オレが死んだ世界で 11
キツネのお面で顔を隠した全裸の男――それが今のオレだ……泣きそうになりながら必死で股間を隠す。
そんなオレを愉快そうに眺めながらカグヤが口火を切った。
「まずは月に置いてきた晴香さんを回収します。晴香さんは死んでしまっていますが、アルフの方は自己修復で機能が回復しているでしょう」
オレをこんな姿にした当事者三人は何食わぬ顔で会議を始める。
「アルフには空間を超える力があります。それを使い小井戸くんとカグヤさんは異世界へ戻ります。もちろん晴香さんも連れて。そうすれば、小井戸くんの魔法が使えるようになり、晴香さんを蘇生できる」
ああ、そうか……言われるまで気づかなかった。オレの魔法名を使えば晴香を蘇生できるんだ。
晴香は楽しそうにヘンタイになったオレを見つめながら、
「早く生き返らせてくださいね、兄さん。それから、兄さんはその格好のままアーネットさんたちの宿に行くんです」
「ええ! 無理だよ、そんなの」
嫌われるわ……。
「思い出してください、兄さん。ジーナさんの結婚式前日、なにが起こりましたか?」
何って――ええと。
もはや随分昔の事のようだ。霧が掛ったような記憶を辿る。
「ああ、思い出した!」
アーネットたちの部屋にヘンタイが現れたんだ。素っ裸でキツネのお面を被った男が。丁度今のオレと同じような……。
それで、たしか――その対応でアーネットはオレのお見舞いに来られなかった。変わりにイリナが来たんだ。それで、オレは彼女に励まされて、何とか戦う気になれた。
カグヤが言った。
「そうです、その恥ずかしい恰好で変な踊りを踊るんです。女の子の前で……ぷっ」
コイツ――性格悪いぞ!
オレは抗議する。
「たしかに、あの時オレはイリナに励まされたけど、でも、それはどうしても必要なことなのか? 別にそんなことしなくてもいいじゃないか」
それに答えたのはバスウッドだ。
「全ての事に意味がある――前に言いましたよね。小井戸くんとカグヤさんが出会い世界を救う。それが、エレさんの能力によって導き出された結末です。そこに辿り着くために、私たちが自然と関わることになったんです。
しかし、ここまで役割を持っていない人物が一人だけいます。イリナさんです。彼女は小井戸くんを励ましたそうですが、それは他の誰かでもよかったんです。でもイリナさんはこの世界に来た――そこに意味があるとすれば、それは――」
*
もう思い出したくもない。何たる屈辱……。
話し合った通り、オレは一度月の裏へ行き、晴香を回収して、アルフの力で異世界へ飛んだ。そして、今度はカグヤの力を使い、過去へ飛んだ。世界観移動とか、時間移動とか、偉く簡単にやっちゃってるけど、大丈夫なんだろうか。ただの学生として生きたいと思っているのに、なんだか趣旨がずれまくっている。まあ、そのおかげで晴香を生き返らせることができた。その点だけは本当に良かった。
それはともかくとして、裸踊りである。
アレをブランブラン揺らしながら奇声を上げて踊るオレを見て、二人は卒倒しかけていた。ゴメンな……ホント。
アーネットの怪力で卒倒させられて、縄で縛られ放置された。しばらくしてからカグヤが助けてくれた。それと時を同じくして、病院ではオレとイリナが話している頃だろう。
一先ず仕事は終わった。ちょっと休憩だ。
*
下手に目立って知り合いに会ったら困る。なんせ、オレたちはタイムトラベラーなのだ。タイムパラドクスがどうしたこうしたで、目立った行動はとれない。ということらしい。正直良く分からん。
ということで、オレたちは海沿いの廃れた教会へやって来た。イリナと最初に会った教会。すでに日は暮れている。
ボロボロの床にランプを置いて、オレたちはそれを囲うように座った。メンバーは五人、オレ、カグヤ、晴香、エレ、イリナ。エレは既にカグヤの膝の上で寝息を立てている。
残る四人で話し合いが始まる。そうする必要があるのだ。
「明日の予定を確認しましょう」
カグヤが口火を切った。確認などしなくても、しっかり頭に入っている。だから、その提案は他の意味がある。オレと晴香は分かっている。
「ジーナが式の最中に変身し、この時間軸の浩平さんが応戦、途中で同じくこの時間軸のエレさんとイリナさんが駆けつけ、向こうの世界へ移動します。
それを待ってから、私たちは現場に向かいます。そして、ただ一人教会に残った獣人化したジーナを捕獲し、向こうの世界へ移動させる。時間は、浩平さんと晴香が戦っているど真ん中――これで、全ての不可解な点に説明がつきます。筋が通ります」
カグヤが一度言葉を切った。オレも思わず晴香の方を見た。
晴香は少し照れたように、
「いえ、構いません。ちゃんと兄さんが生き返れせてくれますから、むしろ嬉しいくらいです!」
気丈にもそう言った。
そう、明日、向こうで晴香が死ぬ。翌日に蘇るとはいえ、気持ちのいい話ではない。
「ゴメンな。オレが絶対蘇らせるからな」
「はい」
晴香は笑った。
それを見てからカグヤが続ける。
「さて、距離が近すぎる兄弟はほっといて――イリナさん、あなたに伝えて置かねばなりません」
「わ、わたし――?」
イリナは急に話を振られて驚いている。どうでもいいが、エレはぐっすり寝ている。
「いいですか、イリナさん――落ち着いて聞いてください。この世界を滅ぼしたのは貴方です」
「え……」
「滅びてしまった一週目の世界と、回避した二週目の世界――その違いは、貴方が居たか居なかったか――浩平さんの裸踊りがあったことで、貴方は向こうの世界に行った。一番危険な時に、この世界に居なかった。
恐らく、イリナさんが変身すればジーナや、公爵が連れて来た他の獣人たちとは比べ物にならない力を発揮するのでしょう。一週目では、敵と戦うため、変身した。そして、加減ができず、世界を滅ぼしてしまった。
おかしいと思ったんです。十分でエレドペリ王国を十分滅ぼすことができる。ジーナの力はその程度でした。だというのに、世界が滅びる所まで行ってしまった。なぜなのか――他にも力が作用したと感がるのが自然です。
その力とは何か――もう分かりますね?」
イリナは目を潤ませて、小刻みに震えていた。
「……私が居なかったから――二週目の世界は滅びなかった……」
その通りだ。全ての事に意味がある――イリナは成り行きで世界移動に巻き込まれたわけじゃなく、むしろ、世界を滅ぼす脅威を安全な所まで移動させる――イリナを異世界に避難させることこそが、メインだったのだ。
「私……私……」
イリナは泣きだしてしまった。マズイ、ショックが強すぎたか――。慌ててなだめにかかろうとした、その時だった。
「イリナちゃぁん! ……一緒に食べよおぉ」
カグヤの膝を枕にして眠っていたエレが、大声を出した。間の抜けた寝言。
それは、絶妙なタイミングで、そして、なんとも力の抜けた言い方だった。
誰からともなく笑い声が漏れる。
衝撃的な事実を知り、打ちのめされていたイリナも溜らず笑っていた。
オレも、肩を揺らして笑いながら、今がチャンス――とばかりに口を開く。
「大丈夫だイリナ。君が悪い訳じゃない。全部事故だったんだ。気にするな」
イリナの顔が少し暗くなる。オレは畳みかける。
「それにさ、オレとカグヤの力を使えば、獣人の力を封じ込めることができる。二度と変身しない、普通の人間になれるんだ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。な、カグヤ?」
「オレとカグヤの――ではなく、私の力ですけどね」
「い、いやそこはどうでもいいだろ……」
ツンとして言ったカグヤ。オレは大げさにげんなりとして見せる。すると、イリナはまた少し笑った。
「そうですよ、イリナさん。カグヤさんに任せれば大丈夫です。兄さんは頼りないですけどね」
そう言って、晴香はイリナを抱き寄せた。
「おいおい、晴香まで……もう知らん、オレは寝るからな!」
オレはそっぽを向いて不貞寝する。
後ろから姦しい笑い声が三つ重なった。




