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周りの景色が明るくなった……どうやら鬼騎の所に着いたみたいだ、鬼騎の部屋に作られた隠れ家的なバー、そのカウンターキッチンの奥に鬼騎がいた、俺とラキュに気付いて此方に近付いてくる。
どうやらロアは居ないみたいだ、決意して何だが……居なくて少し安心した、まだ心の準備が出来ていなかったからな……。
「鬼騎、すまないが夕食をたの」
「おらぁぁっ!」
と思った矢先、鬼騎が鬼気迫る顔で拳を振り上げながら走って来た!
「えっなっ……!」
いきなりの行動、俺の身体は硬直し襲い掛かってくる鬼騎の顔を見る事しかなかった。
困惑する俺を他所にその赤く大きな拳は真っ直ぐ放たれる! えーと……何で俺、殴られそうになってるんだ?俺何かしたか? あんなの喰らったら死んでしまう……あぁ、短かったな俺の人生、瞬時に俺の脳内にこれまでの思い出が流れ込んで来る、これが走馬灯と言う奴か……その内容はロアに抱き付かれたり、ロアにキスされたり、ヴァームにコスプレさせられたり……ははっ録な思い出が無いな……泣いて良いかな俺……と思ったその時だ、ばきぃぃっーーと凄まじい程の効果音が鳴りそうな程の鉄拳がぶち当たった……。
「………え?」
幾ら待っても痛みは無い……今何が怒ったのが一瞬分からなかった、簡単に言えば殴られたのは俺ではなかった、なら誰が殴られたのか? 答えは1つだ……隣にいたラキュだ、横目で見た景色なんだがラキュは鬼騎の拳が顔面に当たった、顔を殴られゆっくりと吹っ飛ばされて行く、その光景はスローモーションに見えた。
ガッシャァンッーー
と盛大な音を上げて後ろの扉にぶち当たるラキュ、何だこれ……もう一度言う何だこれ!
「どの面下げて此処に来やがった、このシスコン!」
「黙りなよヘタレ脳筋……色々と捻るよ?」
未だに何が起きているのか本当に良く分からない! 服を払いながら起き上がるラキュは鬼騎の方に近づいて行く……それに合わせて鬼騎もラキュの方に近づいて行く、お互いに相手を睨み付け険悪な雰囲気だ、こっこれ喧嘩始まる系か?……えっ何で!?
「やってみろや偏食ドラキュラが!」
「やってやるよガチムチヘタレ!」
至近距離まで近付くとお互いが相手の胸ぐらを掴む……ラキュと鬼騎は身長差があるのでラキュの方は吊り上げられる形になっている。
「かっかっかっ……相変わらず口が悪いな貴様は」
「粗暴な口振りのお前に言われたくないね…」
なのにも関わらずラキュは恐れていない……俺ならチビってしまう自信がある、って! そんな事を思ってる場合じゃない! これ離れた方が良いな? 取り敢えずカウンターの裏へと避難して、ひょっこり顔だけ覗かせて2人の様子を見る。
隠れれば良い話なんだが……少し気になって見てしまった、怖い物見たさと言う奴だ。
「かっかっかっ……まぁその事は良い」
「良いなら降ろしてよ、この体勢結構辛いんだけど……」
俺は口を出さないで黙って見てみよう……理解出来ない状態で色々と聞きたいが黙っておこう……下手に口出ししたら俺が被害を受けそうだ。
「貴様……またわしの料理を勝手に食ったろ」
「うん、食べたよ」
満面の笑みで語るラキュの顔に向かって再び鬼騎の拳が振りかざされる! それを交わしラキュの強烈な蹴りを鬼騎に喰らわせる、バチィィッーーて音がしたぞ? これ喰らったのに鬼騎は微動だにしてない、なにこれ俺完全に空気じゃないか、何でこいつらガチ喧嘩してるんだ……。
「毎度毎度勝手に食いやがって……マナーを知らん奴だな」
「ごめんね、はんせいしてるよー」
うわ……これ、絶対反省してないだろ、完全に棒読みじゃないか! 鬼騎の眉間に青筋たててるぞ? やばい何時も以上に恐すぎる……俺の身体の震えが止まらない! これが鬼本来の怖さと言う奴か!
「……この女男がぁぁっ!」
「黙れヘタレ鬼、潰すよ?」
2人が覇気みたいのをだしてる、完全に場が殺伐とした雰囲気になってしまった。
うっ……椅子とか食器がカタカタと勝手に震えてる…2人の気で大気が揺れてる!って奴なのか? 冗談だろ? なに? 此処でバトルする気? 止めろよ! もう俺の精神の許容範囲を軽く越えてるんだ!
と言うかバトル物は他の物語に任しといたら良いんだよ! 何でここでするんだ、話がややこしくなるだろうが!
「どうやらお前とは1度やり合わないといけないみてぇだな」
やっやりあう、これって間違いなく漢字は殺り合うだよな? あっ……何か知らないけど涙出て来た。
「そうだね、僕もそう思ってた所だよ」
ラキュは、カッと目を見開く……赤色の瞳が鋭さを増し妖しく輝く、くっ……此処は勇気を振り絞って俺が声で止めるしかない! 男を見せろっ! ここで止めないと色々ヤバイ事になりそうな気がする!
「やっ……やめ……やめめ」
だっ駄目だ、恐怖のあまり声が出ない! そんな事をしていると状況が変わっていた、ラキュは鬼騎の手を振り払い指を鳴らす、すると巨大な火球が現れる、鬼騎はそれを真っ直ぐ見つめ戦闘体勢に入り直ぐ様ラキュに殴り掛かる、ラキュの方は火球を鬼騎に飛ばす!
あぁっ遂に喧嘩……いやバトルが始まってしまった! もう俺には止められない! 止めたら身体がバラバラになってしまう!
俺はカウンターの中に隠れ運に身を任せる事にした、頼む……何とかこの修羅場に終止符を打ってくれ!
俺はそう必死に願った、都合良く誰かが来てくれる事を信じて……。
これはバトルではありません。
ラキュと鬼騎にとっては喧嘩なのです!
はいっ今日も読んで頂きありがとうございました!