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魔法王と偽りの魔女 9



 正直な話、俺は考えるのが苦手だ。何かを決めるのはもっと苦手だ。

 でも、だからと言って、そういう事を避けては生きられない。

 こうしたい、これが欲しい、これは嫌だ――そういった望みはあるのだから、何時か、何処かで、考え、決める必要がある。

 そして、どうやら今が“その時”らしい……。


「アンタはアンタでいなさい――」


 その言葉を道標に、俺は考えた。考え続けて、嫌になって眠って、起きて、また考えて――何度も何度も堂々巡りして、しかし、繰り返すたび、ほんの僅かずつ進んで――そして、俺は魔女の都から地上の世界に帰る決意をした。



 *



――コイド様が帰って来たのは、私たちがブーズステューを追われて二日後のことだった。


私たちは迷いの森の傍を流れる川の近辺をキャンプ地とし、何処か気の抜けた生活を続けていた。

 あと少しで夜がやってくる、という時分、私はメシアとエレを引きつれて、食事の用意を始めていた。昼間ヴィルトラージの兵たちが釣ってきてくれた魚に下処理を施し、同じく男たちが集めて来た果実の類を葉っぱの皿に並べる。そんな最中、コイド様はふらりと帰ってきた。そして、私たちの顔を見るなり、


「手伝うよ」


 といって、本当に食事の用意を手伝いだした。

 メシアはパッと顔を輝かせ、作業を共にした。エレは人懐こく横やりを入れ、ふざけ出した。二人ともコイド様が帰ってきて喜んでいるようだ。もちろん私も嬉しい。

 しかし、料理などしている場合ではない。話さなければいけないことは山ほどあるはずだ。と思うのだけど、


「あとで話すからさ――今は皆で料理しようよ」


 とはぐらかされてしまった。そう言うのであれば私は従うしかない。

 コイド様は奇妙な格好をした女の子を連れて来た。

 驚いたことに、その少女こそブーズステュー公爵、その人らしい。

 続々と詰め寄ってくるヴィルトラージ騎士団の面々に対し、公爵――いや、今はニアという一人の人間として、彼女は説明をしていた。


「私はもうアンタたちの主人じゃない。だから、アンタたちは各々好きに生きなさい」


 動揺の声を上げる兵たちだったが、古代の王の魂が蘇り五大公爵たちは別人になってしまった――という説明を受け、皆黙らざるを得なくなっていた。

 公爵たちに異変が起きている――というメシアの推理は当たっていた。信じられない話だが、国で起きている騒ぎに説明がついてしまう以上、信じるしかない。



 そんなこんなで夜がやってくる。

 五十人程度のヴィルトラージ騎士団と私たちは昨晩と同じように焚火を囲い粛々と物を口に運んだ。話しだす者はおらず、パチパチと薪の弾ける音のみが響いていた。

 あらかた食事がすんだ辺りで、コイド様は立ち上がった。そして、


「俺――国を作ろうと思うんです」


 そんなことを言い出した。

 だしぬけに言われたため、誰も反応することができず、しかし、誰しもがコイド様に注目していた。

 そんな中、私のご主人様は語りだす。


「さっきニアから説明を聞いたと思うけど、今エレドペリ王国は争いで満ちています。しかも、これから、さらに増えて行くはずです。

 俺は学校に通いたい。それが全てです。

 それは、今この国の状況じゃとてもじゃないけど叶わない。

 だから、新しく国を作って、そこに学校を作ろうと思うんです」


 提案とも宣言ともつかない物言い。

 それを受けて立ちあがったのは、デンガッドだった。彼はコイドと面識があり、以前しばらく行動を共にしたこともある。それなりに互いを理解し合っている。

 そんなデンガッドが心底戸惑ったように、


「こ、小井戸さん……いったい何を言ってるんです。新しい国を作るなど――正気ですか?」


 コイド様は自嘲するようにはにかんだ笑いを浮かべ、


「――そうですよね、滅茶苦茶言ってますよね、俺……」


 そして、その顔のまま、デンガッドを真っ直ぐ見据え、


「でも本気です。誰になんと言われようと、俺は国を作ります。だから、皆さんも協力してくれませんか?」


 そう言い放った。



 *



 俺は戦争とどう向き合うべきだろう――その迷いに答えを出すためには俺自身の望みを具体的にする必要があった。そして、具体化するには全ての葛藤を無視する必要があった。


『学校に行きたいだけ』


 最終的に残ったのは、それだ。それが一番大事だ。

 次に、学校に通うためには平和な国が必要――という点について考えた。

 今まで俺は、学校に通うため、平和なエレドペリ王国を取り戻さなければ――と考えていたが、果たして、そう考える必要があるのだろうか? 俺の通う学校はエレドペリ王国のルドラカンド学園でなければならないのか?


『そんなことはない』


 ルドラカンド学園に拘る必要は無い。

 そこにアーネットやメシアやエイモスなどが居ればそれでいい。俺はそう思える。

 だからルドラカンド学園、エレドペリ王国を捨てても構わない――それが結論。


『俺は戦争とどう向き合うか』

『俺は国を捨て、逃げる』


 ということだ。


「しかし、私はブーズステューで生まれ、民のために生きてきました。そんな場所を――故郷を捨てることなどできません」


 デンガッドは冷静を装っていたが、拳が震えているのが見えた。

 俺は覚悟を決める……進むために。


「故郷とは何ですか? 場所ですか? 記憶ですか? 信じていた主が居なくなり、守ろうとしていた民に追い出され――それでも、そこが故郷なんですか」

「コイドさん……貴方には恩があります。正直尊敬していました……しかし、今の言葉は聞き逃せない――恨みますよ」


 悔しげに歯を食いしばるデンガッド。ゴメン――でも、


「一番大事なのは一人でも多く生き残ること――そして、不条理な死を回避すること――それ以上に大切なことなんてありません。

 デンガッドさん、よく考えてください。貴方が一番守りたい物は何ですか?」


 学校に通うためには平和な国が必要。平和な国を作るのは平和に暮らす人々。

 だから俺は“提案“する。

 自分の望みのため、間違っても正義では無く、ただ欲望に正直に――提案する。


「ここに居る人々を元に軍を作ります――そして、各地を巡り、俺たちに賛同してくれる人々を集めます。その中には、助けを求める人々も含みます。

 そうして、各地を回り終え、何倍にも大きくなった俺たちは、国境を越え、新天地に行き、国を立ち上げるんです。

 守るべき弱者と、守ろうとする強者のみで構成された国です。

 デンガッドさん、そこは、貴方にとって、新しい故郷になりえませんか?」


 俺はこちらを見ている五十以上の視線を相手に、声を荒げる。


「争いから人々を救うには力がいる――そのための“国“です。俺はそんな国を作りたい――だから協力してください!」


 思えば、こんなにハッキリと意見を言ったのは生れて初めてかもしれない。

 恥ずかしさや戸惑いはある――しかし、不思議とスッキリした気分だった。


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