エレドペリ王都防衛戦 11
コーブは状況を把握するため、物見台に上った。そこからは、王都の全てを見渡すことができた。
「…………」
驚きのあまり声も上げることができない。
まず目に付いたのは、先ほど屋内からみた影の竜だった。市街地を抜け、城門の方に飛んで行ったと思えば、口から真っ黒な火球を吐いている。その辺りにはフィラカルティー軍が待機している筈だ。ということは、こちらに加担してくれているということになるが――?
続いて、反対の方角に目を向ける。そして、さらに驚く。
南門がいつの間にか開いており、そこから兵隊が雪崩れ込んでいる。城壁の外で待機しているらしい兵も含めると――フィラカルティー軍と同数か、それ以上居るように見える。
いったい、どこの兵だ。なぜここに居るのだろうか? 物見台の手すりに近付き目を凝らす。
「――盾と剣の紋章……ローブアインか!」
城門前で先導をしているらしい兵が持つ旗から何とか読み取ることができた。
武の国ローブアインが誇る騎士団だ。王国最強の男ルーク=エルサンドラール率いる精鋭部隊である。
それに加え、金色の鎧を着た兵もちらほら見てとれる。それらは、火の国ダンバイザード門外不出の硬化金製に違いなかった。
「ローブアインとダンバイザードの兵が一緒になっている――?」
全てを見渡したところで、コーブの疑問が解決することは無く、むしろ、増えていた。
しかし、状況が大きく動いたのは確かだった。
*
王座の間を飛び出したロフスは、王城を出たところで立ち止まった。予想外の光景がそこには広がっていた
ウオオオオ――と地響きのような声と共に、数え切れないほどの兵たちが城の前に広がる市街地の方に走って行く。味方の兵でも敵の兵でも無い。
いったいどこから来たのだ。呆気にとられ、きょとんと立ちつくしていると、人ごみの中に見知った顔があった。
ロフスは駆け寄って行く。
「リード――何故君がここに居る?」
慌ただしく駆けて行く兵の中で、その少年だけが散歩でもするような足取りで歩いていた。リードはロフスを見て足を止める。そして「やあ、どうも」と気の抜けた返事を返した。
ロフスは僅かにイライラして、
「やあじゃない。君は逃亡したはずだろ、何故戻ってきた――いや、それより、この兵たちは何なんだ? 何がどうなっているんだ」
矢継ぎ早に問う。
リードはやれやれと頭を振って、
「落ち着いてください。僕はそれを報告するため、ここに来たんですよ――王に会わせてください」
*
フィラカルティー軍のキャンプ地を後にしたリードはルドラカンドに向かった。そして、自治会のメンバーたちからゴウが南の国境に飛んだことを知らされ、すぐさま彼も国境へ向かった。彼は、父親であるフィラカルティー公爵や他の公爵たちにも起こっているらしい“異変”の正体を知っているので、それを知らせる必要があったのだ。
「南の国境で戦っていたローブアインとダンバイザードを見て、ぼくは王都を救う方法を思いつきました」
王は、疲労と心労によりぐったりしながらも、何とか王座に腰を落ち着けている。
リードは、そんな王を真っ直ぐ見つめて報告を続ける。
「全ての元凶は五大貴族たちが古代から蘇った五大王の魂に乗っ取られてしまったことです。そのせいで、王都に背き、戦争まで起こしました。
そのことを踏まえて、国境の戦闘を見ると、分かってくることがあります」
一度言葉を切って、
「ローブアインとダンバイザードも王都侵略を目的としていた――これは、後に両国の公爵から直接確かめたので確かです。
王都を目指して進軍していた両軍が南の国境で鉢合わせし、そのまま戦闘にもつれ込んだ――ということらしいです」
俄かには信じられない。王はそんな顔をしていた。
「まさか、三つもの公爵領地が一瞬で敵になるとは……しかし、であるなら、何故ローブアインとダンバイザードは今フィラカルティー軍と戦っているのだ? 互いにつぶし合っていたのではないのか?」
「ぼくが説得しました」
「説得だと!?」
王は目を剥いた。まだ学生であるリードが大規模な戦闘を説得によって止め、さらには、王都を守るように仕向けたというのか?
リードは事もなさげに言う。
「戦闘に打って出た三人の公爵たちはいずれも“王都の奪取”が目的です。詳しいことまでは分かりませんが、おそらく、更なる侵略のための足がかりにしようという魂胆なのでしょう。
そうですね……たとえば、ローブアイン公爵を例に説明しましょう。
王都が欲しいから進軍を開始した。しかし、同じく王都を狙うダンバイザードと出くわしてしまい、戦いとなった。目の前の敵を倒してから王都に向かえばいい――そう考えたはずです。しかし、そこで、ぼくが知らせたんです。
王都はフィラカルティーによって今にも滅ぼされようとしている――と」
王は合点がいったようで相槌を打った。
「なるほど――つまり、ローブアインとダンバイザードはフィラカルティーを倒すために一時休戦しているということか」
「はい――両軍合わせて八千弱、王都の軍も合わせれば一万に届こうかという数です。まず負けることは無いでしょう」
「そうか――そうか……」
王は噛みしめるように頷いた。ようやく気を緩めることができたようだ。
しかし、リードはさらに言葉を重ねる。
「安心するには早すぎます――フィラカルティーが退けば、その後に待っているのはローブアインとダンバイザードによる王都剥奪戦です……貴方が危険にさらされていることに変わりは無いのです」
「…………」
たっぷり三秒ほど話の内容を咀嚼して、それから、王は白目をむいて気絶した。




