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オレが死んだ世界で 5


 体にフィットする黒いスーツ。両手両足に白銀色のアーマー。上半身を覆うのも手足と似た鎧風の装甲。そして、顔はフルフェイスのヘルメットのようなパーツで包まれている。木の葉を立てに張り付け、葉脈の部分を切り抜いたようなデザインだ。

 白銀の鎧と漆黒色のメカが普段はのどかな山中で向かい合っている。誰が見ても特撮の撮影現場にしか見えない。しかし、カメラマンもスタッフも台本も無い。死ぬか生きるか。それだけだ。

 何の前置きもなくロボットが開いた右手を前に掲げる。次の瞬間、手首の辺りに設えられたカメラのレンズのような部分から赤い光の線が放たれる。木々を両断した極細のレーザーだ。寸分の狂いなく鎧の額に当たる。しかし、それだけだ。破壊も切断も起こらない。続いて、ロボットは左手のレーザーも作動させた。今度は鎧の胸の中心に命中。が、やはり何も起きない。

 ロボットの背中を覆う昆虫の羽に似た装甲が左右に開く。ファンが回るような音。羽の内側から熱を含んだ風が排出される。続いて、分厚い胸部装甲が変形する。小さなパーツが生き物のように動き、やがて胸の中心で筒のような形になる。脚部のパーツが枝分かれし、爪が地面に突き刺さる。体中そこかしこに設えられた発光部が、光度を上げ光り出す。

 胸の中心から三本目のレーザーが放たれた。

 手首から照射されていたものとは、モノが違う。狙いを定める必要さえ無い。敵の全身を包むほどの太さだ。辺りに熱が満ちる。まるで、そこに溶鉱炉が現れた様な熱気と光。全てが光に包まれる。周辺に残った木々や、草の生えた地面が、一瞬で灰になり、チリチリと燃える火種を残した。

 最後の光は一瞬で収まった。長時間使えば機体が持たないのかもしれない。あるいは、一瞬以上使う必要が無いのかもしれない。どちらにせよ、奥の手だったはずだ。とてつもない威力だった。ロボットは羽をたたみ、変形させた部分を元に戻し、最初の姿に戻っている。

 強烈な破壊現象で巻き起こった煙が風に流されてゆく。

 荒れ果てた地面。辺り一帯の木々は炭と化し、所々地面が捲れあがっている。

 そんな中、白銀の鎧は立っていた。

 ロボットの攻撃が始まる前と全く同じ場所。今や風景は様変わりしているが、彼だけ物理現象や時間からはじき出されてしまったかのように一切変化が無い。

 それを捉えた瞬間、ロボットは地面を蹴っている。先ほど披露した地面を滑るような移動方法で、たちどころに距離を詰める。遠距離兵器は通用しないと分かり、打撃戦に打って出たのだ。

 そこで、初めて鎧が動いた。胸の前で腕をクロスさせる。

 ロボットは、拳や蹴りを怒涛のごとく繰り出す。何かしらの推進力を利用した、生身ではありえない連撃。ラッシュのスピードもさることながら、その威力が常軌を逸している。手や足を振り抜くたび、地面が揺れた。目に見えないエネルギーの波紋が発生して、大気が乱れている。一撃で必殺。それが雨あられと降り注ぐ。時間にして五秒弱。一方的に攻撃を加えた後、飛び退り距離をとったロボット。いかなる装甲をもってしても、相手は無事では済まないと思われた。

 しかし――、


『なんか武器は無いの?』

『着ているでしょう』

『それって、つまり――』

『殴りましょう』


 ロボットが着地した瞬間。鎧は既に目の前まで肉薄している。早くはあったが、動き自体は素人丸出し。ロボットの洗練された動きとは比べるのもバカらしい。それでも、攻撃を加えられる距離、タイミングを捉えている。

 そして、鎧は攻撃を繰り出す。


「おりゃ!」


 何処か間の抜けた掛け声と共に繰り出されたのは、何の変哲もない正拳突きだった。虫が止まれそうなスピードでロボットの顔面に吸い込まれる。

 ロボットは腕をクロスし、防御の体勢をとった。

 鎧の拳とロボットの腕が接触する――。


――カイィィン


 金属バットでボールを打ったような快音が響いた。その時には、すでにロボットの姿が消えていた。打撃音が空気を震わせるより数段早くロボットは吹き飛ばされている。一秒と待たず旅客機が飛行するのと同じ高度まで昇天していた。

 衝撃と慣性で装甲が剥がれ落ち、幾つかのパーツが欠損した。それでも、完全に故障した訳ではないようだった。

 夜空に深紅の線が引かれた。慣性移動から自由飛行に移行したのだ。戦いの場から遠ざかって行くようだ。

 鎧は、それを見上げて、安堵の息をついた。



 *



 空が白くなり始めた。

 バスウッドは叩き起こされて不機嫌そうだったが、カグヤを見た瞬間、目が覚めたようだった。そして、オレが持ち帰ってきたロボットの破片を見て、興味を引かれたようだ。


「これは恐らく、米国フランシス社が製造したモノでしょう」

「そんなことまで分かるの?」

「はい。製造コードと思われる数字が打たれています。その特徴で判断しました。おそらく間違いないでしょう」


 黒い塊をルーペで見つめながらバスウッドは言った。


「フランシス社は兵器製造を行っている企業です。最新の科学技術を取り入れた次世代の兵器を開発しています」

「じゃあ、そのフランシス社が最新兵器の実験をしてて、オレは巻き込まれた。って感じかな?」

「いえ、違うと思います。小井戸くんの話が本当なら、そのカブトムシのようなロボットは、明らかにオーバーテクノロジーを搭載しています」

「オーバーテクノロジー?」

「今の科学技術を結集したところで、小型レーザー兵器すら実現不可でしょう。件のロボットが実現するとすれば――そうですね、あと百五十年はかかるでしょう」


「なっ!」


 思わず声が大きくなってしまった。皆が起きてしまう。声を小さくする。


「それじゃ、あのロボットは未来から来たって事になるじゃないか」

「ハリウッド映画みたいですね」


 ああ、そんな映画あったなあ……。未来から来た殺人ロボットに追い回される少年。

 バスウッドは冗談めかして、


「となると、味方のロボットは、カグヤさんですね」


 そう言うと、携帯端末のつけっぱなしのディスプレイを見た。


「ロボットも、もちろん驚きですが、このカグヤさんも明らかに異常です」

『誰が異常ですか! 貴方の方がよっぽど異常者っぽいですよ』


 見た目は清楚なのに口悪いな……。バスウッドは罵られて喜び出したので、オレは話を進めようと口を開く。


「何が異常なんだ? いや、異常なのは分かるけど、具体的に聞かせてくれない?」

『浩平さんまで、異常異常と――』

「はい。上げ連ねれば暇がないほど異常ですが、取り立てて一つ上げるとすれば、やはり、小井戸さんの前に現れたという“液体金属“でしょう。ピンポン玉大の金属が鎧となり、レーザー兵器や衝撃波を伴うほどの打撃を耐え抜いた。そして、鍛えている訳でもない小井戸さんのパンチに、レールガン並みの威力を与えた。

 ……これは、科学的に不可解なんてレベルじゃありません。空想科学――漫画やアニメの領域に思えます」

「そんなに凄いのか……」

『うふふ――そうです。もっと褒めなさい。それでこそ、宇宙の彼方から来たかいがある。というものです』

「な――」

「宇宙?」

『あ……』


 オレとバスウッドが同時にディスプレイを覗き込む。そこには、両手で口を塞ぐ二頭身キャラが居た。


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