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魔法王と偽りの魔女 2



 仄暗い地下空洞に土色の町がボーっと浮かび上がる。魔法使いたちが暮らす最後の町ブラクコンティーンは変わっていなかった。そして、俺は帰ってきた。

 町の中心にそびえたつ城の前に移動すると、扉の前でジードさんが待っていた。


「姫様より伺っております。ささ、中へどうぞ」


 と深い皺の刻まれた顔に柔和な笑顔を浮かべて出迎えてくれた。

 俺の後ろにぴったりとくっ付いている魔女風衣装の女の子ニアについて、説明しておこうと、口を開きかけたのだが「大丈夫でございます。姫様は全て存じております」と制されてしまった。

 確かにお姫様は人の心を読む力があるけど、それは一度会ったことのある相手にしか使えないはずだ。ニアのことは分からないと思うんだけど、本当に大丈夫なんだろうか。いや、連れてきた俺が言うことじゃないけど。

 そんな疑問に対する答えは、お姫様に会って、すぐに示された。

 赤絨毯の広い部屋。お姫様はステージのように一段高くなった所に居た。体の周りでとぐろを巻く身長より長い黒髪の中にちょこんとすわり、ステージから垂らした真っ白な足をぷらぷらと揺らしている。完全な幼児体型にネグリジェのような半透明で頼りない服、という組み合わせは相性が悪いはずだが、彼女の場合、妖精のように神秘的だった。

 お姫様は、体同様あどけない顔に微笑を浮かべ、サディストのように少し顎を上げて言った。


「久しぶりだな、浩平。それと、お前とは五百年ぶりか――ブーズステュー」


 俺は、再開の感動を言葉にする余裕すらなかった。


「ブーズステュー?」


 俺の背中に隠れているニアの方を見る。

 彼女は少し緊張したような表情でお姫様を凝視している。


「そうか、浩平は知らないのね――五大王の魂が解放され、公爵どもの体を寄り代として蘇った。細かいことは後で話すけど、さしあたって浩平が知っておくべきは、そこに居る小娘の中には古代の王の一人、魔法狂いのブーズステューが入ってるのよ」

「はい? ――いや、それは変だよ。それじゃニアが公爵ってことになる。こんなに小さい子が――」

「ソイツの実年齢は八十幾つだったはずよ」

「八十!?」

「ブーズステューは魔法研究を専門に行っている公爵領地だ。不老長寿の方法など探せばいくらでもある」

「――マジ」


 信じられない――という気持ちを込めて、再びニアに視線を戻す。小動物のようにうるんで怯えきった目がそこにはあった。

 しかし、


「なに人の歳バラしてんのよ――それを言ったらアンタなんて五百歳じゃない」


 一瞬で顔が変わった。ああ、なるほど、それを見れば俺にも分かる――作ってたんだな、キャラを。

 ニアは煩わしげに溜息を吐くと、俺の背中から出てお姫様と向き合った。


「久しぶりねローズ。元気?」

「ええ、おかげさまでね」

「それはよかった。その命を繋いだのはスターウェイ様なんだから、粗末にしたら私がアンタを殺してたところよ」

「勘違いしないでちょうだい。あのバカが勝手にやったことよ。死のうが生きようが私の勝手だわ」

「バカ……だと? お前、スターウェイ様に向かって!」

「ちょ、ちょっと待って!」


険悪なムードだったので止めに入る。


「ええと、喧嘩は止めて――っていうか、なんで喧嘩してるのか、教えてくれませんかね……」


 さっきから訳が分からない。俺(多分体の方だけ)が話の中に登場しているのに、置いて行かれている。

 一応今は俺がスターウェイということになってるし、聞く資格はあるはずだ。


「そうだな、浩平には教えておこう。ブーズステュー、お前との話は後回しよ」

「いいけど――でも、話すのは私。ねーコイド様?」

「え、いや――」

「ってことでローズは黙っててね」

「フン――」


 まあ、教えてくれるならどっちでもいいけど。



 *



 今より五百年昔――魔法都市と五大王が世界を二分する戦いを繰り広げていた頃。

 ブーズステューが初めてスターウェイ=ランキャスターと出会ったのは戦場でのことだった。そして、生まれて初めて恋をしたのもその時だった。

 五大王たちに共通するのは戦い奪うために生きていること。それに加え、各々の個性が現れる。ある王は戦いに趣向を求め、ある王は生きる意味を求め、ある王は性的快感を求め――フィラカルティーは戦場で恋を見つけたのだ。

 それから彼女は魔法都市に傾倒して行った。魔法技術の研究に熱中し、魔法都市ゆらいの品物をコレクションし、四六時中魔法王のことを考えた。それは、ある意味ストレートな求愛行動だった。恋人ができると価値観が変わるといったような、ごく普通の変化だった。戦い奪う――という根源的な欲求が恋愛と結び付いたのだ。

 敵の兵は恋の障害、愛しい人に会うため戦場に向かう――そういった戦いの日々の中、フィラカルティーは常に魔法王の隣に居る女の存在に気付く。その女を恋敵と定めるまでそう時間はかからなかった。


「あのときは嫉妬で気が狂いそうだったわ。幼馴染だか何だか知らないけど、私のスターウェイ様と親しげにしちゃってさ――何度殺してやろうと思ったことか」


 前にお姫様から聞いた話を思い出す。お姫様とスターウェイは幼馴染で恋仲だったと言っていた。それが、魔法都市崩壊と共に引き裂かれたと――。

 何となく話が見えてきた気がした。要するに三角関係だったんだ。


「ニアとして蘇った私は、戦闘を始める前にブラクコンティーンを手に入れたかった。でも、この森の守護は厳重でね、なかなか此処までたどり着けなかったわ。だからコイド様には感謝しているの」


 ハッとして仰け反る――そうか、俺は魔女の都を侵略しようとしている人間を案内してしまったんだ。ヤバい、とんでもない失態だ。

 内心焦っていると、


「そう心配するな。確かにお前の行動は軽率だったが、よく考えてみろ。私は全部分かっていてお前とソイツを招き入れたんだぞ」


 確かに。姫様からすれば、俺はもちろん、五百年前に面識があるニアの心も読める。危険と分かれば都へ来るのを止めたはずだ。

 そうしなかったということは――、


「ええ、ブラクコンティーンなんて、もうどうでもいいわ。私は一番欲しかった物を手に入れたんだから」


 そう言ってニアは俺の手に抱きついてきた。


「君の物になった覚えは――」

「では、これからそうします。ね?」

「ええと――」


 俺はブラクコンティーンを侵略しようとしていたニアを止めたらしい! ……なんて、単純な話じゃないんだろう。

 これからどうなるのか。まるで想像がつかない。


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