表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/253

港の先には…… 9



 ニアは、イリナが見つかるより前からアニスの企みに勘付いていた。公爵の屋敷に忍び込んだ。何かしら痕跡があるはずだと、捜査を始めたのだが、アニスの書斎には獣人に関する文献が大量に積まれていたのですぐに気付く。彼は獣人を使い他の王と戦うつもりなのだと。

 それからニアは、工房を借り魔法研究を始めた。文献を見た限り、自分たちに獣人と戦える力が無いと分かってしまった。だから、少しでも差を埋められるよう、対抗できる魔法を組んだ。眠気と疲労でフラフラになりつつ、小井戸の元へ戻ろうと歩いていたところ、小井戸と出会った。

 そういった経緯があったので、花嫁に異変が起きた時、ニアだけは冷静でいられた。

 あの症状は精神の均衡を崩す薬品によるものだ。おそらく、客に紛れた何者かが、花嫁の体内に注入したのだろう。

 獣人の変身を抑制しているのは精神だ。それを開放するのは、押さえつけるより難しい。普通に生きていれば、獣の姿になることなどほぼ無いという。しかし、投薬を使えば、その抑制を易々と乱すことができる。全て文献に書いてあった。

 あの花嫁はもう正常の精神を保てていない。変身する。

 ニアは魔道書の形をした魔法道具を取り出した。全快魔女の都でこれを使った時は自滅する羽目になった。しかし、ローズウッドに古代魔法の使い方を習ったので、もう二の轍を踏むことは無い。恋敵から教えを請うという屈辱はあったものの、こういう状況になってみれば、習っておいて良かったと思えた。小井戸を助けられるかもしれないのだから。

 魔道書に魔力を流し込み、口の中で呪文を唱える。それを合図として、最近追加されたばかりの、魔道書の一ページが陣の効果を発揮する。

 彼女を中心とした三メートルほどの範囲に黒いドームが現れる。それは、濃密な魔力の膜でできていた。しかし、魔女の都で発現させた影の鎧とは異なり、向こうが透けて見える程度の密度に押さえられている。これこそ、彼女が作りだした獣人に対抗する魔法――集光陣である。膜が光を吸収し、仲まで通さない、言ってしまえばそれだけの効果だが、光量が多すぎて直視できない敵と戦うのであれば、役に立つ。

 集光陣を展開させたまま、ニアは走る。目指すは獣人の前で倒れてしまった小井戸の元。



 *



「コイド様、コイド様!」


 頬を叩かれ意識が戻る。

 目を開くと、そこは薄暗い空間だった。自分の体を支えてくれているのはニアだ。


「これは……?」

「光を寄せ付けない盾のようなものです。この中に居る限り獣人を直視しても目をやられることはありません」


 流石は魔法研究者だ。こんなことまでできるとは。

 感心するのもほどほどに、辺りを見回す。

 そこはもう幸福な結婚式場とはかけ離れていた。全ての人間が地に伏せ動かない。そんな中、一人だけ立っているのは、


「あれが変身した獣人――」


 ジーナだ。このバリアーが無ければ見ることも出来なかったはずだ。

 人と狼の中間といった見た目だ。人間の女性の特徴を残していながら、全身に銀色の体毛を蓄え、足の先は細くとがり、しかし手や爪は鋭く長い物が付いている。首から上はまるっきり狼のそれであり、切れ長な目が輝いている。

 今は、ボーっとしたような感じで視線を彷徨わせており、動き出す気配はない。


「人の知能を持つ、獣――それだけでも十分脅威ですが、獣人の強さの本質は、光にあります。

 変身した獣人は光と同じ性質を持つようです」

「なんだって!? まさか、光と同じ速さで動けたり――」

「はい」

「光には触れないと思うんだけど」

「そうです。加えて、光の持つ加速する習性も持ち合わせているので、地面を殴ればクレーターができるほどのパワーを持っています」

「なんてこった……」


 港で食らった攻撃は加減されていたのだ。ほんの一瞬、一部のみ変身して攻撃されただけで、未だに後遺症が残るほどのダメージを負った。だとすれば、こうして完全に変身した獣人の攻撃を食らえば――体が震える。


「コイド様、私は貴方を愛しています。ですから、逃げることを提案します」

「いや、ダメだ――あそこに居るのはジーナなんだ。今日彼女は幸せだけを感じているべきなんだ――だから、どうにかする」

「無理です。絶対に勝てません」

「でも、やらなきゃ――ここで逃げたら、多分オレはダメになる。自分のために我がままに生きて来たのに、ここぞという時に役に立てない――それじゃ、自分を許せなくなる!」

「そういうと思ってました。付き合いますよ」

「しかし――」

「ダメです。私のことを心配してくれるのなら傍に居させてください。それに、この集光陣が無ければ獣人を見ることも出来ないでしょ?」

「ニア――」


 少し恐れているようだった。しかし、へんてこな服装の幼げな顔に迷いはなかった。


「ありがとう。全部終わったらお礼をするから、考えといて。何でもいいよ」

「な、何でも……」


 さて、といった所でどうするか。


「ねえ、どうしたら人間の姿に戻るの?」

「え? あ、はい。今、あの方は薬によって我を忘れている状況です。なので、薬の効果が切れれば元に戻るでしょう」

「どれくらいで切れるの?」

「通り魔的な手段で投薬したはずですから薬の量は少ないはず。おそらく、十分から十五分程度かと」


 念を入れて十五分。その間、ジーナに物や人を壊させなければいい訳か。


「まず人に被害が出ない所までおびき寄せて、そこで攻撃を無力化させ続ける。ってかんじかな」

「それがベストでしょう。しかし、容易じゃないですよ」


 一撃食らえばオレは死ぬ――問題は、この体がどこまで不死身で居られるかだ。もしかしたら、生き返ることができなくなるまで粉々にされたり、再生が全く間に合わないかもしれない。


「何か策はあるんですか?」


 そう問われれば、無いことは無い。


「“あの人”に聞いてみようと思うんだ」

「あの人?」

「本物の魔法王さ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ