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オレが死んだ世界で 12



 カタードス公爵の陰謀から始まった今回の事件。全て終わって、アーネットたちに事情を説明する段階になって、オレは頭を抱えた。

 二つの世界、時間を超える巨人、空間を超える守護者、思い出の衛星基地、オレの故郷、オタクになったかつての敵、最強の獣人イリナ、実は王子(王女?)だったエレ、そして、自慢の妹。

 何から話していいか分からず、そして何を話すべきか迷い、説明作業は難航した。

 ジーナとスロークの結婚式をやりなおしたり、カタードス公爵に文句を言いに行ったり、まだやることがいくつか残っていたので、思い切って、一週間まるまる休息をとることにした。エレドペリ王国は相変わらず混乱の中にあり、復興のめどが立たない状況だが、それにしたって、俺たちは疲れ切っていた。ちょっと休ませて……。という感じだった。それに、これからどうするか――という議論をする必要もある。

 オレ個人的に言えば、ちょっと気がかりなこともあったし。


「それじゃ、兄さん。お別れですね」


 村の外れ、晴香は少し目を伏せて言った。


「まあ、アルフがいればいつでも会えるからな。ずっと離ればなれって訳じゃない。そう悲しそうな顔するなよ」


 オレがおどけて言うと、


「悲しそうなのは兄さんの方でしょ? 私は会いたくなったら会いに行けますけど、兄さんからは此方に来られないんですから」


 茶化し返されてしまった。

 オレは、少し笑った。


「なあ、晴香、その――もう大丈夫か?」


 事件が終わって、晴香は以前の明るさを取り戻していた。でも、過去は消えない。彼女はアルフに言った「心が壊れてしまった」と。思い悩んで、自暴自棄になっていた彼女が完全に闇を捨てきれたとは到底思えない。今は良くても、そのうち狂気を思い出してしまうんじゃないか――オレは、それが気がかりだった。


「問題無いですよ。私はもう大丈夫です。今は兄さんが生きていることを知っていますし、それに、バスウッドさんがこの村に越してきてくれるそうです。もう寂しくないですよ」

「そうか、それならいいんだ」


 晴香はウフフと風に揺れる花のように笑った。


「兄さんは私の自慢の兄です! 不死身の魔法王、スターウェイ=ランキャスターさんの体を受け継いだ、最強の兄さんです。いつもは頼りないと茶化したりしますが、でも、本当は、尊敬しています。

 王国を守るため、戦い続ける――それは、心配です。死なないとしても、酷い目に合って傷つくんじゃないかって、怖いです。

 でも、あえて言います。がんばって、兄さん。

 私だって戦います。私自身と――お互い、勝ちましょう、ね?」


 オレは頭を振る。やれやれと、感服して。


「まったく……本当にできた妹だ。心配して、励ましてやろうと思っていたのに、まったく逆になっちまった。

――そうだな。勝とう。

 何があっても、オレたちはオレたちでいたい。そのために戦って、勝たなきゃいけない。だよな?」


 問いかけたというか、確認したというか、オレは晴香に言葉を投げかけた。それに対する晴香の回答は、柔らかい唇だった。キスという感じじゃない。お別れのチューって感じの無邪気さだ。しかし、それは、オレを呆けさせるのに十分の破壊力を持っていた。


「…………」

「バイバイ、兄さん! 浮気したらアルフで宇宙の果てにふっ飛ばしますからね!」


 不穏な言葉を残して、晴香は朝靄の残る故郷の村に消えて行った。オレは、なにも言えずに、しばらく突っ立っていた。


「さて、帰るか――」


 ようやく我に返り、まわれ右、カグヤが森の中に待機している。アルフからデータをもらい再現したという簡易的な空間移動装置で異世界に帰る。また戦いの日々が始まるって訳だ。

 と?


「お、お前――え?」


 いつの間にか森の前に人が立っている。っていうか、晴香じゃないか。

 視線を巡らす。目の前に晴香――でも、さっき真反対に走って行ったのを見送ったばかりなんだけど……晴香がいっぱいコレクション!

 いや、よく見れば、少し違う。ダイビングのスーツみたいな黒くて体にフィットする衣装を着ている。それに、さっきまで話していた晴香より、成長している気がする。身長や顔つきはあんまり変わらないが、あんなに大きかったか?

 オレが考えていると、黒い衣装の晴香が頬をぷっくり膨らませて、


「ビーからエフへの大成長です。兄さんの好みどおりの巨乳になれて嬉しい限りですが、しかし、そこばかり見られては、宇宙の彼方から帰ってきた甲斐が無いというものです」

「えっと……」


 オレが戸惑っていると、晴香はピンと背筋を伸ばして話し始めた。


「あのね、兄さん、私、宇宙人から地球を守る守護者になったんだ。どうやら、アルフを操る才能があったみたい。これでもエースパイロットなんだよ、エヘヘ。

 今日、兄さんと別れてから五年後にバスウッド先生が時間を超越する装置を発明したんだ。タイムマシーンってヤツだね。それで、私はアルフが作られた時代に行ったの。人が凄い少なくてね、地球上で生きられるのはオーストラリア大陸だけ。過酷な世界だった。

 私ね、変わっちゃった世界を見て、兄さんの事を思い出したんだ。世界を守る――どうやら私にも“守りたい”っていう意思が芽生えたんだって、気づいたの」


 晴香は早足で説明すると、一度言葉を切った。心を落ち着けるように、息をついて、


「えっと、つまり何が言いたいかっていうと、『安心して兄さん。私は大丈夫』ってこと――つ、伝わった? 大丈夫私?」


 自分で話しといて頭にハテナを浮かべる我が妹。オレは思わず苦笑して、


「わざわざ言いに来てくれたのか。うん、分かった、お前を信じるよ晴香」

「ありがと、後から思い返して、きっと不安だったろうなって――ずっと後悔してたんだ。よかった」

「ゆっくりは――」

「うん。未来むこうも大変でさ」

「同じだな。それじゃ」

「ええ、さっき済ませたばかりだと思うけど、もう一度――お別れです」

「ああ、達者で――んぅ!?」


 今度ばかりは本気で驚いた。こっちの晴香は、お別れのチューじゃなくて、大人のキスを残して行った。


「バイバイ兄さん! 浮気したら星間相克因子弾で原子レベルに分解しますからね!」


 すこし、出来すぎているぞ……我が妹よ。

 まあ、おかげでオレの不安は完全に解消されたけどさ。

 未来の宇宙で頑張れよ、晴香――オレも頑張んなきゃな。



 *



 晴香と別れたその足で、オレはカタードス公爵の屋敷に向かった。

 アニス=ハーディライトはオレの顔を見るなり、駆け寄って来た。


「コイドくん! まさか、獣人の力を封じ込めるなんて、驚きだよ! いやあ、流石は僕が見込んだだけの事はある」


 せっかく集めて来た戦力を全て無効化されたというのに、喜んでいるらしい。そうかなとは思っていたけど、変人だ。バスウッドと似ているのかもしれない。


「この間、言ってましたよね。オレを軍に引き入れたいって」

「言ったよ?」

「その気持ちは変わっていませんか?」

「もちろん! それどころか、さらに強まったくらいだよ」


 嬉々として言うアニス。そいつは都合がいい。


「なら、いいですよ。その勧誘に乗ります」

「ほ、ほんとうかい!?」

「ただし――条件があります」


 アニスが首を傾げる。

 オレは、ずっと考えていた屁理屈を披露する。


「オレが貴方の軍に入るのと引き換えに、貴方はオレの部下になってください」

「おおぉ? それはいったい」

「国境の向こうに新しい国を作っているんです。貴方に仕える者や、ここが国として崩壊して困る者を連れて、そこへ移民してください。貴方は頭のおかし異常者だが、指導者としての経験や実績は確かだ。黎明期まっただ中の新しい国で、その能力を存分に生かしていただきたい。

 オレの主として、そして、部下として」


 オレは無茶苦茶なことを言っている。お前の軍に入るけど、お前に指揮権は無い。オレの言うとおりにしろ――そういうことだ。

 流石のアニスも渋い顔になる。


「それは、あまりにも無茶な提案ですな」


 オレは断固とした態度をとる。


「別にいだろ。大した目的もないんだろ? 

 それに、楽しいと思うよ? ほら、オレなんて出鱈目チートな体を持ってるだけの、普通の人間でしょ? そんなのが、新しい国を作って、治めようなんてとんでもないことを始めるんだよ? 星の数ほどボロが出て、それ以上に反感を買うはずだ。自惚れる訳じゃないけど、今のオレは、貴方が欲しがった時より全然強くなってる。そんなオレがだ、一般人になじられ、ののしられ、大変な苦労を強いられる。そんな姿を見て、どう思うよ?

 さらにオレを責めるもよし、気まぐれで助けるもよし、それは貴方の自由だ。でも、簡単に想像できるだろ? 

新しい国を作る――それは、侵略なんかより、よっぽど大変で、エキサイティングだ。

 な、楽しそうだろ?」


 詭弁も詭弁である。でも、国が滅ぶ危険を押して獣人を連れ込むような、この男なら――


「それは……素敵にマーベラス!」


 さあ、これでやるべきことはやった。死ぬほど飯を食って、頭が痛くなるほど寝て――それからゆっくり考えよう。


――これからの事を。



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