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港の先には…… 8



 式は佳境に近付いていた。

 教会の前に大きな人だかりができている。その中心、少し高い所から笑顔を振りまいている二人、新郎スロークと新婦ジーナ。

 最初に出会ったのは子供の頃、再会したのは三日前。二人で過ごした時間はまとめて半年にも満たない。互いのことを理解しているとは言えず、結婚するには時期尚早なのかもしれない。

 しかし、そんなこと関係無かった。スロークの村が無くなり、離ればなれになった十数年の時間。相手がどこに居て、なにをしているか、まるで知らないまま過ごしたが、同時に相手への気持ちを育てたのも、会えない時間なのだ。将来の不安や、いずれ訪れるかもしれない軋轢、過去のいざこざ――考え出せばキリが無い。事情の多いカップル。しかし、それらを全て無視してでも、今は“しるし”が欲しかった。その点において、二人は共感し合った。周りの人々の後押しもあって、今日、二人は結ばれた。


「さあジーナ、投げるんだ。人にぶつけるなよ」


 新郎は軽口を叩く。それは照れ隠しの一環だった。


「お前な、私をゴリラかなんかと勘違いしてないか?」


 新婦は一度スロークに睨みを利かせてから手の中のリボンで着飾った花束を見つめた。

 白いドレスが褐色の肌に映える。かつて傭兵として各地を巡っていた過去の面影はもはや無い。

 

「なあ、スローク――本当に良かったのか?」


 ジーナは急にそんなことを言った。実はずっと聞いてみたかった。自分は普通の人間じゃない。それどころか、スロークの家族や知り合いを殺した張本人だ。そのことがずっと心に引っ掛かっていた。それが、この土壇場で噴出したのだ。


「どうだろうな。私には分からない――」


 ジーナの顔が少し曇る。しかし、


「でも関係ないだろ。私はジーナを愛している。そして――」


 お前は? というニュアンスで言葉を切る。

 ジーナは少し反省した。でも、それは後にして、今は微笑む。


「私もスロークを愛してる」


 確かにそうだ。それで充分じゃないか。過去に色々あって、それらは今この瞬間も自分たちを縛っている。そして、未来にも色々なことがあるだろう。きっと気の休まる時などひと時も無い。

 でも、しかし、だからこそ――。

 こうして自分を対価に好いた男を手に入れておくべきだ。結婚という契約によって、互いを縛り合うべきだ。

 どうせなら、二人で一緒の方がいい。


「ありがとう」


 ジーナは少し腰をかがめ、勢いを付けて花束を――


「みんな、逃げろ!!」


 その叫び声によって、辺りは静まり返った。皆、声の方を振り向く。

 教会を囲う策の向こうからこちらを睨んでいる二人――ニアとコイドだった。


「早く! 外に出るんだ!」


 コイドは再び叫んで、こちらに駆け寄ってくる。

 突然のことに言葉を失っていたジーナ。その視界の隅にニヤッと歪んだ誰かの口元が映った。



 *



 人を驚かせるのが好きだ。アニスの最後の言葉はまさしく小井戸を驚かせた。


「私の部下も式に行っているよ。精一杯盛り上げるよう命令しておいた」


 彼が式に花を添えようと、そんなことを言った訳じゃないことは、流石に小井戸にも分かった。アニスの部下といえば、獣人であり、盛り上げるとは即ち――。

 本調子ではない体に鞭打って、小井戸は走った。もう遅いかもしれない、と思いつつも走り続けた。

 ニアと会ったのは偶然だった。ニアはこの町に来てから、ずっと一人で行動していた。久しぶりに小井戸を見て、魔女風衣装の少女は歓喜の声を上げた。


「あら、コイド様。ちょうどよかった――」


 しかし、小井戸は聞く耳を持たず、何か言いかけたニアの手をひったくり、走り続ける。

 教会の前に人だかりが出来ているのを見て、小井戸は一瞬気をゆるめそうになる。が、すぐに気を引き締める。あの中に獣人が混ざっている。おそらく、唯一顔を見せていない最後の一人。小井戸の腹に大穴を開けた獣人だ。

 最初の叫びで式に参加していた全員が小井戸を見た。二度目の叫びで疑問を抱く。

(逃げろ? どうして? 余興かな?)

 静寂――全ての人間が、待っている。誰かが事情を説明するのを。


――その時だった。


 金属を引っ掻くような鋭い悲鳴。皆の視線が引き寄せられる。その先に居るのは純白の花嫁。


「おい、どうしたんだ。ジーナ……ジーナ!」


 スロークが新婦の体を抱きとめていた。そうしていなければ彼女は倒れてしまうからだ。体中に力が入っておらず、しかし、目と口はカッと押し開かれており、口から「あ……あア……」と呻き声が漏れている。

 何故こんなことに――誰もがそう思っていた。しかし、そうなった理由である痕跡を新婦の体に見つけられた人はいない。ドレスの裾から僅かに覗く足首、そこに虫刺されのような腫れがある。それは一瞬前まで無かったものだ。

 混乱に乗じて一人の男が人だかりから抜け出し、教会の陰へ走って行く。皆新婦の異変に気を取られていて、そちらを見ていない。頭をすっぽり覆うフードと繋がったローブの下からキラリ光る物が落ち、土の上でパリンと割れた。飛び散ったガラスの破片、そして細い“針“。教会の角を曲がり、フードの男の姿が見えなくなる。それと同時に、事は起きた。


――音が消え、匂いが消え、視界が消え……全てが光に包まれる。


 小井戸は即興技インスタントスキルを使い、ジーナ目掛けて超高速移動していた。何がどうなるか分からないが、しかし、小井戸が少しでも触れれば未来の魔法名が発動し、無かったことにできる。だから、考える前に行動を起こしたのだ。

 しかし、どうやら遅かったようだ。

 あと少しで届く――という所で、小井戸の視界は真っ白に染まった。何も見えず、なにも感じられなくなる。

 この光は港で獣人が発したのと同じ光だ。そして、目がつぶれる寸前、ジーナの全身から光が放たれたように見えた。

 小井戸に分かったのはそれだけだった。


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