左手に剣(凶器)と右手に盾(狂気)
彩鳥は月曜と金曜が稽古の日となっており、他の日は基本的に自主練習という事になっている。火曜日は稽古場を閉じるため練習と言える練習は出来なくなってしまうが、他の日は任意で参加出来る。家が稽古場の俺としては火曜日以外は全て参加したいのだが、水曜日たる今日、そうもいかないかもしれない。
勿論、友達という名の未確認生物のせいである。
「根暗を治すのに一番の近道は何かって考えたのよ。そしたらやっぱり、誰かと遊ぶのが一番だって答えに行き着いたわ」
休み時間。いつもならば峰岸は決まった面子と談笑しているはずの時間に俺の元へ来て、そう言った。
名前は解らないのだが、峰岸の本当の友達であろう女子達が俺のほうを見て訝しげに何かを話し合っている。確かに、自分の友達がどこの馬の骨とも知れない根暗と話している場面を見てしまっては不安にもなるだろう。なにせあいつらは俺を病原体扱いし、同じクラスだったというだけで最悪とほざいたのだ。馬の骨どころの話ではないかもしれない。
峰岸は気にしていないようだが、俺は気にする。あの心配と敵意が混じった顔は苦手だ。俺が加害者になっているみたいでいたたまれなくなる。
「…………」
昨日は言葉を返す事が出来るようにはなったものの、今は峰岸以外の目もあるため、余計に喉が硬くなった。……他人……。
「しかたないから今日、あんたと遊んであげるわ」
怖い怖い怖い怖い。
何が怖いってこの恩着せがましい感じがとても怖い。後で何を請求されるのだろう。いや、恵に関する情報以外には有り得ないですけどね?
首を横に振る。が、峰岸も首を横に倒した。
「彩鳥って、今日は練習無いんでしょ?」
なんで知っているのだろうか。パンフレットとかには練習日なんて書いてませんよ?
「ならいいじゃない。私が付き合ってあげるって言ってるんだから、付き合いなさい。……か、勘違いしないでよね、あんたのためなんだからねっ」
はいはいテンプレみたいなツンデ…………ツンデレ?
「べ、別に、あんたと居れば偶然、恵さんと遭遇するかもなんて事、全く微塵も思ってないんだから!」
ああそうですか、それは良かった。俺と一緒に居たら確実に恵には会えないからな。俺のドッペルゲンガーでも現れない限り絶対に有り得ない。
……なんて安心出来るほど、峰岸は甘くない。正確には甘すぎるのだ。恵に会いたいわけじゃないと言ったすぐ後。「恵さん……ふへへ……」とかって気持ち悪い笑みを浮かべていたのだ。嘘を吐くなら吐き通して欲しい。
つまり、彼女の気持ち悪さはそこまで甘くないということである。
「あ、そうだ」
ふと思いついたように、峰岸は携帯電話は取り出した。
「アドレス交換しましょうよ。友達なんだから。友達なんだから」
大事なことだから二回言ったんですかね。
友達だからアドレスを交換する、という考え方ってどうなの、安直過ぎないだろうか、と思いつつ、俺はポケットに手を入れ、しかしふと考える。他人に俺の個人情報を教えるという行為が、自殺に匹敵する程の蛮行だと気付いたからだ。
「……携帯、持ってない」
周りの誰にも聞かれないよう、調度峰岸にだけ聞こえるように調整して喋る。これくらいの調整ならば得意だ。
「うっそ……まじで?」
驚愕を浮かべて青ざめる峰岸の目を一瞬だけ見てから、すぐ首を横に振った。
「信じられない……根暗過ぎて文明に置いてかれてるんじゃない!? 友達とか皆ラインやってるよ!? メールとかも知らないんだ!?」
携帯を持っていないと言っただけでそこまで批判しますかね。というか文明と根暗のどこに関連性があるのだろうか。ラインはともかくメールくらいならしますし……。そもそもラインってなに。
「仕方ない、メールを使っての恵さんへのアタックは一旦諦めるか……」
本音が漏れてますよ? え、アドレス交換は友達だからじゃなかったのか? これだから他人は怖い。何を考えてるのか解らない。
「そういうわけだから、放課後よろしく。昨日のバス停で待ち合わせね」
何事も無かったかのように切り替えてから自分の席、つまり元の人間関係へと戻って行く峰岸。そういうわけってどういうわけだよ。
向こうが向こうで会話を始めたのを確認すると、トイレに行くかのような素振りで立ち上がり、教室を出た。
廊下にてズボンのポケットから携帯電話を取り出し、安達先輩にメールを送る。
『すみません、今日は俺、自主練習に出られないので、他の皆にその旨を伝えて頂けますか』
返信はものの数秒で返ってきた。調度携帯をいじっているタイミングだったのだろうか。そうだろ? 学校で一日中ずっと携帯とにらめっこしてるわけじゃないよな?
『デートかああああ! ゆるすまじリア充!』
『違います』
『遺言はそれだけかっ! デートならあたしも連れて行け! デートじゃないならあたしを持っていけ!』
『デートではありません。連れて行けません。持ち運びも不可能です。すみません』
『ペットとしても無理なのか! 首輪着用でも無理か! なんなら犬コスしてやってもいいんだぞ、少・年!』
『余計に連れていけません。警察のお世話にはなりたくないので』
『大丈夫さ問題無い。痛いコスプレしてても公然猥褻にさえならなければ職質されないのだぜっ』経験談ですかね……。
『とりあえず、よろしくお願いします』
めんどくさくなったためメールを切った。今度から都合が着かない時は安達先輩では無く梶山さんか沢野さんに連絡しようかな。いや、あの二人も似たような感じか。
携帯電話をすぐさまブレザーのポケットに仕舞い、教室に戻る。とりあえず、今日も安心出来そうにない。
放課後、俺と峰岸は学校前の坂道を降りて少し歩いた場所にある商店街へと足を運んでいた。やけに辺りをきょろきょろしながら歩く峰岸はさながら獲物を探す肉食獣だ。ちなみに獲物は推定『恵』である。
「あんたも、恵さん見つけたら教えなさいよ。いきなり大きな声を出したら逃げちゃうかもしれないから、なるだけ自然に私に教えて。手を振るとか」
恵は天然記念物か人馴れしていない野良猫かなにかなのでしょうか……。とりあえず鏡を見つけた時に手を振ればいいか?
「というかあんた、その猫背なんとかしなさいよ。猫みたいな歩き方でみっともないわ」
かくいう貴女はジャッカルみたいな歩き方になっているわけですが。
「そもそもね、きょろきょろし過ぎなのよ、あんた」
タンスが壊れんばかりの勢いで棚に上げられてるよな、自分自身のことが。少なくとも今の峰岸には言われたくないものである。
「仕方ないだろ……」
なにせ商店街は他人で溢れかえっているのだから。
見られているような気がして怖い。しかし俺を見ている人間なんてどこにも居ない。真っ暗な箱の中に閉じ込められたのと大差なんて無い。
「しかたなくないわよ。鬱陶しいのよ、猫背できょろきょろされるの」
酷い言われようではあるものの、その感想こそまさに仕方ないものだったため反論はしなかった。変わりにほんの少しだけ背筋を伸ばすが、完全に正立しないのは言われるがままにはされまいとする小さなプライド故だ。
「少しは恵さんを見習いなさいよね。同じ劇団なんでしょうが」
どうやって自分を見習えというのだろうか、こいつは。
「恵さんは舞台の上ではあんなにも可愛らしくて、儚げでありながら堂々としていて、筋が通ってるみたいにかっこいいっていうのに、あんたは駄目駄目ね。根暗だし迷子になった小鳥みたいにいっつも怯えてるし、逃げてばっかりで骨が無いし、根暗だもの」
なんで根暗って二回言ったんだよ。というかどっちも俺なんですがね。もうね、こいつと話してると本当に俺と恵が違う人物なのではないかと思えてくるよ。
ついでに俺、軟体生物やら無脊椎動物じゃないよ?
「ああでも、舞台に立ってない時の恵さんって、結構シャイな感じだったのよねぇ……、あの時は本当に萌え死にしそうになったわ」
ものは言い様とはこのことか。劇の後に握手したあの時の事を言っているのなら、割と素である俺の人格が出てしまっていたと思うため、峰岸曰く根暗という人格に該当するはずだ。恵の姿なら根暗もシャイと見做されるのだとしたら理不尽だとしか思いようがない。
「あの時と言えば、そうあの時と言えばね!」興奮気味に、峰岸は俺へと向き直った「まだ握手したほうの手は洗ってないのよ! お風呂の時はちゃんとビニール袋を巻いてから入っているわ!」
自慢するようにその右手を見せ付けてくる峰岸。やめろ、それを俺に近づけるな!
「お花を摘む時とか、結構苦労してるのよ」
感慨深げに言っているところ悪いが、今、こいつはなんと言ったんだ?
「……花?」
摘むの? 峰岸が? ギャルたる峰岸が? 暴走乙女である峰岸が? そんなばかな。
「それでも、その苦労を買ってでも、恵さんと触れ合ったあの感触を忘れないためなら苦じゃないわ!」
ああ、脳内お花畑に咲き乱れた花を摘むんですね。自己処理ってやつですね。納得である。
「知っているかしら。恵さんの手って、思ってたよりも硬いのよ。まるで男の人の手みたいに。なんでだと思う?」
それは恵が男だからだと俺は思う。
そんな真実に微塵も気付いていない峰岸は自分の右手を抱くようにしながら言った。
「私はね、彼女が演劇一筋で生きてきたからだと思うの! ほら、職人の手って硬くなるっていうじゃない? 恵さんはもう、その域に達してしまっているのよ」
そんな事は無いと思う。
俺の、恵の演技はまだまだだ。まだ遥か彼方まで上があり、練習しなければ永遠に三下のまま。職人の域なんて地平線よりも遠くにある。形すら見えていない。職人だから手が硬いのではない。男だから。それ一択である。
そろそろ商店街が終わるというところまで歩くと、峰岸はようやく立ち止まった。
後ろ手を組んで俺を睨む。唇はいつも以上に小さく結ばれており、隠す気はないらしいあからさまな敵意に、思わず後ずさった。
「あんたさ、つまんなくない?」
それが人生の事を言っているにせよ今現在の事を言っているにせよ、つまらないなんてことはない。ただ、楽しくはない。という回答に限る。
他人は怖い。この商店街はいつもであればそそくさと早歩きして抜け出すような人ごみだ。こんなところには一秒だって居たくないというのが本音である。
ただ勘違いしてはいけないのは、俺はこいつのことが嫌いというわけではないということだ。苦手なだけである。あと、たまにムカつく。
「私はつまらない」
はっきりと言われた嫌味はしかし、大して気にすべきでもないものだった。
俺はこいつを愉しませたいわけじゃない。
「そういうわけだから、髪を切りましょうか」
…………。
「……はい?」
どういうわけですか? いや、まじで。
「前々から鬱陶しいと思ってたのよ。あんたとその前髪」
そういえば確かに、先週だかも「髪切ったら?」みたいな事を言われた気がするのだが……今こいつ、あんた「と」前髪が鬱陶しいと言ったのか?
じゃーん、と伸ばされた峰岸の腕。その先にあったのは、二千円カットの美容室だった。
「切ろうか」
切ろうか、じゃねぇよ。なににこやかに言ってんだよ。道理で商店街に入ってもどこも寄らないわけだよ。目的地ここかよ。
「いや、あの、その……」
切りたくないというか素顔は隠したいというか舞台では女役なので長いほうが良いというかカツラを引っ掛けるのにも多少は長いほうが便利と言いますか。
がし、っと掴まれる俺の腕。おい、その右手で俺に触るな!
拒絶反応で思わず後ろの飛びのいてしまうと、峰岸は驚いたような表情を浮かべていた。
「邪魔でしょ? あんたとその前髪」
邪魔じゃねぇよ! 俺もこの前髪も邪魔じゃない! 必死になって首を横に振るが、「さー行こー」と左手で襟を引っ張られる。その左手で俺に触……衛生的に左手なら大丈夫なのか。いやっ、全然大丈夫じゃない俺にとっては他人に触られるだけでも鳥肌物なのだ。
からんころん、と入り口を開けると同時に鐘の音が鳴る。それに反応した店員さんは「らっしゃーせー」と、フランクとも適当とも言いがたい歓迎をしてきた。
「この鬱陶しいやつの前髪を切ってやって下さい」
俺はお前に恨まれるようなことしましたかねぇ! どうして俺そのものが鬱陶しいみたいな言い方するんですかねぇあなたは! 言っておくが、友達協定の言いだしっぺはあんただぞ! いや、言わないけども!
「はいはーい」答えたのは、若い男の美容師さんだ「じゃあ、ここ座ってね」
切りたくないのだと言外に伝えるべく首を振りまくっていたら、美容師さんは何故か笑った。
「えと、姉弟かな? 弟さんは切りたくないみたいだね」
弟じゃねぇよ!
峰岸と血縁関係だなんてごめんこうむりたい。姉弟では無いと伝えるため、さらに首を横に振るが、
「ほら、首を横に振ってます。本当は切りたいみたいです」「あ、ほんとだね。じゃあ座って座って」
切りたくないみたいだね、に対して首を振ってたわけじゃないぞ!? なんで二人揃って都合の良いように解釈してるんだ! 打ち合わせでもしてたんじゃないのか!?
「いいからいいから。とにかくブレザー脱いで。お金は私が出してあげるから」
「おー、良いお姉さんだねー」
峰岸と美容師さんに、追いはぎよろしくブレザーを脱がされた。というか他人に二千円も出してもらうなんて出来るわけがない!
「こんだけ恩を着せれば恵さんを紹介する気になるでしょ……ふへへぇ」
おい峰岸、思考がだだ漏れだぞ。あとその笑顔は割りと本気で引く。少なくとも地上波に乗せようものならモザイクがかけられるレベルだ。
美容師さんは俺を椅子に座らせてすぐさまケープを被せてきて、峰岸は俺のブレザーを持って客待ちのほうへ撤退していく。
まじで? ねぇ、この空気、まじな空気?
「前髪カットだけなら五百円だから、安心してね。どんな前髪にしたいの?」
どうもしたくないです本当に。俺の義姉さんは沢野さんだけで充分だからほんと開放してほんとやめて。
「こんな前髪が良いんじゃない?」
横から飛び出してきた峰岸。手には開かれた雑誌が摘まれていた。客待ちに行ってたんじゃないのかよ。戻ってくるなよ。
「お、いいね、アシメいっちゃう?」
「行っちゃいます?」
いかないいかないいかない。
「おれ的にはこっちのほうがオススメだね」
「ほー、かっこいいです」
かっこいいのはモデルのほうだから! 俺がやっても空回りするだけだから!
「もしくはこっちなんかも」「あ、ちょっと待ってください」
何かを提案しようとしていた美容師さんを止めて、峰岸はずいっと、俺に顔を近付けて来た。
何事かと思い身を引こうとしたが、美容椅子のせいで体が倒れない。
すぐさま超至近距離に峰岸の顔が迫り、そして彼女は、俺の前髪を左手で持ち上げた。
ばっちりである。
ばっちり顔を見られました。
「っつ……っつ! っっっつ!」
声にならない悲鳴が上がる。顔中が熱くなってきた。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!
それでも峰岸はじぃと俺の顔を見つめる。
「あんた、もしかして……」
その顔に浮かんでいるのは驚愕であり、そして感嘆らしき色も伺えた。
「――けっこうかわいい……?」
ぎゃぁぁぁぁああああああああああああああああああ!
「ちょ、暴れんな! すみません美容師さん、こいつを縛る鎖とかってありますか!」
あるわけねぇだろ常識で考えろ!
「ロープならあるけど」なんでだよ!「ちょっと持ってくるね」
要らないから! 本っ当に要らないからそういうの!
だが、取り乱してしまったが常識で考えればこれらのやり取りが冗談であることくらいすぐに解るはずだ。まさか、美容院が本当に客を縛るわけがない。
――二分後。縛られました。
「じゃ、おねがいしまーす」
「はーい、任せてねー」
…………はい、そうね、まかせます。
るんるんスキップで、今度こそ客待ちへ戻っていく峰岸。去り際に「これで恵さんに一歩近付いた……」と呟いていたのを聞いてしまった時は、思わず戦慄した。未だにこれを恩だと思っているのか。だとしたら人格が破綻している。可及的速やかに距離を置かなければ……!
「じゃあ、切るね」
シャキシャキと鋏を鳴らす美容師さん。
はい、そうね、もうね、どうでもいいね。
――五分後。ぱっつんになりました。
どうでもよく、なかったですね……。
若いアイドルを真似した女子みたいな髪型に成り果てた自らの姿を鏡で見て、思わず陰鬱な溜息が出た。
「くぅあわいいぃぃっ!」
目を輝かせる峰岸。こいつから見て可愛い、というのが一般的感性と比較してどうであるかは知らないが、こいつ好みであることは間違いないだろう。何せ俺の顔がよく見えるようになってしまったことにより、俺はほんの僅かとはいえ、恵に近付いてしまったのだから。
「ほんと、男の子にこういうの言っちゃだめかもだけどね」美容師さんも驚いた表情で続く「制服じゃなかったら、性別間違えちゃうかも」
うん、間違えてる人、沢山居る。劇を見に来てくれた人とか、多分だけど皆が間違えてる。
「あんた、どうして今までその髪型にしなかったのよ! 勿体ない! 超もったいない!」
なんでって、それは勿論、俺が男だからである。
「しかたないわねー。こうなったらあれよ、あんたの顔とその前髪だけは認めてあげるわ」
胸を張ってるところ悪いのだが、何もかも認められないままでいいです……。
やけにご機嫌な峰岸は本当に前髪カット代を支払って、俺の背中を押すようにして店を出た。峰岸笑顔。超笑顔。そして俺は涙目。いやまじで……この髪型は確実に女向けスタイルだろ。
「あ、そうそう、ところでなんだけど」
ふと、峰岸がずっと持っていた俺のブレザーを旗のように振り出した。
「……これ、なぁに?」
峰岸笑顔。右手でブレザーを振り回し、左手には携帯電話(俺の)。開かれた液晶には『FROM・梶山。今日デートってまじ!? ベッドインしたら写メよろ!』破綻している……。
「……これ、なぁに?」
峰岸氏まじ笑顔。右手に黒旗。左手には爆弾発言。
「…………携帯電話です」
彼女からすれば、俺が持っていないはずの物である。
「……これ、なぁに?」
峰岸さん超笑顔。右手に黒いの。左手に爆弾。
「……えっと、アドレス、交換します……?」
条件を満たさないと抜け出せないループネタだろうか。遠心力を増していくあのブレザーで殴られたらとても痛そうだ。
「……これ、なぁに?」
峰岸様神笑顔。右手に凶器。左手に狂気。
「……ごめんなさい。アドレスを、コウカンしていただけタラ、とてもウレシイです」
ニンゲン。ウソ。ダメ。ゼッタイ。
寒気がするほどの笑顔と平行して俺のブレザーを振り回している峰岸と、不本意ながらアドレスを交換することになった。こいつからメールが来たら、何時であろうと寝ていたということにしよう、と心に誓った。