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学生ABC操縦適合者有栖川優狭山皐月両名と偽りの戦場

******



遠くの爆音が耳を打つ。


といってもこれは比喩表現であって、直接俺の耳に届いているわけではない。


ABCから、ぴっちりと体に張り付くパイロットスーツを通して、脳波として送られてくるだけだ。


二足歩行型兵器、Attack Blasts Cloak


通称、ABC


当初、特殊部隊の装備として開発されたパワードスーツは、時代に合わせて進化し、ついに全長3~6mの巨大兵器に姿を変えた。


こいつが女性にしか扱えないという理由・原因は機密情報らしく、一般人が知ることの出来る情報ではなく、世間にはまったく知られていない。


最初期に作られたパワードスーツとしてのABCは、脳波を読み取って動く機械だった。


このときは体への伝達神経を読み取って、体に追従するだけだったので、適正は不要。


特殊部隊に実験的に導入されて、ある程度は活躍したらしい。


しかし、信号の相互伝達を行えるようになってから、適性が必要になるようになった。


信号の相互伝達、というのは脳波を読み取るだけではなく、脳波をABCが人間に送るということもするということだ。


どうも、この外部からの信号の受容が、男性にはそもそも向かないらしい。


俺みたいなのは突然変異か何かなんだろう。


適切な訓練を受ければ誰にでも扱える、という兵器の基本的な原則を破った欠陥兵器を、各国はこぞって開発を進めている。


なぜなら単純に強いからだ。


ABCのシステムを使用した兵器と、使用しない兵器では、戦力に5倍から10倍の差が出る。


機体に装備されたセンサーで読み取った情報を脳で処理できるABCは、ほとんど生身の人間が鋼鉄の体を手に入れたに等しい。


人間の脳の圧倒的な柔軟さと、機械のパワーと反応速度を持った兵器。


俺が今操縦している国産ABC「黒燕(こくえん)」は、進化を続けた第六世代ABCだ。


さっき遠くに聞こえた爆音を頼りに、そっちに向かおうと考える。


必死で操縦桿を操り、フットペダルを目一杯踏み込んで、俺は黒燕を全力疾走させる。


脚部ローラーがギャリギャリと音を立てて、アスファルトの地面を削り、黒く重い機体を進ませる。


黒燕の本体重量は39t。


それに追加装甲と、両腕部にガントレットのように装着された20mm機関砲が2門、そして肩部に背負うように装着された40mm機関砲が2門。


これで54tにまで機体重量は増加していた。


なので、本来の黒燕に見られるような機敏な機動は無く、黒く重い機体をゴリゴリと引きずるような挙動で走行している。


振動のほとんどはコックピット周囲の衝撃吸収材が吸い込んでいるので、俺自身は快適なものではある。


クーラー効いてるし。


……コックピット狭いけど。


椅子に座った姿勢のまま、俺は操縦桿を握っている。


足元にはアクセルやブレーキのフットペダルがあり、左右には1本づつ操縦桿、目の前にはモニターが広がっている。


今、そのモニターには地図と、それに自分と味方の位置情報をオーバーレイしたものしか映っていない。


普通ならこの光景は異常だろう。


外が見えないなんていうのはありえない。


しかしABCパイロット適正のある人間にとってはこの限りではない。


パイロットスーツの腰から伸びる生体ケーブル、通称「シッポ」がABCに接続されていて、そこから外の情報を脳に取り入れているからだ。


外の情報は、装甲に内蔵された各種センサーが拾い集め、ABCがパイロットへ伝達する。


視覚、聴覚は当然として、触覚まで伝えてくれる。


味覚と嗅覚は必要ないので搭載されていない。


まあABCに乗っていて、カレーの味でも調べるなんて任務が出れば、その限りではなくなるのかもしれないが。


まあ、未だにそんな任務は出たとは聞かないので、気にしても仕方がない。


たぶん実現可能だとは思うけど。


そんな不要なことを考えている場合ではない。


気を取り直すように、俺は操縦桿を握り直した。


この操縦桿、実はほとんど意味が無いものである。


フットペダルもほとんど意味が無い。


なぜならこのフットペダルの中に入っているものはバネ、ネジ、以上だった。


操縦桿の中身もそんなものだ。


あ、まあ先端に赤いボタンがいくつか付いているか。


このコックピットのスイッチ類いのほとんどは飾りである。


つまり普通の人間……ABCパイロット適正の無い人間が乗り込んでも、この機体は一切動かすことはできない。


すべての操縦はパイロットスーツのシッポから行われている。


ちょうど指で輪を作ったくらいの太さの生体ケーブル。


これがすべてだ。


ABCへの命令系統が混乱しないように、わかりやすい目印として操縦桿とフットペダルと各種ボタン・スイッチは存在している。


ただ緊急脱出装置の類いは手動なので、もし不具合があっても心配はいらない。


脳から信号を送って、俺は黒燕を走らせる。


視界は良好。


俺の視界のコックピットと、黒燕の視界、2つの視界が見える。


黒燕の視界には、廃ビルが映っている。


以前は都会だったのだろう。


度重なる戦闘で破壊されたビル群は、所々崩壊しかかっていて、退廃的な雰囲気を放っている。


すかっと晴れた青空が、壊れた廃ビルの向こうに、対照的に広がっている。


黒燕は、かつて何台もの自動車が走っていたと思われる幹線道路を走っていた。


中央分離帯に生えている雑草も灰色に見えた。


『こちら皐月!応援願う!座標送るわ!』


不意に皐月から通信が入った。


脳波によって入る通信は、突然耳元で声を出されるようなもので、俺はなかなかこれに慣れない。


生身の、俺の肉体の方の視界に映るモニターに座標が映し出された。


「こちら優。了解した。敵の数は?」


ぐい、と操縦桿をひねって、脳波を送る。


それに反応して黒燕が機体全体を傾けるようにして、交差点を曲がった。


『敵は3機!今、何とか逃げてるけど、ちょっとやばい!』


皐月から続報が入る。


コックピットのモニターに映る地図上の位置が、皐月の状況を知らせてくれる。


「オーケー、次の角で東に曲がってそのまま直進。こっちまでおびき出してくれ」


『了解!簡単に言うじゃない……!』


俺は両側1車線の細い道路に身を潜めることにした。


くるりと回って、全高4mとは思わせないスムーズさで器用に腕も使って、黒燕は狭い通路に身を隠した。


地図を見れば、隠れてすぐに皐月のABCが曲がってきたようだった。


おそらく相手に隠れるところは見られなかっただろう。


「皐月!敵との距離は?」


『100mも無いかも!やばい!』


金属の虫の羽ばたきのようなブブブブブブブッ!!という機関砲の砲撃音が聞こえる。


モニターでは、あと1kmも無い。


あと700m、600m、500m、……


黒燕が俺の意思と連動して、肩部の40mm機関砲を駆動させる。


300m、200m、100m、……


目の前を皐月のABCと思われる国産ABC-s3「朱鶴(しゅかく)」が高速で通り過ぎる。


……ほとんど一瞬しか見えなかったが、後ろ向いてなかった?


前進と同じ速度で後退できるが、ABCの強みでもある。


センサーで視界を確保しているので、わざわざ振り返らなくても後ろが見えるからだ。


超電磁モーターに逆の電流を流せば、ローラーは逆回転する。


単純な仕組みだ。


俺は黒燕本体に付いている装置を確認する。


”返し”のついた槍を射出する、ワイヤーアンカー。


俺はそれを幹線道路の向こうの地面に射出する。


ガス式で射出されたアンカーは、空を切って進み、アスファルトの地面を穿つ。


ピンと張った頑丈な炭素ワイヤーに、朱鶴を追っていた3機が引っかかって転倒する。


3機にワイヤーを引かれて、俺の黒燕が細い道路から引き摺られる。


それと同時に黒燕が敵機のデータをモニターに出した。


ドイツのABC「ヴィルトシュヴァイン(イノシシ)」が2機。


イタリアのABC「チェンタウロ(ケンタウロス)」が1機


ヴィルトシュヴァインは装甲の硬い重量級ABCだ。


特に正面装甲は戦車砲を持って来なければならないとまで言われている。


チェンタウロはかなり機動力の高い機体だ。


格闘性能が高く、白兵戦を考えて製造されたとされている。


黒燕から表示される敵機のデータを見て、瞬時に標的に優先順位を設ける。


残弾数を確認して、すぐに細い道路から躍り出る。


敵との距離はそんなに無い。


黒燕の視界にオーバーレイ表示されるメーターは、50m以内を示していた。


「もらったああああ!!!!」


両腕を前に突き出して20mm機関砲の照準を合わせ、斉射。


肩部の40mm機関砲も、少し遅れて砲撃を加える。


音の洪水が起きた。


合計4門もの機関砲が一斉に火を吹き、壊れた両替機のように空薬莢がジャラジャラ飛び出る。


スロットマシーンで大当たりでも引いたかのような大洪水だ。


砲撃の反動で、肩と腕に痺れるような衝撃が走るが、それを微調整して照準を合わせる。


装甲を犠牲にして機動性を手にしていたチェンタウロが、一瞬で装甲を食い破られた。


左腕、両脚部、胸部を破壊され、コックピットを40mm徹甲弾が突き破る。


何発かの砲撃を食らいながらも、応射しようとした2機のヴィルトシュヴァインが足と腕を砕かれる。


激しく損傷したヴィルトシュヴァインは、一瞬だけ損傷箇所を抑えるような挙動を示した。


ABCパイロットはABCと神経的に繋がっている。


つまり自分のABCの脚部が砕かれるというのは、自分の両足が粉々に砕けるのと痛みは同じである。


だが、俺は攻撃の手を緩めない。


ありったけの弾丸を寝転がるヴィルトシュヴァインに叩きこんで、スクラップに変える。


穴だらけになったアスファルトに、スクラップになった3機のABCがあった。


1機1億ドルと言われるABC。


それが3機。


これで合計約3億ドルの損失だ。


「金はあるところにはあるんだよなあ」


そんなことを呟くと、通信が入ってきた。


『ありがと、助かったわ』


皐月の操る朱鶴がすーっと静かに近付いてきた。


朱鶴の装甲はほとんど剥げていた。


間一髪のところで回避していたのだろうが、ほとんど限界と言える。


「そのダメージ、大丈夫か?」


『結構やばいかも。出力が50%以上ダウンしてるし、弾も牽制で結構撃ったから残り少ないわ。片方動かないし』


朱鶴が右腕を上げて20mm機関砲を見せる。


数発食らったようだ。


おそらくさっきの3機の27mm機関砲だろう。


右腕にいくつか穴も開いている。


「痛みは?」


『慣れればカットできるみたい。最初は驚いたけど、今は何ともないわ』


『ビーッ!ビーッ!ビーッ!』


「!?」


突然、黒燕がアラートを鳴らした。


センサーで感知した感覚が、直感のように背筋に走る。


皐月の朱鶴も同じようにアラートを鳴らしたのだろう。


脳波に反応して、朱鶴がビクッと動いた。


反射的に操縦桿を引く。


脳波に反応して黒燕は飛び退り、廃墟の影に隠れる。


着地したときに足元のアスファルトが砕かれたのを足裏に感じた。


空を裂く音が聞こえる。


「皐月!避けろ!」


それからほんの一瞬遅れて、いくつもの砲撃が目の前に叩きつけられた。


熱風が機体を打つのが精神感応システムから脳に感じられる。


それだけでなく、直接的な振動がコクピットまで響いてきた。


さっきまで撃破した3機が転がっていた位置に着弾していた。


「皐月ぃいい!!」


しかし皐月は反応しない。


慌ててモニターのマップを見るが、機体の反応はない。


「……くそっ!」


俺は力任せにモニターを叩いた。


《叩くな》との警告がモニターに出るが、無視。


そんなことより、今のが何発も飛んでくるなら、俺の隠れている廃ビルもあっという間に壊れるだろう。


そう考えて、手元のスイッチでモーターへの電流の向きを逆に入れ、フットレバーを踏む。


意味は無いが、脳波を感知した黒燕が、俺の想像通りの処理を行う。


超電磁モーターが逆回転を始め、脚部ローラーがそれに連動、後退を始める。


直後、追撃とばかりに榴弾が降ってきた。


次の榴弾は、初弾から俺に向かって反対側に落ちた。


「……当てずっぽうか?」


俺は皐月がしていたように黒燕を後ろ向きに走らせて逃げる。


初弾も次弾も爆風が機体を打ったが、ダメージはさほど通っていない。


しかし熱いものは熱い。


しっかりと熱さも伝えてくれやがる黒燕に感謝しつつ、さらに速度を上げて後退する。


レーダーの類いでは、遮蔽物が多すぎてABCを捉えることはできない。


「となると、さっきの3機がやられたのを見て、撃ってきやがったな……」


軽く舌打ちをして、各種センサーの状態を確認する。


各部、問題は見当たらなかった。


運が良かった。


榴弾も止んで、青空は澄んでいるままだ。


「くそ……」


皐月がやられたことは、かなりの動揺に繋がっている。


ほぼ直上からの砲撃で、どちらから飛んできたものかはわからない。


「脳波が乱れています」という文字がモニターに映るが、無視。


脳波がモーターの回転数を上げるように訴える。


それに従って、黒燕は速度を上げる。


さっきの爆音を聞いて、敵が集まってくる可能性もある。


速度を上げたまま、細い1車線の道路を疾走する。


ABCから見れば、まるで路地のような狭さだ。


時折、ガリッと嫌な音がして装甲を壁に当ててしまう。


2機は通れないだろう。


黒燕の視界から、この道路が途切れるのが見えた。


敵がいる可能性を考えて、覚悟を決める。


全速力の勢いを殺さないように、俺はABCの腕を上げて、大きな道路に続く道の角に向ける。


黒燕は意思の通りにアンカーを射出。


アンカーは狙い通り、コンクリートへ深く突き刺さる。


アンカーから本体へ続く炭素ワイヤーがピンと張って機体を引っ張る。


ちょうどターザンやスパイダーマンのように、廃墟の角を短い振り子の軸にして、90度のカーブを見事にぐるんと曲がってみせる。


廃ビルの陰になって暗かったので、急に視界が開けて、視界が白に一瞬だけ染まる。


自動的に明度調整がされて、すぐに視界を取り戻す。


先には敵影。


白い流線形が目立つ機体。


腕部にガントレットのように丸く流線形のパーツがあり、右腕には20mm機関砲、左腕には30mm機関砲が1丁、それぞれ銃身が見えないように埋め込まれている。


そしてヘッド部分も白い流線形で、内側に各種センサーが埋め込まれていて、ぼんやりと赤や黄や青にセンサーが光るのが特徴だ。


スマートな外見で、デザインで言うなら最高と言ってもいい機体。


全高約4.5mフランス製のABC、スノウレオ。


黒燕より少し高い。


「おらあああああ!!!」


威嚇のつもりということではないが、感情が昂ぶり、自然と吠えてしまう。


角を回るために刺したアンカーを巻きとって回収。


その勢いを利用して腕を振り、回転。


敵機に正面を向いて、前傾姿勢をとる。


スノウレオを斜めに横切るように回避運動。


そんな突然現れた俺にも、敵はしっかりと対応してくる。


駆動音を拾っていたのかもしれない。


両腕をしっかりと俺に向け、計3丁の機関砲がこちらを捉える。


俺の駆る黒燕はそのままの勢いで横のビルに向かって速度を上げる。


スノウレオの機関砲が火を噴いた。


機関砲から放たれた凶悪な弾丸が、地面のアスファルトとビルのコンクリートを砕く。


数発の20mm機関砲の弾が黒燕の強固な装甲を掠るが、ダメージにはならない。


「そのまま潰れなさい!」


外部スピーカーで出したであろう敵の声が聞こえた。


俺はそのままビルに向かって速度を維持する。


しかしそのまま馬鹿みたいにビルに突っ込むわけじゃない。


ビルにぶつかりそうになる瞬間、両手をスノウレオよりかなり上に向けて、ワイヤーアンカーをビルの壁に打ち込む。


防御性を重視して追加した俺の黒燕の装甲の厚さは、スノウレオの装甲の優に2倍の厚さを誇る。


なので30mm機関砲でもすぐに風穴を開けることは不可能だった。


駆動系に当てることが出来れば止まるかもしれないが、時速80km以上で機動する黒燕の駆動部分を、同じく時速80km以上で動きながら狙い撃つ神業をできる人間はいない。


しかし、カスタムされた黒燕は鈍重である。


だがそれはABC同士で比べたらの話で、ABCの中でも鈍重な黒燕ですら、アンティークとは比較にならない運動性能を持つ。


そう、ビルの壁面を勢いに任せて駆け上がるくらいなら、黒燕でもできてしまうのだ。


ただしワイヤーアンカーを使った、ちょっとズルいやり方ではあるが。


軌道を予測して動かしていた機関砲が何もないアスファルトの地面を砕く。


「嘘っ!?」


思いもよらない黒燕の動きに、スノウレオの操縦者は驚愕し、甲高い叫び声を上げる。


それが俺の耳に届くのとほぼ同時に、両肩に装着されたABCにはやや大きすぎる40mm機関砲が火を噴き、スノウレオの装甲を食い破る。


スノウレオはパイロットの脳波に反応して、反射的に両腕をコクピット部分を守るようにクロスさせ、回避行動をとる。


流線形のフォルムが銃弾を少しは逸らせるが、焼け石に水だ。


俺はビル壁面を蹴り、宙を舞って、スノウレオを中心にした振り子のように空中を移動する。


その間もずっと40mm機関砲の斉射は続き、スノウレオは完全に沈黙した。


「うお!?」


重さに耐えられずに、打ち込んだアンカーが外れて、2mくらいの高さから落下した。


ギャリッ!と足の底部装甲が火花と削れる音を立て、脚部スプリングを猛烈に軋ませ、黒燕をスピンさせて、なんとか着地させる。


『ビビッ!ビビッ!』


着地後、アラートが鳴った。


脚部の異常を知らせるものだろうと思って、モニターを見るが、違った。


ロックされている。


ゾクリ、と背筋を悪寒が走る。


衝撃。


右足が爆発した。


爆炎で視界が染まる。


右脚部が吹き飛んだ。


跡形もなく。


「っぐ!?」


焼けるような痛みが右足に走る。


これが幻痛か、と思う余裕はあった。


あるはずのない部位が痛む。


センサー類が破壊され、それがショートすることで、異常数値の信号が神経系に叩き込まれる。


モニターがアラートで真っ赤に染まる。


脳が焼けるように右足が痛い。


視界が真っ赤なのは、モニターのせいなのか、血のせいなのか。


それもわからない。


思わず右足を両手で押さえる。


押さえてしまった。


まずい、と思った瞬間にはもう遅かった。


黒燕も強烈な脳波を読み取って、同じような挙動をとる。


結果的にバランスを崩して、黒燕は倒れこむ。


いい具合の(まと)の出来上がりだ。


「っ!」


慌てて左手を廃ビルに向けて、アンカーを撃つ。


ガスで撃ちだされたアンカーが、壁面に突き刺さる。


ワイヤーを巻き取って、機体を少しでも移動させようと足掻く。


しかし、今度は伸ばした左腕が撃ち抜かれた。


左腕の先端に着弾。


瞬間、爆発。


爆風が機体全体を打つ。


その衝撃、爆炎、爆熱、左腕が焼けて吹き飛ぶ感覚。


それが直接、脳にブチ込まれる。


「うわあああああ!!!」


俺の口から叫び声が出る。


もはや自分の意思とは関係なく、悲鳴にも似た叫び声は、蛇口を捻ったように溢れ出す。


残った右手で左肩を押さえる。


芋虫のようにコックピットでうずくまる。


丸くなってみて、自分の右足と左腕があることに気付く。


あるのだ。


右足も。


左腕も。


それに気付いた瞬間、ほんの少しだけ思考が冴えた。


混乱の渦中で、ほんの少しだけ、冷静になれた。


俺は右手は左肩を抑えつつも、意識を右肩に向けた。


右肩。


そこに装着されている40mm機関砲。


見えない敵の攻撃は何なのか。


それはすでに黒燕が答えを出していた。


120mm砲。


そしてレーザー信管を備えた対戦車榴弾だ。


対ABC狙撃装備。


目標は見えないが、黒燕が敵を感知してくれている。


その感覚に任せて、右肩の40mm機関砲を向けて撃つ。


無様に這いつくばりながらも、俺は、黒燕は、反撃を試みる。


衝撃でひっくり返りそうになるが、残った左足で器用に姿勢制御を行う。


頭部のセンサーがズームして、敵の姿を捉えた。


120mm対ABC狙撃砲を構える、イスラエル製ABC「ガヴリーエール」


直後、強い衝撃がコックピットを叩いた。


コックピット直撃。


即死だった。



******



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