠距離攻撃用のもので、そこまで正確な目測を付けられない」

「あるいは、範囲がでかいって可能性も」

「それは無いかなあ。レフォーラがこんなに綺麗に死んでるし、それに、そんな攻撃ができるなら替え玉に市街戦をさせたりせず、一気にドーンてやるでしょ」

「ああ、そ、そうか」

「うーん――どうしよっかな。おじさんはどう思う?」

「……逃げたい」

「そっか! じゃあ、おじさんはそこに居てね」


 少女は大して悩みもせず走り出してしまった。

 男は心細くなって慌てる。


「お、おい、一人で逃げるってのかよ? 薄情者!」


 少女は僅かに後ろを振り返って、


「逆、逆――間の悪いおじさんが逃げたいって言うから、戦ってくるよ。おとなしくしてるんだよ? 待っててねぇ――」


 そんな言葉を残して、すぐに姿が見えなくなった。


「おりゃ子供かってんだ……」





 最後の最後でしくじったな――浩平は早くも悔いていた。

 二の矢を防ぐ意味でも、レベル上げの観点でも、敵勢力は一人残さず片付けておくべきだと判断し、こうして物陰から広場を観察していた。しかし、それは失策だったに違いない。

 まさか、あそこまでの人間がいたとは……たった一点、ほんの小さな誤算。しかし、それが全てを滅ぼす。


「逃げないの?」


 さあ来た。死神だ――。浩平はゆっくりと立ち上がり、その人物を見やった。

 白銀の髪、幼く美しい顔――およそ戦いなど知らぬ純真さが体中から沸き立っている。


「逃げられないからね」


 そう、この少女に見つかった時点で浩平は終わりなのだった。唯一、彼が取るべきだった行動は、存在を知られる前に逃げる――それだけだった。


「どうやってレフォーラを倒したの?」


 問われて、浩平はポケットの中からそれ・・を取り出し、投げた。少女はそれをキャッチし、しげしげと眺めた。


「うん? 何これ」

「ソイツはリボルバーという名の銃だよ。オレが最初に居た世界では手軽に人を殺せる武器として重宝されていた。こんな世界ところに追い込まれても、そういう道具を作る奴がいるもんだ。まあ、そのおかげでオレは随分レベルを上げることができたけどね」

「へえ、こんな小さな物であんなに綺麗に人を殺せるなんて、凄いや」


 心底感心したように言ってから、少女は銃を投げ返した。

 浩平は意外には思わなかった。彼が負けを認めているように、彼女は勝ちを確信している。


「さて、どうしよっか。そんなサッパリした顔を見せられると、私も困るんだよねえ。どうせなら命乞いしてくれたり、戦ってくれたりした方がやりやすいんだけど――」


 浩平の表情に変化はない。そうする気はない――ということだ。

 

「じゃあ、私の部下になる? 殺してあげてもいいんだけど、べつに理由が無いんだよね」


 とんでもない提案であるが、少女は冗談で言っている訳ではないようだった。


「お前に所有されてやってもいいが、オレの言うことを聞いてもらうぞ。それが嫌なら殺せ」


 浩平もとんでもないことを言う。

 きっと広場で待っている巨体の男がこの場に居れば、訳が分からなくなり怒鳴り散らしていたことだろう。しかし、この二人は、この奇妙なやり取りを、後生真面目に語り合っているのだ。


「ねえ、聞かせて――目的はなに?」

「復讐と帰還」

「そのために手段を選ばないって感じ?」

「あいにく、オレはザコでね。選べるなら選びたかったよ」

「私の力が羨ましい?」

「人殺しになる前に出会っていれば、羨ましく思っただろうね」

「そっか、うん――分かった。じゃあ、君は今日から私の部下ね」

「浩平だ――分かった。お前は今日からオレの主人だ。手足となって働いてもらうぞ」

「ルーシエだ。ルーでいいよ。うん、何でも言って」


 こうして、奇妙な共闘関係が成立したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ