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エレドペリ王都防衛戦 1



 静かな中庭を囲う回廊を並んで歩いている少年が二人いる。


「ああ、しんどい――」


 ゴウ=ハーディライトは項垂れ、足取りも重い。


「まったく、同感だ――」


 リード=ティラムントは涼しげな表像で相槌を打ったが、それは、それ以外の表情を持ち合せていないというだけで内心ウンザリしていた。

 王族直属の軍人がルドラカンドに現れたのは既に五日以上前。その日の内に王都へ移動したリードとゴウは、王に挨拶を済ませ一晩休んだ。そして、その翌日から王都防衛のため動きだした。といって、何か具体的な命令が下った訳ではなく、とりあえずと言わんばかりの雑務や訓練をこなす羽目になった。

 まずもって、非常事態の根拠が“王子が失踪した”というまるで信憑性の無いものなのだ。普通の国であれば、国民の混乱を恐れて大がかりな行動すら起こせない。本当に危機が迫っているのか定かでないのだから。しかし、王族の近親者や有力な貴族のみが住む小規模な集まりであるこの王都では鶴の一声で容易に国が動く。誰もが半信半疑でありながら、苦言を呈したり、行動を渋ったりしない。内輪の敵性分子がほとんどおらず、他国との火種もほぼ皆無という争いの少ないエレドペリで、内申を稼げる機会は稀なのだ。誰もが今回の王都防衛指令を歓迎し、活気だっているのだった。

 が、そういった打算を持たない二人の学生にとっては、白羽の矢が立ったとしか思えないのだった。

 今日も早朝に叩き起こされ、訓練所に連れて行かれた後、王族親衛隊長による長々とした講話を聞かされ、終われば二時間に及ぶ走りこみ。さらに二時間空気を相手に剣を振るい、仕上げに上官から稽古を受ける――そんなハードスケジュールをこなした。

 これから昼食をとった後、午後の仕事が待っている。午前中の訓練ほどハードではないだろうが、倉庫整備やら武具の点検、馬の世話などなど――日が暮れるまで休む暇は無い。ここ四日間の経験から、そのことは確実であり、二人の足を重くしているのだった。


「こんな生活がいつまで続くのかね。もし、王子の能力ってのが勘違いで危険なんてどこにもなかったとしたら……だめだ、考えただけで目眩がしてきた」


 ゴウは疲れと寝不足で白い顔を青くした。


「その場合、止め時が分からんだろうな。警戒態勢を解いた途端危機が迫ってきでもしたら目も当てられない。あるいは、ずっとこのまま王都に束縛されるかもしれん」


 リードは一度言葉を切って城の方を見た。そこには王が居る。


「まあ、どう転ぼうと仕方が無いと腹を決めるしかあるまい。さしあたって、疑われるような言動は控えよう。周りには僕たちの失墜を望んでいる連中がわんさかいる。今だって、どこで誰が聞き耳を立てているとも限らない。

 王子の能力が勘違いかもしれない――なんてセリフ聞かれたら一発で牢獄行きだ」


 ゴウは鼻白んだように頭を振って、


「いっそ逃げてやろうか……一緒にどうだ?」


 おどけてみせた。

 リードはそんなゴウをまじまじ見つめて言った。

 

「反乱分子を告発したという手柄があれば訓練くらいは免除されるかもしれんな」

「……おい、お前が言うと冗談に聞こえねーんだよ」

「冗談さ。信頼したまえ」


 どこか呑気に話しながら二人は歩き続ける。この先の大講堂には千人近くの兵と、二千人分の食事が待っている。


「止まれ、リード=ティラムント」


 しかし、講堂の前で呼び止められてしまった。扉の前で当選簿するように立つ二人はルドラカンドに現れた王族親衛隊の隊員。大柄の男コーブと、その部下であるロフスだった。

 コーブはただならない雰囲気でリードを睨んでいる。


「ザガム=エレドペリ王より命令が下った。お前を連行する」


 リードは涼しい顔でその視線を受け止めている。


「王が? 事情を聴かせてもらう訳には――」

「来れば分かる。もちろん拒否権は無い」


 取り付く島もない。これ以上言葉を重ねることは無駄だと判断し、リードは首肯した。それから、黙っていたゴウに向き直った。


「行ってくるよ。悪いが昼食は独りでとってくれ」


 ゴウは何も答えずリードを見つめていた。



 *



 リードは何も言わず二人の後をついて言った。厳重な扉をくぐり、城内に入って行く。が、どうやら直接王に会う訳ではないようだ。下に続く階段に差し掛かる。しばらく下ると、暗くカビ臭い炭鉱のような通路に出る。その中ほどで三人は足を止めた。


「入れ」


 コーブは命令口調で言った。

 リードは相変わらず無表情だが、躊躇するような僅かな間をとった。


「これは、牢屋に見えるのですが――ここで合っているんですか」


 そう――コーブが入るように促した部屋はまさしく牢屋なのだった。廊下に面して一面鉄格子になっており、奥や左右の壁、天井と床までも、全て鉄格子が設えられている。繰り抜いた岩の中に“檻”を嵌め込んだ――そんな風情の牢屋だった。

 コーブは緊張を緩めずリードに監視の目を向けている。


「早くしろ――貴様が中には入りカギを閉めるまで詳しいことは言えない。逆らおうとするなよ。これは王の指令だということを忘れるな」


 逃げたり刃向ったりすれば、王国内でリードの立場は完全に失墜することをコーブは示唆している。

 否応なし――リードは逆らえない。

 ゆっくりとした足取りでリードが牢に歩み入るとロフスが出入り口の鉄格子に素早く鎖を巻き、錠をかけた。

 鉄格子を挟んで二人とひとりが向き合う。

 コーブは僅かに緊張を緩め、しかし鋭い目つきのまま言った。


「君の故郷であるフィラカルティー公爵領地に向かった伝令兵が今朝がた帰ってきた――体中にけがを負って命からがら逃げ帰ったそうだよ。

 彼に危害を加えたのはフィラカルティーの兵。領地内に入ることすら許さず、問答無用で攻撃を加えてきたそうだ」

「――バカな」

「事実だ――こんな時に……既に王はフィラカルティー公爵が反旗を翻したと考えてらっしゃる。ここまで言えば拘束された理由は分かるな」


 リードは沈黙をもって肯定とした。

 リードの父であるフィラカルティー公爵が王に刃向った……到底信じられることではなかった。


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