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タキオンの孤独 31



 未来の魔法を自身にかけ、肉体の硬直を解消させた小井戸だったが、しかし、次の瞬間、今度は意識が吹き飛ぶ。

 エイモスによって、小井戸浩平の魂に巻かれている時間のリボンを結ばれてしまったのだ。


『念には念を――体の時間も止めてしまえ』

『分かっている』


 結び目のついた小井戸の頭部から伸びているリボンを手放し、今度は体から伸びているリボンを手に取る。これを結んでしまえば、小井戸といえど完全に時間を停止させられるだろう。空中で円を書き結び目の種をこしらえる。

――が、その時だった。

 意識が凍結している筈の小井戸の姿が消える。


「な――?」


 虚を突かれ、一瞬頭が真っ白になるエイモス。その背後から小井戸が現れる。


『上手くいったね』

『当然だ』


 人間の限界を超えた速さで移動し、背後に回った。これは、事前に決定した動きを一切の狂い無く実行する左手のナイフ、カルテジアンの能力だった。

 思考凍結が解除されているのは、これもカルテジアンの作用であり、小井戸は事前に自分に魔法をかける際の思考のプロセスを記憶させ、意識の消失をキーに作動させる――というプログラムを組んでいた。

 頭と体で時間が分断されている小井戸ならではの策だった。

 一瞬よりはるかに短い時間――背後から迫る小井戸の手、それに触れられればエイモスは負けである。考えている暇はない。

 目の前を横切る太めのリボンを指で弾く。ビイインと波打つ。視覚化できる時間であるリボンが波打ったということは、それは、時間が“歪曲した”ことに他ならない。

 エイモスの周辺のみ世界が減速する。


『危なかった……』

『油断しおって、バカ者が。しかし、奴は何者だ。時間の束縛を易々と破りおって――およそ信じられん』

『変人だからな』

『ふざけておる場合か』

『事実なのだが――それより、どうしたらいい』

『逃げる他なかろう。今現在お前の体に触れているリボンは右足の下の一本のみ――そいつから離れれば世界の時間から解放される』

『しかし、それでは姿が見えなくなるだけで逃げることはできないんじゃないか』

『はあ――やはり頭はさほど良くないようだな。よいか、エイモス。世界の時間から解放されるということは、すなわち、存在が消失するのと同義。それは完全なる孤立――触れることも、触れられることもできない』

『なぜ最初からはっきり説明しないんだ』

『ワシは説明したぞ。お前の理解力が貧弱なのだ』

『ああ……そうかよ』


 波打っていた時間が正常に戻る――その瞬間、エイモスの右足が僅かに浮く。


「――!?」


 あと数ミリで触れることができる。そのタイミングで対象が消え、小井戸は動揺する。しかし、すぐに気を取りなし、右手のナイフを作動させる。彼の思考のみが加速される。


『例のやつだね』

『ああ、スターウェイの推察を信じるのであれば、こうなったヤツとの接触は不可能。予知能力でもなけりゃ出現した瞬間をカルテジアンで強襲することも出来ねえ。やっかいだな』

『うん……どうしよ』

『お前は時間停止を解除できる。つまり、エイモスに決定打はない――と思われる。勝つことはあっても負けることはねえ。下手打たなきゃな。だからよ、テキトーに立ち回って、当たればラッキーってのはどうだ』

『ええと、カルテジアンにテキトーな動きを覚えさせて、事故で体が触れればオッケーってこと?』

『いい作戦だろ』

『ど、どうかな――でも、他に方法は無いか』


 方針が決まり、小井戸がカルテジアンにコマンドを入力する。発動条件はエイモスを視認した瞬間。細かい動きはあえて決めず、どこに現れても大丈夫なように面どって走り回るという指令にした。本人すら予測できない動きで、上手いこと衝突事故が起これば小井戸の勝ちである。

 出現したエイモスを一瞬でも早く視認しようと、小井戸は身構える。

 その時、前方に人影が現れた。


「――あれ?」


 体が動き出す――と覚悟したのだが、しかし、カルテジアンは起動しなかった。

 それもそのはず。そこに立っているのはエイモスではなかった。


「リード会長? ま、まさか――バスウッドを」


 嫌な予感――改めて身構える小井戸。しかし、


「いいか、小井戸くん。バスウッドは逃走した。君の希望通り箱は奪われた――それについては決着している。

 しかし、更なる危機が迫っている。ヤツは分裂兵器というとんでもないものを置いて行った。四分――いや、三分後にこの国の半分は消し飛ぶ。止めなければいけない。力を貸してくれ」


 疑問や不安を一切置き去りにして、小井戸は違う部分で動揺していた。それどころか、最早恐れ戦いている。


「分裂兵器――それで、どうすればいいんですか」

「まずは探さなければならない――ローズウッドがその兵器の器だそうだ。町の外に居るそうだが、正確な位置までは分からない」


 そこで、エイモスも姿を現す。


「話は分かりました会長。小井戸、戦いは終わりだ――ジッとしてろよ」


 言うなり、小井戸に詰め寄っていき、肩を抱き、膝の裏をすくい上げる。小井戸は暴れる。


「ま、またお姫様だっこかよ!」


 その言葉を最後に、エイモスと、彼に抱かれた小井戸の姿が消えた。

 


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