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港の先には…… 14



 壇上で微笑む二人。賑やかな群衆。誰もが気を緩めている。だけど、オレだけは目を光らせる。

 敵が紛れていると知っていれば、見つけ出すのは簡単だった。明らかに周りから浮いている男が一人。ローブのフードで顔を隠している。獣人だ。男は、群衆に紛れジッとしていた。周りの人々は気に留めていない。こんな幸せな時間の中に悪いことを企んでいる人間など要るはずが無い。誰だってそう思う。でも、違う。ここから世界の終わりが始まる。そして、もう一度崩壊すれば世界は二度と元に戻らない。

 式は滞りなく進み、ブーケトスの時間がやって来た。皆外に出て、少し遅れて新郎新婦が姿を現す。弾けるような拍手が起こり、祝福の言葉が空気を満たす。

 主役の二人が密かに囁き合っている。それを横目で見つつ、オレはローブの男に集中する。すると、ついに男が動き出した――。

 新郎新婦に注目する人々を掻きわけ、進んでいく。ゆっくりと蛇行しながらではあるが、着実にジーナに近付いている。

 そして、最前列に到達すると、ローブの下から銀色に光る“何か”を取り出した。

(注射器だ――)

 それを確認した瞬間、即興技インスタントスキルを発動する。

 新郎新婦の背後に立つ教会の神父――結婚式なんて、そうそう行く機会なんて無い。何をするでもなく突っ立っている“余計な神父”が居ても、誰も疑問に思わないだろう。

 流石は獣人だ。新婦の衣装を脱ぎ捨て、飛び出したオレに真っ先に気付いたのはローブの男だった。さらに驚くことに、オレの動きを目で追っているようだ。

 しかし、敵も人間。迷いが生まれたのだろう。オレが注射器を叩き割るまで動けないでいた。


――パリンっ。


 甲高い音が周囲に響く。幾つか悲鳴が上がり、直後、静寂が訪れる。人だかりが割れ、オレとローブの男だけが中心に取り残される。戸惑いの視線が集まる。

 オレは声を張り上げる。


「コイツは獣人だ。薬を使ってジーナを変身させようとしていた!」


 皆がざわめく。スロークがジーナを守るように立つ。

 オレは少し安心する。これで、前回のシナリオから外れた。少なくとも、すぐにジーナが変身してしまう事は無いだろう。

 

「まさか、私に気付いている者が居たとはな……油断した」

「大人しく帰ってくれ。そして、もう二度と現れるな」


 さしあたっての危機は回避した。しかし、相手が獣人だというのは変わらない。戦闘になれば勝てない。結局のところ話して帰ってもらうしかない。


「企みは失敗した。だから、帰るんだ!」


 命令口調だが、心の中では祈っていた。頼むから、帰ってくれ。

 

「そうはいかん。式を盛り上げてやれと言われているからな――」


 言い終わるか終らないかのタイミングで先手を打つ。オレの魔法名“未来”は敵に触れるだけで、時間を奪うことができる。変身されてしまえばオレは付いていけない。だが、変身前なら何とかなるはず――。



 *



 開け放たれた教会の扉。最初に男の姿を見たのは神父だった。静かな足取りで横を素通りし、新婦の背後まで歩み寄って行く。ジーナは目の前で行われている戦いに気を取られていて気付かない。スロークはジーナの前に立っているので、さらに気付けない。

 新婦は事情を知らない。だから、男を見ても「誰だろう――」というような感想しか持てない。

 これはマズイと神父が気づいたのは、男がジーナの背中に注射針を突き刺した後だった……。



 *



――ポンっ。


 コイドの魔法が起動し、ローブの男が煙に包まれる。


「きゃぁぁぁぁ……」


 ほぼ同時に背後から悲鳴。

 攻撃を終えたばかりのコイドが振り返る。すると、そこでは悪夢が再現されていた。


「なっ――どうして……」


 スロークの腕に抱かれたジーナの体はビクビクと痙攣している。社交ダンスの決めポーズみたいな格好だが、彼女の目は大きく見開かれ、口からは低い呻き声が漏れている。

 潜入していた獣人は一人じゃなかった。群衆に紛れていたのは、むしろ囮で、本命は教会の中に潜んでいた。

 ほんの一瞬の間では、そこまで思い至れない。しかし、これから何が起こるかは嫌というほど知っている。


「アーネ、メシア、皆を避難させるんだ!」


 コイドが叫んだとき、二人はすでに動いていた。人だかりを囲うように銀色の女神像が現れる。その数三十か、それ以上。クウィィィンと高い音を立てて動き出す。

教会の庭の隅に建っていた納屋が浮いた。少し移動して、人々の前でドスンと地面に下ろされる。


「みんな像の腕に捕まって! 危険はないから、早く!」


 メシアが呼びかけると、数人の人々が遠慮がちに戦車に近寄って行く。戦車は優しく人を抱き上げて行く。一体につき五人ほどの人間を囲いこみ、戦車は次々と飛んで行く。


「さあ、入ってください。早く!」


 アーネットは、半ば強引に人々を納屋の中に押し込んで行く。教会は人の出入りが激しい。シーツや食料など大量にストック必要がある。納屋も普通の家より随分大きい。最終的に五十人ほどの人が収容された。


「揺れますから、何かに捕まっていてください。それと、扉の方には近づかないでくださいね」


 早口で告げ扉を閉めると、アーネットは納屋を持ち上げた。五十人の人が入った巨大な建物を、まるで麻袋でも担ぐかのような仕草で肩に乗せた。そして、戦車と同じように地面を蹴り、飛ぶ。一度のジャンプで二軒先の家まで飛び越え、すぐに姿が見えなくなった。

 教会に残ったのは、コイドとジーナのみ。スロークと神父は戦車が強制的に連れて行った。小井戸が魔法で子供に変えた獣人は薬を打った獣人が連れて逃げて行った。

 既にジーナの体は発光し始めている。小井戸の魔法名は通用しない。

 また世界が終る……絶望に苛まれる小井戸。しかし、彼は、まだ諦めていなかった。

(やるしかない……やるしかないんだ)

 彼にできることは一つ。獣人に唯一有効な攻撃手段、影の鎧。僅かな時間稼ぎにしかならず、結局世界は滅びる。が、そう知っていてもやるしかない。

 左手、薬指の指輪を引きぬく――。


「コイドさん!」


 その寸前だった。指輪に掛っていた手が止まる。声の聞こえた方を見ると、二人の少女がこちらに走ってきている所だった。


「イリナ、エレ――どうして!?」


 寝ずの番につきあった二人は、宿で寝ている筈だった。なのにどうして――コイドは混乱している。

 疑問に答えたのはエレだった。


「どうしても――コイドと一緒に居なきゃいけない――そんな気がして――」


 息絶え絶えにそう告げつつ、二人はもつれ合うように小井戸に抱きついた。

 ジーナが変身を終え、光を放ち始めたのは、それとほぼ同時だった。

 世界の崩壊が始まる――。


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