エレドペリ王都防衛戦 6
魔法都市を退け、世界の全てを手に入れた五人の王たち――しかし、欲望に果ては無い。次の望みは“永遠”であった。
「肉体から魂を抜き取り、久遠の旅へ誘う――これは不死身の魔法王を無力化するために使った封印だ。
俺たち五人は死期が近付くと、自らその封印を受け入れた」
それだけ聞けば十分だった。リードの眼の前でニヤニヤと笑っている男――その姿は完全にリードの父親フィラカルティー公爵だが、明らかに人格が違う。
彼の知るフィラカルティー公爵は、寡黙で思慮深く、めったに笑顔など見せない人物なのだ。
リードは推論を披露する。
「ようするに、今お前の中にある魂は五百年前、この国を作った五人の王の一人ということか」
「フィラカルティーと呼ぶと良い。それは本来俺を指す名前だ」
「なぜお父様の中に入った」
「元の肉体の面影を残した体で無ければ入り込むことができないらしい――本当はお前の若い体が良かったが、魂を抜いた折、俺は既にジジイだった――だから、この体の方が近いと判断されたのだろう」
「一応確認しておくが、他の王も――」
「もちろん。五大王は全員復活したはずだ」
全ての公爵領地が、王の招集命令を断ったのはそのためか。リードは密かに納得していた。
既にエレドペリ王都は分裂している。王都防衛のため、それぞれ独立した五つの地域に権力を分けたことが完全に裏目に出ていた。民たちは王国の一部という意識が薄く、公爵の元生きていると考えている。王に背いていたとしても公爵の指示に従うことを躊躇しないだろう。事実、こうしてフィラカルティー公爵領地の全軍が王都の前に集っているのだから。
リードは確信に迫る疑問をぶつけた。
「なぜ王都を攻める? お前の目的は何だ」
フィラカルティーは眼光をさらに強めた。
「そりゃお前、全てを手に入れるために決まってんだろ。俺の領土――いや、お前の親父の領土は昔俺が支配していた国より大きく、人間も多いようだ。しかし、だからって満足できるなら、侵略戦争なんて始める訳無いだろ。
俺は古代の王、戦の神――戦い、奪う。それが俺を俺たらしめるのさ」
リードは呆れたように頭を振った。
「迷惑だからやめてくれ」
「やめると思うか? 俺を殺せば軍は止まるぞ」
フィラカルティーは立ちあがり、一歩前に出た。やれるものならやってみろという好戦的な表情。
「まったく、つきあってられんな……」
そう呟いた直後――リードの体が消えた。フィラカルティーは再び、椅子に腰を下ろすと「ブワハハハ!」と豪快に笑った。
その声で我を取り戻したであろう護衛兵がテントの中に入ってきた。
「公爵様……リード様は?」
「逃げたよ。もうこの辺りには居ない――まったく、大した奴だよ。自分の親父がこんなありさまだってのに顔色一つ変えやしねえ。俺に勝てないと分かれば、迷いもせず逃げやがった。
将来大物になるぞ――また俺の前に現れたら殺すがね」
*
影が空を飛んでいたら目立つ。ということでゴウは日が落ちてから行動を開始した。術者であるピートと共に影のドラゴンの背に乗って、どこまでも続く荒野を滑るように進んで行く。
目的地は南の国境。そこで繰り広げられているであろう、戦いを見に行くのが目的だった。見たところで止める術は無いが、こういった混乱の中ではより多くの情報を得ておいた方がいいと考えたのだ。
「あの山を終えれば国境が見えてきます。しっかり捕まっててくださいね」
「ああ――どうでもいいが、なんで敬語なんだ? あんたは俺より年上で、教師だろ?」
「一応リードくんの部下ということになってますから」
「そいつはご苦労なこって」
何やら色々あったようだが、アイツの部下になるということは、よっぽど悪いことをしたんだろう……。
そういえば、リードはどうしているだろうか。アイツのことだから無事だとは思うが――ゴウは王都においてきてしまった友人のことをふと考えた。
しかし、次の瞬間、そんな思考は綺麗に消え失せた。
「これは……」
影のドラゴンが上昇し、山の尾根を越えた。その瞬間ピートは息をのんだ。
山の緑が途切れて、茶色の地面が続いて行く。ちょうどその辺りが国境である。それが今や、大地は灰色の溶岩のようにドクドクと蠢く物に覆い隠されていた。
ゴウは顔をしかめた。
「チッ――始まってやがる。なんつう数だ」
事前に調べた情報によると、ダンバイザード公爵領地が抱える兵の数は五千、ローブアインは三千だった。
よって、今眼下では、約八千の兵たちが戦っていることになる。
風のせいで声は聞こえず、夜なので、火の手がある部分しか目視することもできない。しかし、そこでは確かに戦いが行われていることが二人には分かった。
「どうしましょう――我々も加勢しますか」
「いや、しかし――」
ゴウは考えた。このドラゴンであれば、相当な戦力となり、戦局をある程度操れるかもしれない。しかし、それが可能だとして、どちらにどれだけ加担するのか。その判断材料が無い。だとすれば、このまま静観を決め込んで、共倒れしてもらった方が王都防衛の観点からすれば有益なのではないか。
「コイツはいつまで飛んでいられる?」
「空気中から魔力を吸収し続けているので、半永久的に飛べます」
「なら、現状維持で頼む。目測を誤った矢が飛んでくる可能性もある。それなりに高度を取って戦場を旋回してくれ」
「それでよろしいのですか?」
少し意外そうにピートが聞いた。ゴウは面倒そうに、
「もう少し判断材料が欲しい――今は待つしかあるまい」
「待つ――誰か来るのですか?」
「あるいは……な」
そういったゴウの脳裏には、特定の人物が浮かんでいた。




