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「おぉ……凄いな」
俺が城下町地下に来て最初に発した言葉がこれである。
あれから、ロアに連れられここにやって来た。
そのあと、ロアが「各自自由行動じゃ!」と言ってそれぞれ別れた。
今、俺の近くにいるのは……ロアとアヤネとシズハさんとヴァームとラムだ。
そのメンバーで行動しつつ、街を見回してみると……もう賑わいに賑わってる。
何時もの倍以上じゃないかこれ?
街の方もそうだ、何時もと違う……具体的に言うと、ハロウィンチックな飾付けになっているんだ。
家の壁にはコウモリのシールが張り付けてるし、上を見上げてみると、白い幽霊がゆらゆらと飛び回ってる……。
あと、こぶりのカボチャが
プカプカ浮いてるな。
勿論そのカボチャはハロウィンお馴染みのあの顔にくり貫かれている。
しかし、この景色は壮観だ……まさに童話の中に来たみたいだ。
そう思ってるのは俺だけじゃない筈、隣でらんらんと目を輝かしてるアヤネも思ってる筈だ。
ホラーでありながらポップで、とっても面白味のある飾付けだ。
まさかロアはこれを1人でやったのか?
だとしたらヴァームと同じく頑張ったなぁ……。
と言う事を考えるのは一旦止めておいて、そろそろ問い質すか……。
ロアが着てる服についてをな。
「ロア、1ついいか?」
「ん、なんじゃ? そんな難しい顔をして……いかんぞそんな顔をしては。今日は楽しい日じゃ、にこぉっと笑わねばならん、ほれ笑え、にこぉって笑うのじゃ!」
笑え……か。
それは無理な話だな、こちとら恥ずかしさ我慢して歩いてるんだからな……。
くそっ、ボディペイントなの俺だけじゃないか! 街行く魔物の目線が気持ち悪くて仕方無い。
どいつもこいつもニヤニヤしながら見やがってぇぇ……俺の気持ちも察しろよ!
「あのなロア……」
「なんじゃ、わらわの話をスルーしおって」
ぶぅぶぅ……って口を尖らせるロア、そんなロアに睨みを据えて言ってやった。
「お前……なんで俺の服を着てるんだ?」
「……ん?」
いや、ん? じゃないからな? なに「なにか変な事でも?」って感じで首かしげてんだ。
くっ、勝手に俺の服を着やがって……しかも愛用のバンダナまで着けてるじゃないか!
しっしかしあれだな……ロアが布の服を着るってのも新鮮だな。
いつもは気品に満ちた服を着てるのに、しかもヘソだしの……。
それは今や、平民の娘見たいになってる、この服を着て魔王だって言っても誰も信じてくれないだろう。
だって、俺の服……ごく普通の緑色の服だもん。
しかしだ、その服を着たロアは……綺麗だと思う。
なんか静かなイメージがするんだ、図書館にいる物静かに本を読んでるお姉さん的な雰囲気を感じる。
……と、染々そんな事思ってる場合じゃない!
落ち着け俺、普通に心の中で感想語ってる場合じゃないぞ!
「いや、どうしてと言われてものぅ……クジで引き当てたからじゃが?」
「あのな、色々突っ込みたいんだけどな……なぜ俺の服をクジの候補にいれた!」
「それは勿論、面白そうじゃからじゃ!」
むんっ、と胸を張るロア、胸が大きいから布の服がミチミチって鳴ってる。
「あぁぁっ、胸を張るな! 破けるっ」
「おっと危ない……」
あっ危うく服が弾ける所だった、そうなったら俺は発狂してた所だ。
そうならなかったから、ひと安心してると、ロアがポリポリ頭を掻いた、なんだか悩んでるみたいだ。
「いやぁ、しかしあれじゃなぁ。シルクの服を着れて大満足じゃが……胸がキツくてたまんわ」
なんだ……それだったら良い解決方があるぞ。
「だったら脱げば良いだろ?」
ぶっきらぼうに言ってやった。
そうすれば万事解決だ、ロアが脱いだ服は俺が着る。
そしたらこの1人だけ裸と言う羞恥から逃げ出せる。
いや待て? 女が脱いだ後の服を着るって色々問題あるんじゃないか? こんなの変態的意味合いに捉えられても可笑しく無いぞ。
「おぉぅ、今日のシルクは何時に無く大胆じゃな。いきなり脱げと言うとは……まぁそう言うのなら仕方無い。恥ずかしいが脱いで……」
「ごめん、迂闊だった……俺が悪かったから脱がないでくれ」
やっぱりそう言うに捉えられたか、なので慌てて謝った。
そしたら……。
「なんじゃ、やはり脱がんで良いのか。つまらんのぅ」
そう言った後、しょんぼりして下を向いた。
え? 本気で脱ぐ気だったのか? だったら慌てて謝ったのは正解だったな。
「シルク」
「……ん?」
と、そんな時だ。
らんらんと目を輝かしてるアヤネが腕を引っ張ってきた。
そんなアヤネを俺はじぃっと見てしまった。
「ここ、何時もより綺麗だね」
「あ、うっうん……そうだな」
……。
なんだこの可愛さは、今まさに「可愛い」と言いかけた。
言うの恥ずかしいから慌てて口を塞いでしまったが……うっうん、可愛い。
なんと言っても、モコモコの黒い服が良い味を出してる。
猫衣装と言うところもあって、肉球手袋、猫耳、猫髭、猫尻尾……それがついてるんだ。
しかも今アヤネは、上目使いで俺を見てきてる、可愛いと思ってしまうのは当たり前だろう。
「シルク、どしたの? ぼぉっとしてる」
「……どうもしない。ちょっと考え事してただけだ」
「そう」
慌ててアヤネから視線を反らす。
……あぁ、心臓が高鳴った。
くぅぅ、いつものアヤネと違いすぎて反応に困るぅぅ。
「ちょっ、しっシルク!」
「っ、ビックリした……なんだよ」
突然ロアがタックルしてきた。
お陰で転けかけたぞ、だから強く睨んだ。
それに怯まずロアはぷくぅっと頬をふくらませて近寄ってくる。
「反応が違うではないか!」
「え?」
「わらわの時は怒ったのに、あっアヤネの時は……なっなぜそんなにも顔真っ赤にしてドキドキしてるんじゃ? 不公平じゃ! わらわにも興奮せんか!」
…………。
随分勝手な事を言う間王様だ、なぜドキドキしないかって? そんなもん理由は決まってる。
「勝手に俺の服を着てるからだ」
「……では、今度から許可をとって着れば興奮してくれるのかえ?」
「それとこれとは別問題だ」
「うがぁぁぁっ、この浮気者ぉぉっ!」
ポカポカ殴ってきた。
あぁ、もぅ……面倒くさいなぁ。
「ロア、シルク叩いちゃダメ。あと嫉妬は良くない」
「貴様……ドヤ顔しながら言ってきおってぇ。しかもわざわざシルクと腕を組みおってぇぇ」
俺を間にしてバチバチな視線の火花を散らせるのは止めてくれるか?
余計面倒くささが増してしまう……そんな状況に呆れてると。
「アヤネちゃん、しぃ君、ロアちゃん。楽しんでますかぁ? 私はぁ、楽しんでますよぉ」
シズハさんがやってきた。
この人もコスプレしてる訳だが……雰囲気は変わってない、いつもと同じくふわふわした感じだ。
そんなシズハさんの服装はドラキュラだ。
黒をベースにしたシックなドレス、ドラキュラらしさを出す為に化粧で肌を白くしている……。
更にドラキュラっぽい牙もつけてある、物を食べる時邪魔そうだ。
「凄いんですよぉ、周りが楽しい雰囲気で溢れてるんですよぉ」
なんだかハロウィンを思いっきり楽しんでみたいだ、まるで子供だな。
そんな母を見たアヤネは「子供っぽい」と口走る、やはりアヤネもそう思ってたか。
と、ここで俺は気付く。
そう言えば、ラムとヴァームがいない気がする。
さっきまで一緒に行動してたのに。
「皆様ぁ、お待たせしましたわぁ」
「ふふふ……さぁ、ハロウィンならではの事をしましょうか」
声が聞こえた。
その方に振り向いてみると、身体全体を覆える大きさの白い袋を被ったラムと、葉や華を綺麗にあしらった服を着るヴァームが木のカゴをもって近付いてきた。
そのカゴの大きさは……たぶん、果物カゴと一緒くらいだろう、それを重ねて持っている。
「あたし、今日と言う日を楽しみにしてましたの! ハロウィンはお菓子を与えてくれない方にお仕置きされるお祭りなんですわよね?」
ハロウィンと言う行事を盛大に間違って取ってるラムの衣装はゴーストらしい。
一応、服にはゴーストらしい目と口の穴が開けられてある。
なんと言うか、手抜き間が半端無い。
皆の服の出来は素晴らしいのに、これだけショボい……。
恐らくだが、疲れに疲れて変なテンションで出来た産物なんだろうなぁ。
着てるラムは何にも言わないし……まっまぁ、それならそれで何も言わないでおこうか。
「ふふ、ふふふ。さぁ行きましょうか、ふふっふふっ……ふふふふふ……ふふふふふふ」
こわっ。
もう限界なのか壊れた様に笑ってるヴァームの衣装はドリアード。
木の精霊の衣装らしい……。
木の精霊らしく、服には葉と花、あとはツルが巻き付いている。
頭にはツルの冠、スカートは綺麗なエメラルドグリーン……そのスカートにも草花をあしらっている。
顔がやつれていなければ、ピュアさを感じるなぁと思っただろう、しかしだ……。
「あぁ……見えます、私には……ふふふ、見えますよふふふ。男の娘が……沢山見えます……ふふっふふふふふ……あぁ……興奮しますねぇ」
壊れた様に笑い、おまけに変な幻覚を見てるヴァームを見て俺は……狂喜しか感じなかった。
そんなヴァームから恐る恐るカゴを受け取った俺達は……ハロウィンチックな街並みを歩いていくのであった。
ヴァームさんの様子が可笑しくなりました……。
皆さんは疲れた時は休みましょう、変なテンションになって変な事しちゃいますよ?
今回も読んで頂きありがとうございました。




