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枢軸への旅 1



 そこは知らない場所だった。

 浩平は途方に暮れた様な顔で立ちつくしている。


「あーあ、やっぱりワシじゃ止められなかったなあ」


 その横で呑気な声を上げたのは白髪の中年男フィラカルティーだった。


「で、アンタは誰なんだよ」

「ワシか? エレドペリ王都を襲った暴徒フィラカルティーだ」

「なんだと!?」


 すぐさま戦闘態勢に入る浩平――しかし、フィラカルティーは取り合わなかった。


「止めておけ、今のお前さんじゃワシに勝てん」

「やってみれば分かるさ、オレは負けない」

「やれやれ……」


 フィラカルティーは頭を振った。それから、何気ない足取りで浩平に近付いて行き、脳天にチョップを食らわせた。


「痛ってぇ!」

「な? 勝てないだろ」


浩平は攻撃されると分かっていながら何もしなかった。いや、正確には何もできなかったのだ。

 

「オレのナイフを何処へやった――それとラプラスとカグヤから返事がない。お前の仕業だな!?」


 涙目で脳天を押さえながらがなり立てる浩平だった。

 フィラカルティーはせせら笑いを浮かべて、


「情けないな、ボウズ。己一人では何もできんようだ。それで新しい国を作ろうというのだから、呆れる他ない」

「黙れ、侵略者! お前にそんなことを言われる筋合いはない」

「嫌われたものだ――まあいいがね。ボウズがワシをどう思おうが、関係ない。ワシには約束があるんでな」

「――何の話だ?」

「図書館の姉妹と約束したのだ。コイドという人物を助けるとな」

「マローダとメイカの事か? ――どういう関係だ」

「命を救ってもらった」

「なんだ――と?」


 浩平はそれほど賢い方じゃない。色々な情報が一度に示されすぎて、すでに処理が追い付いていない。


「お、お前は、誰だ!」

「落ち着かんか、それはさっきも聞かれたぞ」

「だ、黙れ侵略者!」

「はあ……」



 *



 順序立てた丁寧な説明の甲斐あって、浩平はこうなった経緯を理解できたようだった。


「それで、ここは?」

「魂の世界だ。スターウェイやワシら五大王が封印されていたな――あの少女が使っていた黄金の剣によって、肉体と魂を切り離されたってわけさ」

「それじゃ、オレたち封印されたのか?」

「そうだ」


浩平の顔が一瞬にして青ざめた。

 二人は、のどかな野原の真ん中に伸びる道を歩きながら話している。


「さっきも言ったが、ワシはお前を助けると約束した。だから、付いて来たって訳だ。一度この世界を経験しているからな。何でも聞いてくれ」


 浩平は恐る恐る問う。


「帰る方法はあるのか?」

「五百年ほど待つ。それか、この世界を制覇する――どちらかだな。早く帰りたいのか?」

「当たり前だろ!」

「もっとましな口のきき方を知らんのか……まあいい、黙ってついてこい」


 二人は黙々と歩き続けた。道は続いているものの、どこまで行っても人工物は見当たらなかった。どこか寂しい雰囲気の漂う世界だった。

 野原は森に続き、そこを抜けると湿地帯に出る。ぬかるんだ地面に足をとられながら、しばらく進むと、巨大な木が見えて来た。下手したら二十メートルはあろうかという大きさ。葉を一切持たず、枝は骨のようにやせ細っているが、堂々とした風格がある。

 浩平が巨木に見とれていると、声がかかった。


「到着だ」


 フィラカルティーはその巨木の根っこの隙間を指差している。暗く、洞窟のようになっている。よく見れば、奥の方に光が見える。地面が踏み固められ階段の役割を果たしているようだ。

 フィラカルティーはその階段を下り始めた。浩平は少し躊躇してから後に続いた。



 *



 浩平は魔女の都を思い出していた。地下に存在する大きな空間、そこに立ち並ぶ土色の建物たち。

 沼の下には、魔女の都と同じように広い空間があった。しかし、やはり人工物は無く、緑色の地面と、鬱蒼とした木々が何処までも続いている。

 フィラカルティーは木々の間をしばらく進み、丸く開けた場所で足を止めた。そして、傍らの木の根に寄りかかり、座り込んでしまった。

 ポツンと取り残された浩平は抗議する。


「おい、なにがどうなってんだ?」

「ん? ああ、そこに立っとれば、そのうちモンスターが出てくる。ソイツを倒せ」

「どうして」

「レベルを上げるんだ。そうさな――三レベルになったら起こしてくれ」


 言うが早いか、フィラカルティーは目を閉じた。


「まて、寝るな! 詳しく」

「やれやれ、察しの悪いボウヤだ――いいか、この世界から出る二つ目の方法“世界を制覇する”ってのは、この地下ダンジョンの事を指すんだ。ええと、全部で百階層くらいあったかな。最後は枢軸アクシズまで下るそうだ。説明終わり」

「ま、て! それじゃ、全然分からないぞ。レベルってなんだ? 下ると言ったが、それは何をすることを指すんだ?」


 フィラカルティーはめん面倒そうに半目を開けた。


「ここは魂の世界だ。自分のレベルを知りたきゃ、そう願え。それと、なにをするかっつったら、そりゃ、戦うに決まってんだろ。各階層に存在するボスを全員倒せばいいんだ。説明終わり」


 言い終わると、白髪の男は今度こそ、そっぽを向いていびきを立て始めた。


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