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戦車



 コイドさんたちと逸れて二日。私とメシアさんは村長さんの厚意に甘えて村に滞在していた。二人で交互に見張っているのだが、未だ森からは誰も出てこない。ここまで遅いということは、コイドさんたちはブラクコンティーンにたどり着くことができたのだろうか。それならいいのだが、しかし彷徨い続けているという可能性もある。コイドさんは途方もない力を持っているから、最悪の事態はないだろう――と私は思っているのだが、万に一つということもある。族のことは気になるが、あと二日――いや、明日になったら一度探しに行ってみよう。こんな時だからこそ、冷静に判断せねば――と私は気を引き締めていた。

 

 早朝――私は村長さんに借りている空き家を出た。

 見張り交代の時間だ。村外れの物見やぐらで見張りをしているメシアさんは、きっと眠気で目を擦っていることだろう。彼女はこの二日間とても頑張っている。二人のことが心配なのだろう。普段はお道化た言動が多いが、根は真面目で責任感が強い――私はメシアさんにそんな印象を持ち始めていた。


――と、そんなことを考えながら村の中を歩いていると、人だかりができているのが見えた。

 村長さんの家のほうだ――まさか!? と思い、走りだす。

 しかし、家の前に集まっているのは、どこから見ても族ではなかった。

 鎧を着こみ、槍を持った男が十数人、きれいに整列して立っている。軍人だ。装飾類を見るにブーズステューの人間だろう。

 村長さんは外に出ていて、軍人の中で一人だけ深紅のマントを付けた男と話していた。近づいてきた私に気付いたようで、話を打ち切って手を振ってきた。


「おお、これはロカさん。おはようございます」


 その声につられて、マントの男の視線が私に向く。私よりは年上だが、まだ若い。髭が綺麗に剃られた精悍な面持ちの男だ。ナイフのように鋭い目が私を値踏みするように細められる。

 私が「おはようございます」と返すと、マントの男が村長さんに問うた。その顔には不信感がにじんでいる。


「誰です? まさか――」


 村長さんは焦ったように、


「い、いえ。そうではありません。彼女の名はロカ=エルサンドラールです」


 と言うと、マントの男は目を見開いた。


「エルサンドラール……まさか、ローブアイン公爵領地の戦駆り――!?」


 己惚れるわけじゃないが、よく見る反応だ。まったく――悪名ばかり広がってしまって困ったものだ。

 私がうんざりしていると、村長さんが付け足すように言った。


「ロカさんは族に脅されていた私を助けてくださいました。森で逸れてしまったお友達を待ちたいと言うので、村に泊まっていただいているのです。決して賊の仲間ではありません」


 族の仲間? そうか、そういう話をしていたのか。なるほど、たしかに余所者の私は一見怪しい。疑われても仕方がない。

 と、私は納得したのだが、話を聞いたマントの男が気まずそうに頭を掻いてから、姿勢を正した。そして、私に向かって言った。


「失礼しました。エルサンドラール家の方とは知らず、無礼な態度を――私はデンガッド。ブーズステュー公爵直属ヴィルトラージ騎士団に属す者です」


 ヴィルトラージ騎士団――聞いたことがある。魔法研究の最先端であるブーズステューの技術で作られた特殊な魔法道具を使う少数精鋭の軍隊だ。魔法道具の機密性の高さから彼らは滅多に戦場に出ず、その実力は未知数――そんな噂を風に聞いた。まさか、こんなところでお目にかかれるとは。

 ちょっとした感動を覚えつつ私は聞いてみた。


「それで”族”とおっしゃっていましたが、デンガッドさんたちは何を話していたんですか? 差し支いなければ私にも教えてください。力になれるかもしれません」


 こんな時に人の世話をしてる場合じゃない。それはそうなのだが、しかし、族の問題がどうにかなれば心置きなくコイドさんたちを探しに行ける。つまり、自分のためでもあるのだ。

 デンガッドさんは少し悩んでから話し出した。


「実はですね――」


 要約すると、族に対する討伐隊が組織されたということだった。どうやらブーズステューとブラクコンティーンの間には協定が結ばれているらしい。デンガッドさんは、それがどのような内容なのか語らなかったが、ブーズステューは森を守る仕事を請け負っているのだという。

 そう、族の目的は森の破壊――もしくは、それによって得ることができる物――のようだ。


「それでこの村が襲われた、ということですか。しかし、となると――」


 私は情報を整理して、あることに思い至っていた。

 

「族はブーズステューの精鋭軍を相手にしても勝算がある――ということになります。そうでなければ村の乗っ取りなどという目立つ行動に出るとは思えない」


 近隣国であるこの村にちょっかいを出してブーズステューにバレない訳はない。それはつまり、五大公爵領地であるブーズステューを無視できるほどの力を手に入れた――ということだ。

 その答えはデンガットさんが持っていた。


「ええ、この近辺で”戦車”が度々目撃されています」

「戦車!?」


 それは、人を、都市を破壊するためだけに作られた物の名前だ。戦争のために作られたはずが、その生産コストの高さゆえに実際使われたことは無い。ほんの数台しか作られず、そのほとんどが鉄くずに戻されたか博物館に飾られている。

 そんなものが、あの小悪党の手に落ちたというのか?


「我々は族と戦車の結びつきに裏を取っている段階でしたが、この村にきて確信しました。族は戦車を手に入れた――そして、その骨董品を使い森を破壊している。

 我々は情報収集から偵察任務に段階を繰り上げる必要がある……早く奴らの拠点を見つけ出し手を打たねば、大事になりかねない――」


 デンガットさんが拳を握り締める。

――それを見ながら、私の頭の中には不吉な想像が芽生えていた。

(まさか、コイドさんとアーネットさんは族と出会ってしまい――――!?)

 深く考える余裕もなく、私は口を開いていた。


「デンガットさん――族を探しに行くのなら、私も同行させてください」


 すると、兵士の鋭い相貌に驚きが混じった。


「それは構いません――というより、我々としては心強い限りですが。しかし、なぜです? 我々の事情とあなたは無関係でしょう」

「先ほど村長さんも言っていましたが、私の友人が森にいるんです」


 デンガットさんがハッと口を開けた。私の言わんとすることろをわかってれたようだ。


「分かりました。ロカ=エルサンドラール殿――あなたが同行するというのなら止めません。しかし、敵は戦車……一切の魔法が通じず、鋼の装甲はどのような名刀を用いても切り裂くことはできないと聞きます。万が一戦闘に発展した場合、こちらの不利は堅い。

 それでも同行しますか?」


 きっと私と同じ――いくつもの戦場を駆けたであろう人間の光彩を絞った目。覚悟を問われている。

 しかし私は迷わない。臆することも逸ることもない――それが罪を犯し贖罪を誓った私の使命であり、そして、それこそが『天秤の支柱』たりえる資格なのだ。

 私は、やり取りを静観していた村長さんのほうに向きなおる。


「すみません村長さん。頼みごとをしてもいいですか?」

「ええ、なんでしょう」

「メシアさんが見張り台にいますので、帰って寝るように言ってください。それから、ここでの会話を簡単に説明してください。メシアさんはとても頭がいい――きっと、すぐに理解してくれるでしょう」


 私が言うと、村長さんは笑顔で頷いてくれた。


「お安い御用です、ロカさん。それから、見張り番も私に任せてください」

「そんな! そこまでして頂いては――」

「あなたは村を救ってくださった。これは、途方もない恩です――私にできることがあるなら、やりたいのです。それに、年寄りは暇ですからな」


 お道化るように村長さんは言ってくれた。

 私は頭を下げてお礼を言う。お世話になりっぱなしで申し訳ありません――と気持ちを込めて。

 そして頭を上げ、デンガットさんのほうに向きなおる。


「では、行きましょう。デンガットさん」

「はい」


 学校が始まるまで、あまり余裕がない。

 手短に片づけねば。


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