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タキオンの孤独 34



 時間が止まり固まったローズウッドは仰向けに寝かされた。戦車がその傍らに膝をつく。


『では、摘出作業を始めます。よろしいですね、マスター』

『うん、よろしく。慎重に……でも素早くね』

『お任せください』


 コイド、エイモス、ノーム、が見守る中、メシアの指令によってローズウッドの体内から兵器を摘出する作業が始まる。

 戦車の右手人差し指が薄緑色に輝き、熱線を凝縮したメスを形成。それが正確な動作で動き、ローズウッドの着ているドレスの胸元から腰のあたりまで切り裂く。分断されたドレスの下から、白く平坦な胸部が現れる。


「ちょっと、ちょっと! コイドとエイモスくんはあっち向いてて」

「い、いや、お前、そんなこと言ってる場合じゃ」

「問答無用」


 メシアに一蹴され、コイドは仕方なく手術現場から目を反らした。エイモスと眼が合うと、彼は「まったく、敵わんな」と肩をすくめてみせた。

 そこから少し離れた場所――レターとピートは、墜落し回復を待つドラゴンの鼻先の辺りに座り込んでいた。


「うううぅぅぅ……もうお終いだあぁぁ」

「落ち着きなさい、少年。大丈夫だ――彼ら、彼女らが必ず何とかしてくれる。だから、君はそう気をもまず、堂々としていればよい」

「でも……あああぁぁぁ――もう嫌だ……」

「大丈夫だ、大丈夫」


 不思議な状況だった。自らの力では立つことも這うこともできないレター。ピートはそんな彼の肩を抱きとめ、精神が狂ってしまわぬよう、必死の呼びかけを続けている。

 ほんの数日前、ピートはレターを追い詰め、拷問の末殺害しようと企てていた。レターの精神を崩壊寸前まで追い詰めたのはピート本人だった。

 それが今や、まったく逆の立場になっている――ピートは我ながら不思議でならなかった。復讐を果たすためだけに生き続け、目標以外のすべてを捨てる覚悟をしたはず。そんな自分のどこに人を気遣う気概が残っていたと言うのか。いうなれば、ピートの計画を阻害したのはレターの危機感知能力だ。戦いに敗れ、投降した今でもその恨みが無くなった訳じゃない。だというのに――。


「がんばりなさい。きっと大丈夫だ」


 小刻みに痙攣する小さな背中をさする手は間違いなくピートの意志故なのである。

 影絵召喚師が苦悩している間も状況は進行している。


『マスター。間もなく摘出は完了します――素早く傷をふさぐのが最善ですので、手を増やす必要があります。もう一体戦車を』

『分かった』


 メシアが手の中の懐中時計に一瞬視線を送る。すると、彼女の隣から戦車が現れる。

 その戦車は管制システムのオートパイロットによりローズウッドに接近し、最初の戦車から“それ”を受け取った。


「コイド、エイモスくん!」


 二人の元に移動する戦車。その手に握られているモノを見てエイモスは驚きの声を上げる。


「これが分裂兵器――こんなに小さいのか」


 青銅色の球体。王国の半分を滅ぼすその兵器は、大ぶりなリンゴ程度の大きさしかない。世界最高峰の魔導技師が用意した奥の手にしては、迫力に欠ける。

 しかし、分裂兵器という物を知っているコイドからすれば、その小ささが逆に不気味なのだった。


「エイモスくん、リボンは見える? あと三十秒しかない――早く」

「ああ、分かっている」


 小さく何気ない動作――しかし、それで十分なのだった。エイモスの能力をもってすれば、対象が何であれ、リボンを結ぶという子供でもできてしまう工程によって完全に無効化することができる。

 青銅色のリンゴに視覚的変化はない。が、この瞬間、直近の危機は完全に去ったのだった。



 *



 大きな窓から青みがかった空が見えた。ここは自治会室――私は気を失っていた――? ふと右を見ると、そこにはアーネットがいた。どうやら私たちは並んでソファに座っているらしい。彼女は私と眼があったことに気付くと、照れくさそうに笑った。

(そうか、私はアーネットさんと戦って……)

 おかしい――あれだけ激しく戦ったのに、どこも痛くない。それに、アーネットの顔にも戦いの痕跡がない。


「――はい、時間を凍結した兵器はピートのドラゴンに運搬され、超高高度で爆発しました。コイドの言う“たいきけんがい”という条件は満たすことができたらしく、危険は無いそうです――はい、皆無事です。メシアがバスウッドから譲り受けた管制システムによればローズウッド=カーペンターは後三日もすれば完全に元通りだそうです」


 落ち着いた声――そのほうを見る。

 壁に大穴が空いた自治会室。本来会長用の大机があった場所には、どこから持ってきたのかみすぼらしく小ぢんまりとした机が置かれている。そこに肘をたて、いつもの無表情で座っているのはリード会長。机の前に立っているのはエイモスだ。

 状況を見るに、どうやら全て終わったらしい。エイモスは事後報告をしているのだろう。

 ジッとしている訳にもいかない――妙にコンディションの良い体に指令を送り立ち上がる。


「あの、会長――」

「やあロカくん、起きたのか」

「はい……あの、申し訳ないのですが状況を教えてもらえませんか?」


 私の問いに答えたのはエイモスだった。


「箱は持ち去られました。しかし、バスウッドの性格や目的を鑑みるに、とりあえず危機は去った――という状況です」

「そうですか」


 喜ぶべきか、嘆くべきか――箱を守れなかった。でも、危険を退けることはできた。複雑な気分だった。




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