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パサッ……。
黒ずくめのクータン、フードを取るとトレードマークであるカボチャの被り物が見えた。
「いっ……いくら魔王様でも……ひっ非常識……です」
「いや、それは分かっておる、でもな? あれは仕方のない事なんじゃ」
「口答え……しちゃ……だっダメです」
突然現れたクータンにロアが説教されてる。
ロアの方は……正座させられてる、すっごく辛そうだ。
顔を歪ませてる、今すぐ足を崩したいだろうなぁ。
と言うか、いつも通りの喋り方のクータンだが、底知れぬ迫力を感じるな。
……って、こんな事考えてる場合じゃない。
突っ込む所が山程あるだろう、取り合えず何か突っ込んでやろう。
「なぁ、クータン?」
「すっすみません、後に……してください」
「あ、はい」
だっダメだ、今日のクータンは妙に威圧感がある。
だから素直に「はい」って返事してしまった……。
「ね、シルク」
ぷにっぷにっ……。
「ふぁっ!?」
横腹をつつかれた、やっやめろ! くすぐったい!
ばっ! と手を振るうとアヤネがじとぉっと見てきた。
え……もしかして、この状況でさっき言い掛けた事を言うんじゃないだろうな?
なんてハラハラしてると、ビシッ! とクータンとロアの方を指差す。
「くぅちゃん、何処から出てきたのかな?」
「え?」
あ、違った、良かった。
まっまぁ、今はそっちの方が気になるよな。
まさか……家の何処かに潜んでた? 恥ずかしがり屋のクータンらしいと言えばらしいが……。
実際のところはどうなんだ?
それが気になって聞こうと思ってたんだが……睨まれて聞けなかったんだよな。
「魔王様なら、まっ魔王様らしい……その、えと……行動をしなきゃ……ダメです!」
こんな優しい感じの説教なのに、何故か恐れてしまったんだよな。
なぜだろう? 正直言ってクータンはあんまり恐くないのに……不思議だ。
あ、突っ込み忘れたが他魔ってなんだ? 変な言葉をさらっと使わないでくれ。
「あ、うん……それについては気を付ける。他魔の家で暴れてすまんかった。じゃからな? もう説教は……」
申し訳なさそうにロアは頭を下げる。
そして、その後頭をあげて苦笑しながら立ち上がろうとするが……。
「正座を崩さないでください」
「うっ! ぐぬぬ……まだこのまま座るのかえ? あっ足が痺れたのじゃ! もう許してくやれぇぇぇ!」
わんわん泣き叫ぶロア、うぉぉ凄い。
あの自分勝手な行動しかしないロアが抑えられてる。
優しい雰囲気を持つクータンだが、怒ると魔王をもこんな風にさせるのか……侮ってた、魔物って凄いなぁ。
「くぅちゃんの意外な一面見たかも」
「そっそうだな」
ふぉぉ……と感心して口をぽかぁんと開けて興奮ぎみに前のめりになるアヤネ。
おっ可笑しいなぁ、これより遥かに凄い出来事が起きたのに、こっちの方でリアクションするなんて変だ。
アヤネよ、驚く対象が謎過ぎるぞ……。
「何時ものくらぁいのが抜けてる。今はピリピリしてるよ。声も少し高い」
「そっそうか? いつもと変わらない気がするぞ?」
「ふっふっふっ、分かってたのは私だけ。流石私、褒めて良いよ?」
「おっおぅ。えっ偉いな……はははは」
どうしてこんなに偉そうなんだろう? なんて思いつつ褒めてやる。
そしたら目を細めて「えへへ」と微笑んだ。
「ぬぅぅぅっ、見せ付ける様にイチャイチャしおってぇぇぇ……」
ギリリッ……歯軋りするロア、そしたらクータンに「ロア様っ、こっちに集中して……ください!」と怒られる。
「ぐっ……くそぅ。なぜわらわだけがこんなめにぃ」
嘆くロア、完全に自業自得だな。
だから恨めしそうにこっちを見ないでくれ、なんか恐い……。
「あ、えと……お二人は、その……自由にしてて……いっ良いですよ?」
「……え?」
いや、自由にして良いって言われてもなぁ。
なんかこのまま出ていったら後でロアに何かされそうだ。
ほら、今も「出ていくな!」って感じで見てきてるんだぞ?
すっごく力強い目で見てくるんだ……すっごく動き辛い。
「そ、じゃお言葉に甘えて出ていくね。あっ……お菓子美味しかったよ。じゃ」
「っ!?」
なんて考えてたら、アヤネが俺の背中を押す。
「あ! ちょっ、待つのじゃっ!」
慌てて立ち上がるロア、そしたら急に動きが止まった、そしてべちゃっとお尻を付きだして倒れてしまう。
え、どっどうした!?
「しっ痺れた……のじゃ」
あ、そうか……正座してたもんな、そりゃ痺れるよな……。
「じゃ、いこ」
にこっ……。
と優しく微笑んでくる、その表情にドキッとしてしまった俺は不意に。
「あぁ……」
と呟いてしまう。
そしたら、アヤネの行動は速かった。
素早く俺の手を繋ぎ、ゆっくりと扉の方へ歩いていく。
「なっ! ちょっ、本当に出ていくのかえ? ぐぬぁぁぁぁっ、させん! させんぞぉぉぉぉっ!」
「ろっロア様は……出ていったら……ダメ、です」
「っ、ふぐぁあぁぁぁぁぁぁっ!」
なっなんか後ろで悲鳴が聞こえた。
多分、足の裏かふともものどちらかをつつかれたんだろう。
……ロア、がんばれ。
「お散歩の続き、しよっか」
「……」
上目使いに言われた言葉に黙って頷いた。
そうして俺とアヤネはクータンの家を出た。
その後、「ぬぁぁぁぁっ! わらわもっ、わらわもぉぉぉぉっ!」と叫びが聞こえた。
……ハロウィンを企画した張本人が説教されて楽しめないなんてな。
だがロアよ、この事を切っ掛けに反省しろよ?
なんて思った後、俺とアヤネは散歩の続きを始めた。
今回も読んで頂きありがとうございました。




