オレが死んだ世界で 4
二対のナイフを取り出し、構える。
『ラプラス、準備はいいか』
声に出さず問いかける。しかし、返事が無い。
「来ます!」
代わりにカグヤの声が飛ぶ。オレは前を見る。
カブトムシロボットが突っ込んでくる。推進装置みたいなものが付いているらしい。地面すれすれを滑るような動きだ。
早い。しかし、驚くほどじゃない。ナイフに魔力を注入。たちまち思考が加速され、敵の動きは停止――しない!?
「くっ――!」
とっさの判断。真横に飛び退る。が、少し遅かった。膝から下にとてつもない痛み。敵と接触してしまったようだ。上手く着地する予定が大きく狂い、オレは捻じれるような回転を伴いつつ、木々の間を転がった。
「痛ってぇ!!」
木に背中と後頭部を強打し、ようやく止まることができた。獣人にやられた傷が癒えたと思ったら、既にズタボロだ。まったく――何なんだ、あのロボットは。
『シッカリしてください浩平さん。この世界に魔力は無いと――――言いましたよね?』
「聞いてない!」
『……それは失礼。とにかく、そうなんです。だから、私を使ってください』
「カグヤを?」
『来ましたよ』
来るって何が? 聞く寸前、投げ出した足の間の地面が「パシュン」という音と共に捲れあがった。ロボットが現れた時の現象を小規模にした感じだ。少し焦げくさい煙が出ている。
『さあ、浩平さん。イメージしてください。悪を倒す“武器“です――最強の力です――強く心に思い浮かべてください』
頼むから説明をしてくれ。まあ、そんな暇はないんだけどさ……。キュウウン――キュウウンという不気味な機械音が、赤い光と共に近付いてきている。
「急に武器とか言われてもさ、とっさには思いつかないよ」
『何でもいいですから、とりあえず思い浮かべてください――早く!』
「ちょ、ちょっと待ってよ。ええと、武器だろ――例えば――例えば?」
『だから、何でもいいですって!』
ちーっとも思いつかん!
『危ない!』
赤い光が一文字に走り、残像の水平線を描く。直後、四方八方の木々がザワザワと鳴り出す。続いて、月光が強くなり辺りが少し明るくなった。間一髪だった。頭のうえ、ほんの数ミリの所で寄りかかっていた木が切断されている。周りの木々も同じようにプッツリ切れている。戦車が搭載していたレーザー兵器と同じようなもので、森が両断されたらしい。
遮蔽物が無くなり視界が開けた。少し向こうで光る赤い切れ長の相貌が真っ直ぐオレを捉えている。
逃げ出したい。魔法を使えないオレが、レーザー兵器を搭載した殺人ロボットに勝てるわけがない。でも、逃げ出したところで、レーザーの餌食になるのが関の山。逃げられない。
「カグヤ、武器って、ホントに何でもいいのか?」
敵から目を反らさず、立ち上がる。
『ええ――』
「分かった。決めたよ」
追い詰められたオレの脳裏に浮かんできたのは、さっき聞いたカグヤの言葉だった。靄の掛った記憶。しかし、とても大事だったはずの記憶。故郷という土地の影響もあるだろう。禍々しいロボットが目の前にいるというシチュエーションもあるだろう。
「変身だ」
悪を倒す、不屈の正義――テレビの中で戦っていたヒーロー。遠い昔、憧れていた雄姿が、鮮明に蘇る。
直後、足元に白い光がともる。さっき、何かが落ちて来た穴の中だ。
「カグヤ?」
『動かないでください――イメージを受け取りました。すぐに完成します』
いや、動くなって言っても。ロボットの背中が一瞬明るく光る。溜めも助走も無く、一瞬でスピードに乗り、こちらに突進してくる。ダメだ――もう避けられない……。痛いほど目を瞑る。きっとオレはすぐに跳ね飛ばされる。
「……?」
が、いつまでたっても衝撃は襲ってこない。恐る恐る目を開ける。すると、目の前に銀色の“鉄板”が現れていた。オレとロボットを遮るように空中に浮いている。
「なんだこれ」
『口を閉じてください』
なんでだ? 問うより先に答えが示された。
銀色の鉄板は液体のような動きでしぼんでいき、地面の上でピンポン玉大の球体になった。ロボットは、突進を止めて距離をとったようだ。少し離れたところで、こちらを見ている。それを確認した直後、再び、視界が銀色の膜に覆われる。バケツの水を掛けられたような感じだ。怖い。得体のしれないものに襲われている。思わず身をよじる。
しかし、銀色の液体は容赦なく体中に張り付いてくる。人肌くらいの温度に包まれる。
『見直しました。浩平さん』
少し弾んだ声。それも、魔法人格のように頭に直で響いている。
『どうなってるんだ?』
『物理的接触に伴い、意識もリンクしました』
『分からん』
『それより、素晴らしいです浩平さん。イメージ検索してみましたが、この姿は、昔放送していた子供向け特撮番組に出てくるヒーローの姿に酷似しています。昔のことを思い出したんですね』
『まあ、そうだけど』
『いいです。凄く』
『ありがと? いや、そんなこと言ってる場合じゃないだろ』
敵が目の前にいる。呑気に話している場合じゃない。




