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「来ないな」
「そうだね」
ロアとアヤネがマラソンを開始して暫く経った、俺とラキュは深く椅子に座って2人が帰って来るのを待っていた、大きな城下街の外周を一周するんだ、少し時間が掛かるだろう。
「しぃ坊、茶でも飲むか?」
「あぁ頼む」
そしたら鬼騎がティーカップを用意しそこに紅茶を入れてくれる。
「僕も頼めるかな?あっ紅茶じゃなくてトマトジュースね」
「自分で淹れろ」
「……随分な言いぐさだね」
ラキュの問い掛けを冷たくあしらった鬼騎、ラキュは鬼騎を強く睨みつける、あぁそんな事したら喧嘩が始まる……と思った時だ。
「鬼騎君、おかわりをくれないか?今度は砂糖3つで頼むよ」
「あっあぁ分かった、少しまっとけや」
座ったままヘッグが言った一言により喧嘩は治まる、今の感じ不覚にも格好良いと思ってしまった、って砂糖3つもいれるのか?甘くなりすぎるだろう……。
「…まぁ、喧嘩しなくて良かったと思っておくか」
そんな事を呟きほっと一息つく、そして淹れてくれた紅茶を飲む……暖かい、咥内に広がる甘味が丁度良くて良い、茶葉の旨みも良く出ていて最高だ。
「……仕方ない、自家製のトマトジュース持ってこよ」
そんな俺を見たラキュはそう言って消えてしまう……と思ったら直ぐに戻って来た、手にはトマトジュースが入ったボトルを持っている、あるなら初めから自分で出せば良いのに……と口に出したかったが止めておく、きっと言ったら新たな火種を生むだろうからな。
「淹れたぞ、冷めない内に飲め」
「ありがとう、クールに飲ませてもらうよ」
と、ここで鬼騎がヘッグに紅茶を渡す、それを受け取ったヘッグは足を組み飲む、それが格好良い飲み方……なんか思ったより普通だな。
「うん美味だね、実にクールだよ」
「そっそうか? 口にあって良かった」
爽やかな笑顔を鬼騎に向ける、恥ずかしそうに照れる鬼騎……本人は恐らく隠してるつもりなんだろう。
「所で……羊のお嬢さんはどこかな?」
そんな時だ、ヘッグがそんな事を言ってくる、そう言えば静かだと思ったらメェがいない、どこに行ったんだ?
と疑問を浮かべていると……。
「あぁ、メェさんなら2人が怪我するかもしれねぇからって医務室へ走ってたぞ?」
「そっそうなのか?」
いっ何時の間に行ったんだ? 俺は全く気がつかなかった……ずっと鬼騎の側にいる物だとばかり思ってたぞ。
「流石医者って感じだよな……わしはメェさんのそう言う所を尊敬するぜ」
「やたら薬の実験をしてくるのを直せば俺も尊敬するんだがな……」
苦笑いを浮かべてそんな事を言ってやると鬼騎は「多目に見てやってくれ」と言ってくる、その表情は俺と同じく苦笑いだ。
「やけにメェの事を推すんだね?余程好きなんだね……」
「はっはぁぁ!?」
らっラキュ!? またお前はそんな人を挑発する様な事を……そんな様子を見て「やれやれ」と言いたげに両手を広げるヘッグ、あぁ呆れてらっしゃる、まぁ俺も呆れてるんだけどな……。
「好きとかお前……めっめめっメェさんの事ははは……好きに決まっとるだろうが!?改めて言う事かこのシスコン!!」
「あぁはいはい、脳筋とメェは長い付き合いだもんね……そりゃ好きになるよね、だったら早く付き合えよヘタレ鬼」
ガタッと席を立って鬼騎に近付きがんを飛ばす……一方の鬼騎は妙に緊張している、悪戯に笑うラキュと顔をまっかにする鬼騎との言い合いが始まった。
「つっつつ付き合うぅぅぅ!ばっ馬鹿言え馬鹿!おまっそれ……まだ早いだろうが!」
「もう10年位の付き合いになるよね?もう行けるんじゃないかな?あれから何の進展もないよね?」
何か知らんが喧嘩? が始まってしまった……いやこれ喧嘩じゃなくてラキュは鬼騎をからかってるのか、全く良い性格してるなぁ、と言うかラキュと鬼騎って10年の付き合いなのか……知らなかった。
「しっしし進展位しとるわ!」
おっと……からかいからまさかの鬼騎の発言、気になるから真剣に聞いておこう。
「へぇどんな?」
挑発するかの様にラキュが聞く、すぅ……はぁ……と深呼吸して恥ずかしげに鬼騎は答える!
「そっそれは3日前の事だ……」
ごくりっーー
なんか、俺も緊張してしまって生唾を飲んでしまう、ヘッグの方を見てみると彼はニヒルな笑みを浮かべて鬼騎の話を聞いている、どうやらヘッグも気になる様だな……。
「朝、ちゅっ厨房へ行こうとした時……」
「した時?」
ラキュは強調して聞く、止めてやれ、只でさえ緊張してるんだから余計に緊張させてやるな。
「めっメェさんに会って……」
おっおぉ……朝にあったのか、それでどうなったんだ? 続きが気になって少し前のめりになって聞き入ってしまう俺……鬼騎は緊張で震える唇を何とか押さえ続きを答える。
「あっ挨拶された……以上だ」
ほぉ、挨拶されたのか…………えっ? 以上? 何かもっと話があるのかと思ったが以上か……えと言わせてもらって言いかな?
「あっ挨拶が進展か?」
「あっシルク君も思った? 10年でそれは無いよねぇ?」
俺の疑問ににやにやしながらラキュが言ってくる、ヘッグは「ははっ……」と失笑する。
「なっおまっ馬鹿!立派な進展だろうが!」
必死に叫ぶ鬼騎、もう緊張度がMAXだな……なんか悪いが見てて面白くなってきた
。
「いやいや違うから……手ぐらい繋ぎなよ」
とここですかさずラキュの悪戯な言葉、だから止めてやれって……鬼騎の奴恥ずかしがり過ぎて身体から湯気が出てるんだから……。
「てっ手ぇぇぇ!?手繋ぐとか難易度高過ぎだろうがぁぁ!」
……その鬼騎の言葉に皆は黙る、ラキュは急に目を閉じて「あぁ面白」と呟く、うん完全に遊んでるなこいつ。
「ふぅ、お薬やっと持ってこれたです……ってあれ?何してるですか?」
「ふぇぁっめっめめめっメェさん!?」
あっメェが戻って来た、手には薬箱を持っている、メェが来ただけでこんなリアクション取るのか……これじゃぁ進展なんてしないよな。
「やぁメェ、今鬼騎と遊んでた所だよ」
「そうなんですかぁ?メェも遊びたいですぅ」
「だってさ鬼騎、遊んでやりなよ」
無邪気に答えるメェと悪戯に答えるラキュ、これをデスコンボと言わずして何と言おうか、当然鬼騎の反応は……。
「えっあっ……うぅっあ……そのっえと……」
物凄く動揺し身体を震わす……身体中から大量の汗を長す……なんか終止が着かなくなってきた、ヘッグに助けを求めようにも「はっはっは」って小声で笑ってる……現実逃避しやがった。
こうなったら俺じゃぁ止められない……止められるとしたら方法は1つしかない。
「ロア、アヤネ、ヴァーム……早く戻ってきてくれ」
最早それしか方法は無かった、俺はそう思って目を瞑り現実から逃げる、すまん鬼騎、俺にはあの2人を止める事が出来ない……だから頑張ってくれ、今こそ勇気を出す時だ!
はい別視点でございます。
今回は鬼騎のヘタレっぷりを書いてみました!
俺も殆どあんな感じです、異性相手だと妙に緊張してしまうんですよね……。
今回も読んで頂きありがとうございました!
次回の投稿は9日の0時になります、是非お楽しみに!!