オモチャの使い方
あいつが私を「オモチャ」と呼び始めてから、私はあいつが嫌いになった。
あいつはいつも私で遊ぶ。
恥ずかしいこともやらされた。
でも、私は「嫌だ」と言い出せなかった。
何故なら、あいつは私の弱みを握って、脅してくるからだ。
ならば私があいつの弱みを握ってやろうと思って、
あいつの跡を追っていると、後ろから肩を叩かれて、
「何してるの?もしかして尾行ですか?」と、笑みを浮かべてあいつが言ってきた。
私はその時顔を赤くしていた。
「そういうことはやめてくれよ。雨笹さん。」
そう言い放つとあいつは帰って行った。
私は震える拳を強く握った。
すごく腹が立った。
むしろ弱みをさらに握られてしまったである。
やり場のない憤りを抱えて、家に向かって歩いた。
なぜかって?
今は、下校中です。
とぼとぼ夕日を見ながら帰り道を歩いていた。
烏の鳴き声がアスファルトに響く。
私は、早く帰って憤りを解消したかったので、木の茂っている林道へ足を踏み入れた。
太陽が木の葉によって隠れて、林道は暗かった。
その林道の中に、怪しい影があった。
それに気づいていない私は何も考えずに歩いていた。
瞬間。
首に腕を回され、口を塞がれた。
後ろを振り返ろうとするが、身動きが取れない。
聞こえる声から察するに、その男は30代くらいの大人だった。
私はその自分より明らかに身長差のある男からの支配に全身を使って抵抗した。
でも、その努力むなしく、それで男の支配から逃れることはできなかった。
「おーし。後で拘束して、イロイロしよう!」
男は私を林道の奥へと連れ込んで行った。
がっしりと私の首に腕を回す男。
しかし、男は突然腕を降ろした。
男に向かって突撃した一筋の影。
男は腹を抱えてうずくまっていた。
私は、男に突進したその影をしっかりと見つめた。
動揺してよく見えない。
でも。
心の優しい誰かが助けてくれた、ということは言われなくてもわかった。
「こんなところで、何してるの?雨笹三喜。」
――そうだと、よかったのに。
――私は目を疑った。
――いつも、この声で恥をかいた。
――この声で、腹が立ったこともあった。
――でも、今は、助けてくれた。
――私は、この声の主のことを知っていた。
私は声の主の名前を叫んだ。
「競屋 海!」
声を聞いて振り返る海。
「何?」
海はいたって冷静に言葉を返した。
「なんで、助けたの?」
思わず聞いてしまった。
しかし、海は躊躇いなく答えた。
「だってさ」
一呼吸おいて、海はつぶやいた。
「雨笹三喜は大事にしないと。使えるのに、もったいないじゃん?」
言い回しに腹が立ったが、少し思ったことがあった。
――ありがとう。