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ごくっ……。
唾を飲み込んだ、俺の頭に乗せたシズハさんは、にぃっと笑ってる。
こっ恐い……その恐さで目をぎゅっと瞑る。
「そぉですかぁ、しぃ君はきちんと答えたんですねぇ」
そう言った後、シズハさんは自分の頬に手を当ててきた。
……え? そっそれだけ? 怒ったり……しないのか? てっきりビンタの1発や二発は覚悟してたんだが、そうはならなかった。
それどころか……ニコニコ笑ってるじゃないか、いっ意味が分からない。
「しっシルク!?」
「っ、ろっロア?」
そんな事を思ってたら、ロアが飛び付いて来た。
何か言いたげに口をパクパク明け閉めしてる。
「えと……その、あっアヤネが告白してきて……その、シルクが……その、えぇぇぇっ!?」
そのあと慌てながら喋った、そして頭を押さえて悶える。
急にあんな事言ったら混乱したんだろう……ロアの目がグルグル回ってる。
「しぃ君!」
なんて事を見ていたら、シズハさんがズビシッと指差してきた。
「はっはい……」
「あんまり落ち込んじゃダメですよぉ。ニコニコしなきゃだめですぅ」
……えと、いきなり何を言うんだ? ニコニコしてろ? いやいや、そんな事してる気分じゃ……ってうぉ……ロアが抱きついて来た。
「あ、えと……その……くっ、どっどう反応すれば良いんじゃ……うぁぁぁぁっ」
こっちはこっちで悩んでる。
ぶつぶつと呟いて俺を見たり、首をぶんぶん振ってる。
じょっ情緒が不安定になってないか? まぁ……原因は間違いなく俺なんだけどな。
さて、どうしよう。
あの事を伝えたは良いが……その先をどうするか考えていなかった。
と言うか、この状況……俺が想定してたのと違う。
強く責められるのかと思った……なのに違った。
どうしよう、ほんとうにどうしよう、
そんな風に困っていたら……。
「あ、そうだぁ。1ついいですかぉ」
シズハさんが問い掛けて来た。
無言で頷くと「じゃぁ……言いますねぇ」と続きを話し出す。
「なんで、しぃ君が落ち込んでるんですかぁ」
当然の事を聞かれた。
そりゃそうだ、本当に落ち込むべきなのはアヤネの方なのに、俺が落ち込むのは可笑しいよな。
でも、あの時……どう言えばアヤネを落ち込ませずにすんだのか……それが言えなくて後悔している、だから落ち込んでいるんだ……ほんと、変な話だよな。
「しぃ君はアヤネちゃんを振ったんですよねぇ」
「……はい」
そう、それはさっき話した。
「それでぇ、アヤネちゃんは出ていきましたぁ」
その通りだ。
シズハさんのゆったりとした口調……いつもは明るく聞こえてる筈なのに心が締め付けられる様にキツく聞こえる。
「……つまりぃ、しぃ君は自分の好きな人の事を想って振ったんですよねぇ」
「……そうです」
「そうですかぁ」
にへぇ……と笑った後、シズハさんは、ふぁさっと髪を靡かせる。
「なるほどぉ、だいたい察しましたぁ」
「察しが……ついた?」
えと、どっどういう意味だ? 訳が分からなくてぽかぁんとしてると。
「つまりしぃ君は……どうすればアヤネちゃんを傷付けずに済んだのか悩んでるんですねぇ」
シズハさんは顔を近付けて言ってきた。
あっ当たってる、まさに的中してる……。
キョトンとした顔でシズハさんを見ると……くすりと微笑んだ。
「ズバリ大人の私から言わせてもらうとぉ、しぃ君が他の人を想ってる時点で、アヤネちゃんを傷付けない方法なんて……ないんですよぉ?」
「…………え」
きっ傷付けない方法が……ない? そっそんな事は無い……あの時、考え付かなかっただけで……傷付かない方法なんて幾らでもあるはず!
「かっ考えれば幾らでも……」
「あるとでも思いますかぁ?」
シズハさんが眼を見開いた、その瞬間、身体中ゾクリとしてしまった。
刃物を突き付けられた……それに近い感覚を得てしまった。
「もしあるとすればぁ、全員が自分の好きな人と付き合えてますよぉ」
……っ、せっ正論。
覆る事の無い正論……だっだけど、それでも……なにか方法があるはず! そう言い返そうとした瞬間だった。
シズハさんがバシッ! と肩を叩いた、痛い……。
「優しい優しいしぃ君に現実を教えますねぇ……。この世に傷付かない恋愛なんてぇ、存在しないんですよぉ?」
何時もの明るい声は何処へやら、低く氷のように冷たい声音で言ってきた。
傷付かない恋愛なんて……存在しない。
現実味のある言葉、今まで考えもしなかった事……いや、もしかしたらアヤネの告白を振った時点で俺は……その事を考えない様にしてたのかも知れない。
そんな考えが頭を過った時、シズハさんが俺の肩から手を離した。
「話は終わりみたいですねぇ。じゃ、私は行きますよぉ」
そう言って、シズハさんは出ていった。
その後俺は……力が抜けた様に椅子から崩れ落ちた。
◇
……パタンっ。
ゆっくりと扉を閉めた私は斜め上を見ました。
「アヤネちゃん、失恋したんですねぇ」
まさか私の見てない所でそんな事があったなんて……知りませんでしたぁ。
アヤネちゃんが前からしぃ君を好きなのは知ってたんだけどぉ……そっかぁ、振られちゃったんだぁ。
それで、出ていっちゃったんですねぇ。
折角会えたのにまた出ていかれちゃった、なんか複雑な気分ですぅ。
そんな感じに色々考えた後、歩きます。
行き先は決めてません、取り合えずテキトーに歩いて、今後どうすべきか考えましょうかぁ。
スタスタスタ……。
歩く私、だけど……直ぐに立ち止まりました。
「盗み聞きはぁ、良くないと思いますよぉ」
そして前を向いたまま話し掛けました。
「隠れて僕達を観察してた人に言われたくないよ」
そしたら後ろから声がしました。
この声は……確か、ラキュって言われてましたねぇ。
クルリと振り替えると、不機嫌そうな顔をしたラキュ君が立ってました。
「……以外と辛辣な事を言うんだね」
「事実ですからぁ」
どんなに言葉を並べようとも誰かが傷付かない恋愛なんて無いんです。
あ……別に経験談から言ってるんじゃ無いですよぉ、ふぅ君とはちゃんと相思相愛で付き合って結婚したんですよ?
「ふぅん。大人な意見を言える人だったんだね」
「むぅ……失礼な人ですねぇ」
「ドラキュラだよ」
「失礼なドラキュラですねぇ」
「わざわざ言い直さなくても良いよ」
はぁ……とため息をついて何故か呆れるラキュ君、その後クルリと後ろを向いてスタスタ歩いて行きました。
「何処行くんですかぁ」
「君に関係ないでしょ? ただの散歩だよ」
「そうですかぁ」
私の問い掛けに振り向きもせずに答えましたねぇ、人と話すときは目を合わせなきゃダメなんですよ?
まぁでも、うふふふふ……。
「ラキュ君」
「なに? 話してる暇なんて無いんだけど?」
「素直じゃないんですねぇ」
「……なに意味の分からない事言ってんのさ」
吐き捨てる様に言いましたね。
で……そのまま歩いてちゃいました。
本音を隠してるつもりですけどぉ、態度で丸わかりですよぉ。
……でも、ラキュ君……チラリと顔を見ただけなんですけどぉ、彼も何か大きな悩みを抱えてそうですねぇ。
むむむぅ……モヤモヤしてきましたぁ、よしっ決めました! 今はこのモヤモヤを解消しましょうぉ。
そう決めた私は「ゴーゴー」と言いながら歩いて行くのでした。
えと……話が難しい事になってきたね。
上手く話を繋げねば……。
今回も読んで頂きありがとうございました。




