316
さて、明日を向かえた訳だが……大事件なんて起こる筈も無く、今日と言う日を向かえた。
天気は晴れ、時刻は午前11時半……皆は外の広場に集まる。
あ、最初に言っておくが……俺とラキュはいつのもの服を着ている。
だが、もうすぐ着替えさせられるんだろうなぁ……。
「寝不足みたいだねシルク君」
「ラキュもだな、目元にクマが出来てるぞ」
広場には城下街の住人が集まっている。
勿論城に住んでるメンバーもいる、まったく……朝早く起こされてまだ眠いな。
昨日、色々悩みながら寝たから余計に眠たい。
ただそれは皆も同じだろう、早い時間に起こされて、広場に集まれって言われたからな。
ほら、今アヤネとシズハさんが欠伸をしたぞ。
メェに至っては立ったまま寝ている、器用な奴だ。
まぁ、そうなってるのは俺達だけじゃなくて城下街の奴等もだけどな。
あいつらも、あらかじめロアに招集掛けられたらしい。
まったく、いつのまにそんな行動起こしたんだか。
で、呼んだ本人は広場の中心に建てられた台に立っている。
俺を含む城内メンバーはその近くにいる、でそれを囲むように魔物達がいる。
まるで演説でも始まるみたいな雰囲気だ、だが始まるのはお祭りだけどな……。
魔物達は、わいわいがやがや賑わってる。
「なんだ? 何が始まるんだ?」
「ロア様……なに言うんだろう」
「あ、知らない人がいるぞ……。なんかゆるぅい雰囲気の人だ」
口々に色々喋ってるな。
話を聞いてれば、シズハさんに目を向ける人がいる。
まぁ、城下街に住んでる魔物達は知らないよな。
ロアと同じく注目の的になってる。
「ふぁぁ、なんか見られてますよぉ。わたしぃ、有名人ですねぇ」
で、それに対して勘違いしてる。
ある意味大物だ、いや……シズハさんらしいと言えばらしいか。
何時でもゆるぅく生きてるからな……そう言う所、尊敬するよ。
「……こほんっ!」
なんて思ってたら、ロアが咳払いした。
そしたら、1度に視線はロアに向けられる。
「皆の者。昨日わらわが突然ここに集まる様に言ったが……集まってくれてる様じゃのぅ」
昨日……か、そりゃ皆は驚いただろう。
と言うか、昨日の内にこらだけの人数に召集掛けたのか……その行動力、もっと別のところに生かせよ。
「わらわは嬉しいぞ、今日は快く楽しんで欲しいのじゃ」
にぃっと笑うロアは、がっ! と拳を突き上げる。
「これよりっ、魔界式ハロウィンパーティを開催するのじゃぁぁっ」
「「おぉぉぉっ!!」」
ロアが高らかに宣言した後、魔物達は歓喜の声を上げる。
「うぉぉぉぉっ!! 話聞いた時、俺はたぎったぜぇぇっ!」
「俺もだぜっ! コスプレだ! 今日はコスプレをする日だ! つまり……今日この日の為に素晴らしいコスプレ衣装を用意してるって事だ……」
「おで、魔王様の話を聞いた瞬間……いぐ事ぎめてだ」
すっごく騒いでるなぁ。
ほんっとバカみたいだ、話の内容が手に取る様に分かる。
あいつ等、俺とラキュが着せられるコスプレ衣装目当てだ。
その証拠だってある……今も魔物達はやらしい目で「げへへへへ……」って感じで下品な笑い方してるからな。
あぁ腹立つ。
どんなに抵抗しようがコスプレされるから余計に腹立つ。
「ずいぶん苛立ってるね……」
「ラキュだってそうだろ」
お互い見合わせて苦笑い。
お互いイライラしてる、とてもハロウィンを楽しむ気にはならない。
「まぁね。でも今回はなんとかなるんじゃない?」
「いや、それは分からないぞ……あのドラゴンは執念があるからな」
しかしだ、今回はラキュの言う通りコスプレを回避できるかもしれない、そう思うのには理由がある。
俺とラキュはヴァームを横目で見る。
「ふっふふ……やった、やり遂げました……わたしは、やり……どげ……ふふふふ」
まるで徹夜明けの人みたいに衰弱してる。
常時笑顔のその表情は今は半笑い、身体もカクカク震えて視線も定まってない。
これが徹夜して衣服を作り続けた結果か……こうなるまで作る事無かったんじゃないか?
そこまでハロウィンにこだわるなんて……そこの所は称賛するよ。
だが、それ迷惑行為だからな!
「どう思う、シルク君?」
「……これ、逃げたらダメな奴じゃないか? 多分、今までの非じゃないくらい真剣に追っ掛けてくるぞ」
「そう……だよね」
それは確実だろう。
今のヴァームは何をするか分からない……悔しいがここは無抵抗に徹した方が良いだろう。
本当は嫌だけどな……。
「では皆のもの! 会場である城下街地下へ行くのじゃっ」
……と、そんな事を思ってたら動きがあったな。
ロアの話を聞いた魔物達はぞろぞろと大移動を開始する。
この人数が城下街地下へ行くのか、地下の魔物達は驚くだろうな。
「……ふぅ。皆の前の演説は疲れるのぅ」
肩を回してロアは台から降りて俺の側へやってくる。
「お疲れ」
「うむ」
そんな言葉を掛けてやると、ロアはにこりと笑った。
「くふふふ……胸踊るのぅ。ずっとこの日を待ち望んでおったのじゃ」
そうか、待ち望んでいたのか……正直俺は来なければ良かったって思ったけどな。
「では皆のもの……着替えに行くのじゃ」
その主な理由は、その着替えだよ。
はぁ……ほんっと、始まらなきゃ良かったのにな。
はい、ついに始まりました。
いやぁ……自分でも思います、ここまで来るのに長く掛かったなと……こんな筈じゃなかったんだけどなぁ。
今回も読んで頂きありがとうございました。




