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枢軸への旅 6



 買い物かごをさげて並んで歩く二人――。

 恋人らしく――それは、具体的にどんな行動の事を指すのだろうか。浩平は、そのことばかり考えていた。

 町を出ると、少し景色が寂しくなる。もう少し進めば、二人が借りた家に着く。その頃になると、浩平の中の悩みは迷いに変わっていた。

 色恋沙汰に対する乏しい知識の中で、こうして並んで歩く時、最も恋人らしい行動は“手つなぐ”ことだろうとようやく思い至ったが少し前。しかし、依然黙って並んで歩いているのは、照れが手を止めているからだ。

 自分はセナに“恋をした”という実感を与えるためここに居る。切っ掛けこそなし崩しだったけど、彼自身、彼女の役に立てるならそうしたいと思っている。だから、手をつなぎに行けない自分がもどかしく、苛立つ。

 細い道の先に小さな家が見えだした。あとほんの僅かで着いてしまう――浩平の迷いは溜息を伴い、諦めに変わりつつあった。

 セナの手が浩平の手を握ったのはそんな時だった。

 ハッとして、そちらを見る浩平。

 セナは愉快そうに笑っている。


「積極的な女――とは思わないでください」


 それは、慎みを込めた謙遜に聞こえたが、しかし彼女の真意はそこにはなかった。


「町を出た辺りで、思いついたんです。きっと、本物の恋人だったら手を握りあったりするんだろうなって。でも、私はそこまで積極的になれそうにないので、黙っていました。

 でも、何気なくコイドさんの顔を見たら、とても悩んでいるようだったので、もしかして同じことを考えているんじゃないかと、思い立ったんです」


 まさしく図星だった。頷く浩平。


「二人とも同じことを考えていて、同じように尻込みしていたと思うと、もう可笑しくって――気づけば手を握っていました」


 なるほど、と思う。もし相手も悩んでいることに気づいていれば、浩平も同じようにしたかもしれない。

 二人は、憑きものが落ちた様な晴れやかさで残り短い家路を歩いた。それが恋人らしいかといえば、浩平にとって疑問だったが、そんなことは割とどうでもよく思えた。


「悩んでくれてありがとうございます――でも、意気地なし」


 コケティッシュな笑顔と共にセナがそう言ったのは家のドアを潜る手前でのことだった。


「…………」


 ドアの前に一人置いて行かれる浩平。

この胸の中がざわめくような感覚は、きっと“そういうこと”なんだろう、と流石の彼も自覚した。

“恋とは堕ちる者である“なんてロマンチックなだけのキャッチフレーズだと高をくくり三十年生きて来た。それが、たった一瞬、たった一言で「あながち嘘ではないかもしれない」と真面目に信じそうになっている。

 それほどまでにセナの一言は浩平にとって衝撃的だった。



 *



 レフォーラ率いる一団は快進撃を続けていた。

 三十階は熱帯雨林のステージ。鬱蒼とした森の最深部に鎮座する石造りの神殿が下層へ繋がるゲートとなっている。


「急げ、急げ、急げ! 私とて、そう長くはもたんぞ!」


 神殿を守るは、左右に数十本の手を持つ青銅色の仏。普段、神殿の前で動かず佇んでいる仏像それは、一団が現れると、全ての手に剣を携え、暴徒のごとく襲いかかって来たのだ。


「さあ、どうした同胞たちよ――こ奴の剣はそちらに向いておらんのだぞ。何故一瞬で決められんのか!」


 再びレフォーラが檄を飛ばす。それは追いたてる風であり、追い詰められている気配は微塵もない。

 実に見事な剣さばきだった。数十の腕が同時に放つ剣戟をレフォーラは体一つ剣一つで全て防ぎ切り、それどころか逆襲まで仕掛けに出ている。


「さあ、さあ、さあ!」


 三度目の檄。それらは、仏像の背後で戦う部下たちに向けられているのだった。みな目をひん剥き、がら空きとなった仏像の背中に雨あられと攻撃を加えている。

 全て手はず通りなのだ。三十階層のボスである仏像、通称“カーリー”。鋼鉄の体と数十の手が繰り出す壮絶な破壊力が厄介となる敵だ。

――私が全ての手を引きつけるから、お前たちは背後から叩け。

 レフォーラが立てた策は実にシンプルなものだった。しかし、いざ言実践しようと思えば、容易ではない。たった一瞬でも彼が怯めば、その瞬間、攻撃のみに執心している部下たちが逆襲されてしまう。一時の余談も許されない。

 戦いが始まってから、既に五分が経とうとしている。その間、カーリーの剣はレフォーラにのみ振るわれた。

レフォーラの尋常でない精神力と戦闘力。そして、その雄姿に奮い立つ部下たち――戦いは苛烈を極めた。



 本来王座があるはずの空間に階段が設えられていた。団員たちは、顔に疲れを浮かべ、しかしそれ以上に溌剌とした勝利への陶酔を露わにしながら階段を下っていた。


「よかったのですか」


 団の先頭を歩くレフォーラは額に汗を浮かべてはいるが、疲れの色は無い。


「何の話だ」


 その隣を歩く、白髪の男フィラカルティーは問い返す。彼は戦闘を傍観していたので、涼しい顔である。


「貴方の大将の事ですよ。本当に団から抜けてしまったのでしょう」


 フィラカルティーは豪快に笑った。


「それよりよ、ここから先もこれまでのように苦も無く進めるのか? いい加減、連中も図に乗り出す頃だぜ。しっかり管理しておかにゃ、面倒なことになると思うが」


 強引に話題を変えられたことを不審に思いはしたが、レフォーラは話に乗った。


「流石ですねフィラカルティー。私も気を揉んでいた所です――楽に進めるのはこの辺りまででしょう。戦いはより厳しくなる。私としては、階級を設け、指揮系統を分散し、より組織だった作戦を立てられるよう団を整えたいと思っています。貴方の言うとおり、小競り合いを防ぐ意味も合わせてね――どうお考えですか?」

「フン、知ったこっちゃねえな」


 レフォーラは思わず噴き出す。


「貴方から振って来た話なのに――しかし感謝します」


 フィラカルティーが眉をひそめる。


「なぜそうなる」

「方針が間違っていれば、ここぞと責めるでしょう、貴方は」

「生意気なガキだ」

「フフフ――」


 表面上は楽しげに見える。しかし実のところ、フィラカルティーはこの男を計ろうとしているのだ。

 浩平にはああ言ったが、フィラカルティーはレフォーラという男を全く信用していない。明らかに何か隠している――それは、古兵である彼のカンと、大衆を率いて来た王としての経験からくる、根拠のない確信だった。


「ところでよ、お前のスキルはどんなものなんだ。今の今まで一度も使ってねーようだが?」


 問われて、レフォーラは少し間をおいた。そして、


「貴方こそ、スキルを見せていない。フフフ――期待してますよフィラカルティー。貴方は、本当に強い」


 それは、まったくの対等である――という主張だった。スキルを見せていないという点でも、そして腹の中に一物抱えているという点でも、自分たちは対等でしょう? ということを暗に示したのだ。


「まったく、本当に生意気なガキだ」


 フィラカルテーは口元に笑いを浮かべて頭を振った。


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