魔法王と偽りの魔女 10
難民や戦争を快く思わない人々を引きつれ、新たな国を作る。という俺の決断は、怖くなるくらい順調に成果を上げていた。
ブーズステューを出た俺たちは、王都を占拠しているダンバイザードとローブアインを巡った。公爵と兵は王都に留まっているため、公爵領地には事情を知らない一般人しかいない。
この国は戦争の渦中にある。この土地でもいつ戦いが始まるか分からない。と、人々に事実を言って回った。結果的に怯えさせてしまったが、実際戦いに巻き込まれてしまう可能性がある以上仕方がない。
正確な数字は分からないが、二つの公爵領地から総勢数万の人々が俺たちに賛同してくれた。
火の国ダンバイザードは険しい山に囲まれた僻地であり、そこを越えれば国外に出られる。そして、山の向こうには、かつて金鉱の町として栄えた地域があり、金の枯渇と共に廃れてしまい、今はだれも住んでいないという。
さしあたって、そこを領土にすることとなった。
ある程度のインフラが整っており、野山が近く、これだけの人出があればすぐに生活を始めることができる。さらに、険しい山々が壁となり、侵略される可能性も低い。 ――といった具合に好条件が揃っている。
ひとまず、弱い者が理不尽な暴力にさらされるという最悪の事態はある程度回避できたはず。もちろん、まだ十分ではなく、残る三つの公爵領地と、王都、ルドラカンド学園など、助けるべき人々が残っているであろう場所はいくらでもある。
ということで、俺とアーネット、メシア、エレ、そしてニアの五人はダンバイザードの山を越える一団と一度別れた。
大所帯で各地を回るわけにはいかず、しかし、人々を送り届ける時間が惜しい――と考えたのだ。
まずどこへ行くべきか――という議論になった。
「まず整理しましょう。五大公爵たちは、今どんな状況か」
アーネットが話を進める。
俺は記憶の整理も兼ねて、
「ローブアインとダンバイザードが王都に。ブーズステューはここに、フィラカルティーは、たしか戦いに敗れ行方不明――それから、カタードスだけ何の情報もない――って感じかな?」
言い終えると、四人とも頷いた。合っていたらしい。
こうして整理してみると、戦況はかなり偏っているように思われる。王都を占拠している二人の公爵。何故争いに発展しないのか分からないが、明らかに今一番強いのはこの二つの軍だろう。
それ以外は、どうもパッとしない。頭首を失い散り散りになったフィラカルティーは、今後まともに行動を起こせないだろうし、ブーズステューなど政権交代が起こったばかりだ。国をまとめるのに掛り切りで戦いに加わることはまずないだろう。
顎に手を当てて考え込んでいたメシアが口を開く。
「いつどこに攻撃を仕掛けてもおかしくない王都組が一番危険なのは当たり前だけど、私的にはカタードスも気になるかな――これだけ色々なことが起こってるのに、何の反応もない。不気味だよ」
「そうですね。せめて、カタードス公爵がどんな人物か分かれば――」
アーネットがそう呟いたとき、俺はハッとしてニアの方を見た。すると、彼女も俺を見ていた。
「えっと、ニアに聞けば分かると思うよ」
俺が発言すると、残る三人分の視線が集まってきた。
「そうなんですか?」
「なんで?」
そう質問されて”しまった……”と顔をしかめる。
そういえば、お姫様から聞いた話を皆にしてなかった。
*
「バスウッドは、すでにこの世界に居ない」
お姫様の口から急に、その名前が出てきたことを意外に思った。
しかし、どうやら二人は面識があったようだ。
「会ったことがあるなら分かるだろう。ヤツは好奇心の塊だ。見たい、知りたいと思ったなら、どんな手段を使おうとも願いを叶える――緻密な探査魔法を組み、魔女の都を探し当てたようだ。自力でここに到達した普通の人間はヤツ一人だよ。
三十年位前だったか……その時は、随分手を焼いたものだ」
「ローズが?」
「ああ、質問攻めにあってな――精根尽き果てるまで答え続けたよ。そうしなければ絶対に帰らないことが私には分かっていたからな」
「へえぇ……」
この人を困らせるなんて、とんでもない人だ。
「というか、なぜ気づかん。ヤツが傍に置いていた人形の名前はなんだ?」
「え? ――ローズウッドでしょ……あっ」
なぜ気づかなかったんだ。今目の前にいるお姫様の名前も”ローズウッド”だ。
「まったく鈍いやつだ。それはともかくとして、さっきも言ったようにバスウッドはもうこの世界に居ない――といって、死んだわけではなく、世界を越えて行ったのだ。
お前は知っているだろう? この世にはいくつも世界がある」
確かに、ドローエマグの魔導書世界を行き来していた時に知った。複数の世界が存在し、時間を共有しているんだとか。
「バスウッドが行ったのは、かつてお前が暮らしていた世界だ――それも”にほん”に居るそうだぞ。お前の故郷だろう?」
故郷というには広すぎるが、間違ってはいない。
「でも、いくらバスウッドが世界最高峰の魔法使いだとしても、そんなことまでできるとは思えないけど……スケールが大きすぎるよ」
「うむ、順を追って話そう――向こうの世界を知ったバスウッドは、そちらへ行く方法を探し、ある人物に出会う。ソイツはバスウッドに”箱を持って来れば転移させてやろう”と持ち掛けた――ということらしい」
「箱って、まさか――」
「そう、ルドラカンドから持ち去られた物だ。元々は遺跡の最奥部に安置されていたのだったな」
今になって知るとは思わなかった。バスウッドはあの世界に行くため戦っていたんだ。
「その箱こそ五大王の魂が封じられていた箱だ。つまり、バスウッドに交換条件を持ちかけた”人物”の目的は、五大王を蘇らせることだった――という訳だ」
「その人物って誰なの? なんで王たちを蘇らそうと?」
ローズは頭を振った。
「どちらも分からん。が、争いを起こしたかった――というのは間違いないだろう。なあ?」
そう言って、視線を流す先には縄で縛られたニアが居る。
「そうね、私たち五大王は皆自分勝手でバラバラだけど”戦わずにいられない”という点で共通しているわ。私たちが解き放た――それは”戦いが始まる”と同義よ」
――と、そんな会話をしていたのだった。
王たちがなぜ戦うのか、なにを目的としているのか。当時、同じ時間を過ごしたニアであればある程度把握しているはず。
「コイド様……うっかりしすぎです」
「まったく……おバカなんだから」
「いや、アホの方だね」
アーネット、メシア、エレが立て続けに俺を責める。
そして、ニアは嬉々として言う。
「私はそんなコイド様を愛しています!」
それは――あんまり嬉しくない……。




